第750話 シルバーフェンリルはそれだけで説得力があるみたいでした



 ざわついている中、レオが村の子供達と遊んでいる光景を思い出しながら女性に問いかけると、シルバーフェンリルすら歓迎するという一点で納得した様子になった女性。

 俺やセバスチャンさんがあれこれ言うよりも、最強の魔物であっても……という部分が一番説得力があるのかも?

 さらにセバスチャンさんが付け加えたのは、もしかしたら従魔を連れている事があったらを考えての事だろうと思う。

 基本的に魔物に向かっていくような事は、兵士にでもならない限りないだろうし、出会ったら逃げるというのが通常らしいけど、絶対に魔物を従魔にする人がいないわけじゃないからな。


「魔物であっても……そうですか。それ程に外から来る者に対して歓迎してくれるのなら、私の心配も杞憂だと思えます。お答えいただき、ありがとうございました」


 まぁ、公爵家や俺とかレオが連れて来る人達相手なら、という注釈は付くんだけどな。

 ともあれ、今ここでランジ村で起こった事の説明をするわけにはいかないので、今はレオを使って杞憂とやらを払拭しておいてもらおう。

 女性は帽子を押さえながら、俺達に頭を下げた後、ゆっくりとまた椅子に座る……その頃には、シルバーフェンリルと聞いてざわついていた会場も、静かになっていた。

 元々レオの事は説明されていて、襲われたりする事はないと聞いていたからだろう、こういうところでも、公爵家への信頼が窺えるな。


 あと、最後に質問をした女性は、建物の入り口で転んだ時のような慌てた様子は見られず、ちゃんとした受け答えで落ち着いた雰囲気に感じられる。

 あの時は、急いでいたからだったんだろうか……? こうして見ていると、ゲルダさんのように何もない所で転ぶような人物には見えなかった。


「……では、他に質問はないようなので、以上で雇われた際の仕事や役割についての説明、質疑を終了いたします」

「「「「はい、ありがとうございました!!」」」」

「おおぅ……あ、えっと……どうも……」


 セバスチャンさんが宣言して礼をすると、座っていた人達から一斉に声が上がった。

 屋敷の使用人さん達が、見送りや出迎えをする際に声を揃えるのと似ていたが、身構えてすらなかったので思わず驚いて声を漏らしてしまった。

 すぐに取り繕うようにして俺も頭を下げた……変に思われてなければいいけど。

 公爵家と関係する面談だからだろうか、集まった人達が感謝を声にしたのは、わざわざ説明して下さった……とかそんな雰囲気だ。


 これがこの世界での標準な面接……じゃない、面談だと思わない方がいいのかもしれないな。

 とりあえず面談も終わったので、質問内容だったり誰が質問をしたのか、どういう説明をした時にどう反応したのかを、手元のリストにメモは残しているので、後は解散した後にじっくりと選ぶとするかな。

 そう考え、集まった人達が会場から出て行くのを待って……と思っていたら、礼をしていたセバスチャンさんが体を起こし、新たに宣言をした……。


「それでは次に、働くにあたっての仕事日数や休日に関しての説明に入ります」

「うぇ!?」

「……どうされましたか、タクミ様?」

「あ、いえ……もう終わったのかと気を抜いていたので……」

「仕事の内容だけでなく、日数に関しても大事な事ですからな。それに、タクミ様の考えは通常ではない体系となるので、ここで説明しておいた方が良いかと存じます」

「確かに……そうかもしれませんね」

「あと、給金に関してはまだ……」


 面談が終わったと気を抜いていたので、セバスチャンさんが説明を続けようとした事に驚いて、思わず声を上げてしまった……恥ずかしい。

 小さな声で、皆に聞こえないよう話して、確かに週休二日制のような事はここでは珍しい事だし、先に説明しておいた方がいいのだと納得したけども。

 あと、給金に関しては、まだ詳細を決めないといけないし、通常は雇う事が決まった相手に伝える事らしいので、この場では説明はしないと教えてもらった。

 雇う側は通常、大体平均的な給金を示すくらいで、雇われる側は伝えられた給金に頷くか首を振るかで、雇用契約が成立するか不成立になるか決まるらしい……ちょっとややこしいというか、先にお金を示して人を集めるような事はあまりしないみたいだ。


 この辺りは、募集をする際に給金の高さを前面に出して、価格競争のような事を起こさないためと、実際に人を雇った際に集めるために高い給金を示しておいたのに、実際には払えなくなってしまう事態を防ぐためだと、後でセバスチャンさんに説明してもらった。

 これの説明をする時、昔人集めのために高い給金を出す予定だったのに、結局多く払えなくて暴動が起こったとかなんとか説明するセバスチャンさんは、中々怖い表情をしていた。

 ……だって、暴動が起こって店主が雇った人達から襲われたとか、大きな商店が中にいた店主もろとも一日で更地に……なんて目をギラギラさせて語られたらからなぁ。

 そんな事がないよう、雇った人達が不満を溜め込まないために、頑張ろう……。


「では、タクミ様」

「はい。――えーと、働く日数に関しては、基本が五日間とします。その後二日の休日を過ごした後、再び五日間働く、という繰り返しで務めてもらおうと考えています」

「五日、そして二日間の休日……」


 セバスチャンさんに促されて説明すると、レオの事を聞いた時と同じように、にわかにざわつき始める会場内の人達。

 この事は教えられていなかったのか、部屋の隅にいるソルダンさんも手を止めて驚愕の表情をしている。

 まぁ、あの量の書類と日々格闘していて忙しいソルダンさんからすると、驚くのも当然なのかもしれない。


「すみません、少々よろしいでしょうか?」

「はい、二十四番さん。なんでしょうか?」


 誰かは必ずここで質問するだろうと考えていた予想通り、手が上がったので、手元のリストを見ながら番号を確認し、質問を促す。

 なんとなく、学校で手を上げた人を当てる教師になったような感じもするけど、呼び方が番号なのでちょっと微妙かもな。

 どちらかというと、軍とかの点呼をしているような気分の方が近いかもしれない、そんな経験ないけど――。


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