第751話 休日の事も質疑応答する必要があるようでした



「ありがとうございます。その……それだけ休日を頂けるというのは、働く者にとってはありがたいと思うのですが……その、そうすると、その分給金の方が減るのではありませんか?」

「その心配はもっともですね。ですけど、働く日数に関係なく、十分な給金を用意するよう考えています」


 時給とか固定給とかの考えがあるのかはともかく、働く日数が減るなら給金も減ると考えるのが普通か。

 日本でも、正規や非正規に拘わらず、基本的に勤務日数や勤務時間と給料は比例していたからな……完全固定給とかもあったけど。

 歩合制というのもあるけど、今回は採用していないので考える必要はあまりないかな。


「むしろ、休日を楽しく過ごして疲れを取り、仕事に励んで欲しいと考えています。繰り返しますが、給金の方は働く日数とは関係なく、十分に用意しますので安心して下さい。もちろん、信用できればですけど……」

「……わかりました。ありがとうございます」


 俺の言葉だけではまだ納得できなかったのか、セバスチャンさんの方をちらりと見る二十四番の男性。

 公爵家と関わりがあるおかげで、信用して頷いてくれたんだろうな……やっぱり、レオがいると言ってもここにいるわけではないし、よく知りもしない俺が信用してくれと言っても、説得力に乏しいか。

 俺も、さすがに見ず知らずの相手が十分に給金を用意するから、信用してくれと言われてもすぐに納得できないだろうから。

 信頼度という部分でも、公爵家にはお世話になっているなぁ……。


「はい、よろしいでしょうか?」

「えぇ。三番さん、どうぞ」

「ありがとうございます」


 段々と慣れてきた、手を上げた人の番号を言って、質問を促す手順。

 一番前の列に座っている三番さんは、周囲と同じようにざわついてもいたけど、基本的に俺の事をジッと見て見極めようとしているのが印象的な男性。

 中肉中背で健康そうな体は、俺より少し高い身長と短髪なのも相俟って活発そうにも見えるけど、鋭い目がこれまでそれなりな経験をしてきている事を窺わせた……年齢は、三十近いくらいかな? 顔に少しだけ刻まれた皺も、経験を裏付けているように見える。


「休日が増えるという事は、当然一人当たりの仕事量が減るという事でもあります。それだけ、仕事の量が多くないという事なのでしょうか? それとも、一人当たりの仕事量は通常の休日が少ない時と同じくある、という事なのでしょうか?」

「仕事量が減るという事はもっともですね。仕事に関しては手探りな部分もありますが、先程の説明でもあったように、領内に薬草や薬を行き渡らせるため、仕事量が少ないというのはあり得ないと考えています。もちろん、無理に仕事をさせる気はありませんので、一人当たりの量は働く日数相応にすると考えています」

「ですが、それだと仕事が滞ってしまうのではないでしょうか? 相応の人数で相応の日数、そして相応の仕事量をこなしてこそ、滞りなく運営されていると考えられますが……?」


 ふむ……この人は、ある程度経営というか、誰かを雇った経験とか部下を持った経験がありそうだな。

 絶対ではないけど、そういう経験がないとただ与えられた仕事をこなす事だけを考えたり、全体の仕事がスムーズに行われているか、仕事量や人数は適正なのか……なんて考える事は少ない、と思う。

 メモを取りながら、質問してきた三番の男性に答える内容を考えて、発言する。


「仕事量をこなすには、何も一人当たりの量を増やせばいいというわけではありませんよね? 貴方なら、おそらくほかの方法も考えられると思いますが……」

「一人の量を増やさず、多い仕事をこなす方法であれば……人を増やすくらいしか考えられませんが……?」

「その通りです。何も、この場に集まった人だけを雇うというわけではありません。この他にも、孤児院から雇う事も考えています。この街に住んでいる人ならわかると思いますが、孤児院は公爵家のおかげで運営が立ち行かない……という事は一切ありませんが、街の特性か、孤児で溢れそうになっています。雇用の創出というのが正しいかはわかりませんが、こちらで雇う事によって、孤児院に余裕を持たせ、新たな孤児を受け入れてもらおうと考えています」

「また、タクミ様は公爵家からも人を雇うよう考えております。まぁ、これはお忙しくなるタクミ様自身の世話役だったりもしますが。タクミ様以外にも、全体を見て管理する者も公爵家の者から出す予定になっています。つまり、公爵家の目もあるので、ここで言っている事を違えたり、給金を渡さないなどの不当な扱いをする場合には、公爵家に知るところとなります。……公爵家は、領民を公平に扱う事で信頼を得ていますので、当然取り締まりの対象になります」

「成る程……わかりました。公爵様方が保証されるという事なら、安心して働けると思います」


 俺が説明している内容をさらにセバスチャンさんがフォローをしてくれる。

 やっぱり、公爵家の信頼というのは絶大なんだなぁ……公平だからこそというのはもちろんあるんだろうけど。

 というか、やっぱり俺って忙しくなるの? ランジ村ではのんびり薬草作って暮らそう……なんて考えていたし、セバスチャンさんにも言ってあるんだけど……この場での方便のようなものだろう、と思っておこう、うん。

 

「はい、私からもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、九番さん」


 三番さんが椅子に座ると、今度は別の人の手が上がる。

 今度は、俺より若いけどミリナちゃんよりは年上と思われる……女子大生くらいの女性だ。

 セミロングにした髪は手入れが行き届いており、身だしなみも整えてあってきちんとしている印象だ。

 少々幼さの残る顔つきにも見えるが、いずれ美人になるだろうなと思わせる容姿で……まぁ、あまりジロジロ見たりしていると変に思われるかもしれないから、この辺りにしておこう。


「その、ランジ村では、いい男はいますか?」

「……は? えっと、聞き間違いかもしれないので、もう一度いいですか……?」

「ですから、いい男です。貴方もそれなりにいい男だとは思いますけど、公爵家と関わりを持っている人だと、私の手には余りますので……手頃な男がいないかなと」

「……セバスチャンさん?」

「このような質問が来るのは、いささか予想外でしたな……」



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