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第781話 クレアはニャックを欲しました
第781話 クレアはニャックを欲しました
「ふむ……食感が面白いですな。コリコリしている、とは違いますか……」
「そうね。弾力があって……でも、噛み切れない程でもないし、味というよりも食感を楽しむ物のようね」
「美味しいですよ姉様? 私は味も好きです」
「ワム……ワフ……」
「キャゥ……」
「ママとシェリーは、あんまり好きじゃないみたい。でも、私は好きだよパパ」
「そうか、リーザトティルラちゃんは気に入ったみたいだね。まぁ、レオとシェリーは、肉の方が好きそうだから仕方ないか」
デリアさんとカナートさんのやり取りを眺めつつ、樽からお皿に出されて提供された試食用のニャックを、皆で食べる。
セバスチャンさんとクレアは、味が好きというよりも食感が気に入った様子で、リーザとティルラちゃんは好みの味と……レオとシェリーは、人間の歯で噛むのと違うから、食感を楽しむ感じじゃないし、味も好みじゃないみたいであまりお気に召さないみたいだ。
他にも、ライラさんやフィリップさん達もそれぞれ食べて、感想を言い合ったりしている。
レオ達以外には、概ね好評なようだ……味というよりも、やっぱり食感や風味が楽しいう感想が多いか。
「キューン……」
「わかったわかった、後でソーセージを食べさせてやるから、今は我慢な?」
「ワフ!」
「キャゥ!」
ニャックでは物足りないのか、レオがソーセージが食べたいらしく、甘えた声を出す。
苦笑しながら、屋敷に戻ったらヘレーナさんに頼もうと思いながら、レオの体を撫でてソーセージを食べさせるのを約束する。
シェリーはソーセージも好きだが、好物という程ではないのに、一緒に鳴いていた……あぁ、肉が食べたいだけかな。
犬って雑食で肉食じゃないはずだが……フェンリルやシルバーフェンリルは肉の方が好みのようだ。
……マルチーズの頃から、レオは肉類の方が好んで食べていたっけか……この辺りはそれぞれの好みなんだろう。
「そうね……カナートさん?」
「は、はい。なんでしょうかクレアさま!」
ニャックを試食した後、クレアは何かを考えて決めたようで、デリアさんと話していたカナートさんに声をかけた。
公爵家の人と知って、声をかけられて体を緊張させるカナートさん。
「このニャックは、どれだけ保存しておけるの?」
「そ、そうですね……ここにあるのはすぐに食べられるように、一度火にかけてあるので、良くて数日と言ったところでしょうか。火にかける前の物なら、綺麗な水に浸けて一日に一度水を変えるくらいで、数十日保存できます」
「予想より保存できるのね。その火にかけていないニャックは、持って来ているの?」
「はい。今あるニャックが売れても、追加で売れるように持って来てあります。あちらです……」
「樽で五個くらいかしら……」
クレアさんの質問に、店の裏の方を示すカナートさん。
そちらには、店先に出している樽と同じ物が五個置いてあるのが見えた……あの中身全部ニャックなのか、結構大量にあるな。
「カナートおじさん、すぐ食べられるよう火にかけて売るのはいいけど、こんなに大量に……売れ残ったらどうするの?」
「いや、デリアが来ると聞いていたから、食べさせればいいと思っていたぞ?」
「だから、私にも食べられる限度があるのに……」
茹でているから、保存期間が短いのか……茹でているのは、店先に一抱え程もある大きさの樽で二つ。
結構みっちり入っているようだから、数人でも一日で食べられる量じゃないと思う。
茹でる前のニャックなら、それなりに長く保存できるから、あれだけの量があってもなんとかなるし、最悪村に持って帰った後にも食べられるか。
あ、店の脇の方に空になった樽が置いてあるから、一樽分は売れてるのか……だったら、保存期間中に売れるかもしれないし、カナートさんが大量に茹で過ぎたというわけじゃなさそうだな。
「それじゃあカナートさん、火にかけた方のニャックを一樽分と、保存用に火にかけていない方を全部買うわ」
「クレアお嬢様!?」
「「えぇ!?」」
保存できるから、それなりに多く買っても大丈夫そうかな……なんて考えていたら、ほぼ買い占めに近い量を頼むクレア。
「どうしたのセバスチャン、そんなに驚いて。カナートさんも驚いているわね?」
「クレアお嬢様、さすがに合計六樽というのは、いささか買い過ぎではないかと……」
「そう? でも長く保存できるようだし、屋敷の皆で食べれば余る事はないと思うわよ?」
「それは、そうですが……」
「ワフゥ……」
「キャゥ……」
そりゃ毎日多めに食べたり、使用人さん達にも食べられるようにしたら、人数が多いから六樽くらい簡単に消費できるだろうけど……いきなりそれは買い過ぎなんじゃないだろうか?
セバスチャンさんが驚くのも無理はない。
レオとシェリーは、ニャックがあまりお気に召さなかったので、クレアさんが大量に買う事で食事として出されると想像したみたいで、気落ちするように鳴いていた。
さすがにクレアも、食べる事を強要したりはしないだろうから、レオ達はソーセージや肉を食べられると思うぞ?
あと、デリアさんとカナートさんは、クレアの注文に驚いた声をあげたまま、固まって動かない……仲いいな。
「もちろん私も食べるわ。それに、タクミさんから先程教えられたのよ。少し食べるだけじゃなくて、継続するものだって」
いや、ダイエットは継続してやらないと、あまり効果がない……と言う意味でもあったんだけど……まさか、ニャックを食べ続けるという意味にとられるとは思わなかった。
ある意味、痩せたいが故の決意というか覚悟もあるのかもしれない、大袈裟かもだけど。
とはいえ、さすがにいきなり買い占めに近い注文をするなんて、久々にクレアのお嬢様発言が飛び出した……のかな? 前は仕立て屋での事だったけど。
とりあえず今日食べる分だけじゃなく、継続して数日以上食べる物を少し考えただけで買うと決意するのは、一般庶民じゃ中々できないと思う。
「それに、屋敷の使用人達だって、食べたいと思うに違いないわ。そうよね、ライラ?」
「はい、クレアお嬢様。私だけでなく、全使用人……セバスチャンさんは違うようなので、女性の使用人としましょうか。少なくとも、メイドの者達は食べたがるに違いないと思います」
セバスチャンさんを説得しようとするクレアが、ここでライラさんという援軍を獲得!
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