第762話 リーザの事情を説明しました



 デリアさんに、リーザからパパやママと呼ばれている理由を説明。

 最初にリーザと出会って育てていたのはレインドルフさんだが、結構な高齢だったようでリーザからはお爺ちゃんと呼ばれている。

 育ての親ではあるが、父親というには年齢が行き過ぎていたんだろう……リーザが小さいからそう感じたのかもしれないし、レインドルフさんがそう呼んでくれと言ったのかはわからないが。

 ともかく、俺やレオの事をパパやママと呼ぶのは、リーザ自身が親というのを求めているからだと考えている。

 あのくらいの年頃なんて親に甘えたい盛りだから、それも当然なんだろうが、偶然俺とレオ……一応エッケンハルトさんが助けた事で、自分に害をなす存在ではなく、助けてくれる存在であり、甘えさせてくれる存在かもという願望のようなものがあって、パパママと呼び始めたんだと思っている。


 まぁ、リーザを屋敷に連れ帰る時に突然言われたし、俺自身が子供を育てるという経験どころかまだ想像していなかった事だから、かなり驚いたんだけど。

 ともあれ、デリアさんにラクトスの街でリーザを見つけた時の事や、スラムで標的にされていた事、さらに保護して連れ帰る時に、パパと呼ばれ始めた事を説明する。

 途中、セバスチャンさんがソワソワしていたけど、初めてリーザと出会った時はセバスチャンさんはいなかったから、この事を説明するのは俺が最適だろう……自分がいなかった時の様子を、正しく説明できてしまったら、それはそれでセバスチャンさんが怖くなってしまうからな。

 ……あの人ならできてもおかしくないと思うけど。


「あ、あの子はそんな体験を……先程見た感じでは、明るく元気だったのに……」

「以前の事を完全に忘れたとか、何もなかったとまではリーザも考えていないと思います。ただ今は、周りに優しくされて、ようやく年齢相応の振る舞いができるようになったんだと思います」


 初めて会った時は、慣れないのに丁寧な言葉を話そうとしていたからな……ティルラちゃんはずっと丁寧な話し方をする子だが、あちらと違ってちゃんとした教育をされているわけでもないし、標的にされてイジメられてきた経験から、相手に失礼な事をして嫌われたりしないよう……いわば自己防衛のためにやっていたんだと思う。

 あの年頃の女の子が大人達に対して気を遣って、自己防衛しなきゃならないような状況、というのはどれだけ追い詰められていたのか……と思ってしまう。


「特に今は、俺やレオだけでなく、一緒に遊んでくれるティルラちゃんがいるから、救われている部分は大きいでしょうね」

「ティルラ本人は、近い年のリーザちゃんを見て妹ができたように思っているだけでしょうけど……」

「まぁ、それでいいんじゃないかな? 難しい事を考えるよりも、ただ楽しいから、ただ遊びたいからというだけで無邪気に遊んでいる方が、リーザとしても嬉しいと思うよ」


 子供って、大人が驚くくらい鋭い時があったり、打算的な考えを見抜いている時もあるからな。

 そういった考えでなく、単純に友人……ティルラちゃんとしては妹ができたみたいな感覚でも、それはリーザにとって、難しく考えずに接する事ができるのは、すごく嬉しい事なんだと思うから。


「そんな辛い思いをして……それは、タクミ様の事をパパと呼びたくもなりますね……」

「呼ばれた時は驚きましたけどね。まぁ、助けた事が大きかったんでしょうけど……」

「いえ、おそらくですが……タクミ様がそういうお考えをする方だと、家族としての温かさのようなものを感じたんだと思います。獣人は、そういった感覚が鋭いですから」

「……そうなんですか?」

「はい。私も他の獣人は知らないので、はっきりとは言えないのですけど……自分と接してくれる人の中で、あぁこの人は表面で優しい事を言っているだけだな……とか、この人は本心で心配してくれているんだな……なんて感じる事があります。全て感じた通り、というわけでもないのですけど、村の人達よりその感覚は優れているように思います」


 獣人は感覚が優れている……というのはなんとなくわかる話だ。

 人間とは違う部分として、考えてというよりも感覚で物事を判断する事が多いのではないか、というのはリーザやレオを見ていて感じる事が多いから。

 まぁ、レオは特別な気がしなくもないが。


「もしかすると、タクミさんやレオ様の優しさに触れて、リーザちゃんが感覚で悟ったのかもしれませんね。タクミさん達なら、自分を愛してくれると……」

「いやまぁ……そう、なんですかね……?」

「ふふふ、照れてらっしゃいますね?」


 デリアさんもそうだが、クレアからも優しいとか言われて、なんだか気恥ずかしい。

 苦笑しながら答えていると、クレアからクスクスと笑いながら指摘されてしまった……そんなにわかりやすかったかな? という反面、出会ってからそれなりに経っているから、見抜かれてしまうのも仕方ないかとも思う。

 それくらい見られていると思うと、なんだかさらに気恥ずかしくもなってしまうけど。


「そ、それより……デリアさんの方は、どうだったんですか?……えっと、言いにくいなら言わなくてもいいんですけど、村での様子とか……」

「気を遣って頂かなくても大丈夫です。確かに私は森で拾われましたけど、辛い過去というよりむしろ、幸せな過去だと思っていますから」


 とにかく恥ずかしさ誤魔化そうと、話を変えるため今度はデリアさんへと質問する。

 言葉を発した後に気付いたが、リーザと同じとは思わないけど、辛い過去とかだったら思い出させてしまうなぁと考え直す。

 とはいえ、デリアさんの方は特に気にしていないどころか、話す事に何も問題はないようで、尻尾を揺らしながら微笑んでいる様子は、確かに幸せな記憶を思い出している様子に見えた。


「私は、村の近くのフェンリルの森、そこの端で拾われました。まだ生まれてそこまで経っていなかったので、私にはその記憶はないのですけどね。物心ついた頃には、村のお爺ちゃんやお婆ちゃんに見守られながら、子供達に混じって走り回っていましたよ。働いている大人達は、日が落ちるまで村にいなかったので、お爺ちゃんやお婆ちゃんが子供達を見ている村だったんです……」



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