第784話 帰りの馬車ではクレアと面談について話しました



「……すみません、できれば運ぶのが楽になる薬草を作って渡したかったんですけど」

「いやいや、そこはタクミ様も人に見られちゃいけない事ですから、仕方ないですよ。もちろんあれば助かりましたけど、結局ここまで持ってきましたから……あとは馬車に運び込むくらいです。まぁ、屋敷に到着したら、他の者に運ばせますよ」


 一応、薬草が渡せない事をフィリップさんに謝っておく。

 俺に問題ないと笑って応えるフィリップさんの表情は、少し疲れているようにも見えるけど、あとは馬車で運ぶから確かに大丈夫そうだ。

 ただ、護衛兵長という役職で実際に部下を持っているフィリップさんだけど、なんとなく屋敷に到着しても他の人に任せられず、自分で運ぶ事になるような気がするんだよなぁ。

 不幸属性とかではないと思うし、本人は飄々としている節があるんだが、どうにも面倒事を押し付けられる性質じゃないかと……頑張って下さい。



「デリアさんを連れて来たので、詳しく聞いていませんでしたけど……面談の方はどうでしたか?」

「そういえば、そっちは話していなかったっけ」


 ニャックの樽を荷物として馬車に乗せ、屋敷への帰り道で同乗しているクレアから尋ねられた。

 そっちの話は、デリアさんの事があったから、まだ詳しく話せてなかったな。


「人数が多かったし、話す事も多かったからメモだけ書いて後で見返そうと思っていたけど、それなりに良さそうな人がいた……かな?――ね、ミリナちゃん?」

「え、あ、はい。師匠の言う通りです。私の知っている人も何人かいましたが、それ以外にもちゃんと働けそうな人がいました!……多分」


 ミリナちゃん……そこで多分を付け加えないで……不安になるから。

 俺自身、初めての事でどう判断したらいいか、まだ考えがまとまっていない部分もあって、それを誤魔化すためにミリナちゃんへ振ったんだけど……間違えてしまったようだ。

 師匠と呼ばれているだけで、ミリナちゃんに何か教えているわけではないけど、ちょっと情けなかったかもしれない。


 ちなみに馬車には、俺とクレア以外にもミリナちゃんが乗っている……小さめの馬車じゃなく、扉が付いて数人が入れる部屋のようになっている馬車だ。

 その馬車の外では、機嫌の良さそうなレオがライラさんと一緒にリーザやティルラちゃん、シェリーを背中に乗せて走っている。

 ミリナちゃんは、今日一日ずっとライラさんの後ろで見本を見るようにして、付いて回っていたんだけど、なんでも正式にライラさんを雇う事が決まったので、近くで見て参考にするからだそうだ。

 本来の目的は、面談に来た人を見るためなので、俺と雇用希望者が話している時などは、ライラさんの隣でしきりにメモをしていたみたいだけど……後で見せてもらおう。


 それはともかく、ライラさんとミリナちゃんは違う担当にと考えていたんだけど、今はメイド見習いみたいなことをしているからなんだろう……ランジ村に行っている時に、ゲルダさんが近くにいてくれたらしいけど、お互い失敗続きだったらしい。

 屋敷に戻った後、話を聞いた時に思わず、最初から上手くいく人なんていないから、ゆっくり頑張ればいいんだと慰めたくらいだ。

 ライラさんとは違い、メイド長さんらしき人は厳しかったらしく、かなり落ち込んでいたから。


「そうですか。タクミさんの配下になる人ですからね、しっかり考えて選ばないといけませんね」

「配下……そ、そうだね。じっくり考えて、良さそうな人を選ぶよ。あ、クレアにも一度見てもらいたいかな? メモで悪いんだけど……」

「はい、もちろんです。私でよければ協力しますよ。一応、タクミさんの薬草畑ですが、私も共同でやっているという事になっていますからね」


 一応も何も、分担して共同運営となっているはずなのに、クレアの方は俺の下に付いたような気持ちなのかもしれない。

 元々、俺が雇うかどうかを選ぶ人員のリストに、自分の名前を潜り込ませるくらいだからなぁ。

 それはともかく、配下という言い方が少しクレアとか貴族らしい言い方だなぁと思いつつ、メモを取り出してクレアと一緒にどの人がいいかを相談しながら、屋敷へと向かった。

 もちろん、ミリナちゃんも一緒に、だな。


 俺としては、質問してきた人の中で広い視野を持っていそうな何人かと、畑仕事をしても苦にならなさそうな人に目星をつけているつもりだ。

 いい男がいるか、なんて聞いてきた女性に関しては……ちょっと判断が難しいな……誰彼構わず粉をかけるような人じゃないと思いたいが、そればっかりは少し話してた程度じゃわからないからなぁ。

 と思っていたら、メモを見て会話の内容を教えたクレアが、良さそうだとの意見をくれた。

 ミリナちゃんはちょっと訝し気だったんだけど、御者台からセバスチャンさんも会話内容の補足に加わり、より正確に女性の情報を得た事で、確信したらしい。


 うーん……俺やミリナちゃんはよくわからなかったんだけど、セバスチャンさんだけでなく、公爵家の関係者さん達が信頼するクレアの意見、なのかな?

 なんでも、仕事に直接関係ない事とはいえ、あぁいった場面で正直に言えるのは得難い資質なのだそうだ……仕事では空気を読んで発言しろ、と言われ続けていた俺にはよくわからない感覚かもしれない。

 ちなみに、わざとなのか天然なのかはともかく、そういう人は実際に言える相手かを見極めているらしく、俺や場の雰囲気を感じて発言したんだろうと、クレアは予想していた。

 本当にそうなのか、本人に今すぐ聞けないが、俺にはない視点なので信用してみたいと思う。



「「「「「お帰りなさいませ、皆様!!」」」」」


 今日の面談で会った人の話をしながら屋敷に戻って、いつも通り使用人さん達によるお迎えを受ける。

 予想通り、ニャックをフィリップさんが汗を掻きながら運ぶのを見た後、荷物を置くためにレオやリーザと一緒に部屋へ向かう。

 部屋へと向かう道すがら、クレアと話していた事を反芻している。

 俺が考えていなかった見方なども、クレアから聞いたのでかなり興味深い話が多かったなぁ。

 というより、根本の考え方が違うんだなと思わされた、といったところだろう――。


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