第741話 面接へ行く準備が整いました



 セバスチャンさんが言っている屋敷が若返りそうというのは、俺やクレアさんがランジ村へ連れて行く使用人さんを、この屋敷を維持管理するために新しく雇う事で、新人が多く入ると予想して言っているんだろう。

 いくら孤児院や他から雇うとしても、新人ばかりになると教育が大変だから気を付けると共に、まずは一旦セバスチャンさんに相談してから、どれだけ雇うかを決めよう。

 まぁ、セバスチャンさんの事だから、新人さんを教育するのも楽しそうにやってしまいそうではあるけど……説明とか存分にできるからな。

 とにかく、お世話になっているから今更ではあるけど、できるだけ迷惑をかけないようにしないとな。


「よし、薬草の方は全部作ったから、後は摘み取るだけだな」

「任せて下さい!」

「お手伝い致します!」

「ほっほっほ、若者達が元気に、そして威勢よく動いているのを見ると、私も若返るような気がしますな……」


 セバスチャンさんは、精神的には十分若いと思いますよ……俺やクレアを楽しそうにからかうくらいだし……なんて事を考えつつ、今まで以上に頑張ってくれそうなミリナちゃんとライラさんに手伝ってもらいながら、薬草作りを終わらせた。

 摘み取った薬草は、俺が『雑草栽培』を使って状態変化をさせ、販売用の他に一部は調合するためにミリナちゃんに渡す。

 薬草畑を始めたら、薬に関する調合は任せて欲しいからと、俺の手伝いを断って、ミリナちゃん一人調合をするつもりのようだ……一人でやるのは手間だし疲れるから、俺も手伝いたかったんだけど……まぁ、ライラさんがフォローしてくれるようなので任せる事にした。

 その後は、薬草を受け取りに来たニックにラクトス販売分を渡しつつ、昼食までリーザやレオと過ごし、夕食までの間で勉強を終えたティルラちゃんと剣の鍛錬。


 相変わらず、レオがシェリーを走らせていたが、大分痩せて来たのもあって以前ほどの厳しさはなくなっていた。

 あと、痩せたのと走り込みで身軽になったのか、シェリー自身が以前よりも楽しそうに走っていたのが印象深かったかな……この屋敷に来た頃は自分で走るよりも、レオに乗せてもらう事が多かったのになぁ。

 夕食後は素振りをして、今日は一人で寝られそうというティルラちゃんと別れ、リーザをライラさん達に風呂に入れてもらったり、俺も汗を流したりとして、気持ち早めに床へと就いた。

 明日は、面接をする日だからな……初めての事だが、面接官が目元に隈とか付けていたら恰好が付かないだろうし、ちゃんと休んでおこう――。



―――――――――――――――



 翌朝、少し早めに朝食を食べて、部屋に戻ってリーザやレオと準備をして玄関ホールへ。

 リーザはともかく、レオは準備らしい準備なんてないけど、気分は一緒に支度しているつもりらしい……楽しそうに尻尾を振っていた。


「タクミさん、本日はラクトスに集まった応募者達との面談ですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫かと聞かれると……あまり自信はないけど……まぁ、セバスチャンさん達が前もって調べてくれている人達だからね。変な人や怪しい人物はいないだろうし、なんとかなるかなと……」


 何せ初めて面接で相手を見る側だ……就職する前に面接する際の注意点や心構えなんかは、ある程度勉強して実際に面接に挑んだりはしたが、俺が人を見る側になるなんて以前では考えられなかった。

 当然ながら緊張はしているけど、リストで前もってどういう人達なのかを見れているので、安心感はある……時間のある時に目を通していたからな。

 あと、セバスチャンさん達が先に調べていてくれているので、邪な考えの人物は少ないだろうというのも、安心している理由の一つだ。


「それでは、準備ができたようなので、出発致しましょう。カレスには既に伝えておりますので、今頃子供達を集めている頃でしょうからなぁ」

「ははは、レオと楽しく遊んでくれればいいんですけどね」

「ワフ! ワウワウ?」

「もちろん、リーザも一緒にだな」

「……大丈夫かな、パパ?」

「大丈夫、レオもいてくれるしカレスさん達や他の人達も見てくれる。誰もリーザをイジメたりはしないから、安心して遊んで来るといい。友達ができるといいな?」

「……うん……うん! ママが一緒なら安心!」

「ワウー!」


 カレスさんには、セバスチャンさんからレオが行く事を伝えてあるので、以前と同じように子供達と遊んでおいてもらう段取りを整えてくれているはずだ。

 レオやリーザは、面接の会場には連れて行けないから、カレスさんの方で子供達の相手をする手はずになっている。

 リーザは、いっぱい子供が集まると教えたら、スラムにいた頃の事を思い出したのか、怖がっている様子ではあるけど、レオが近くにいるしカレスさん達もいるから問題は起こらないだろう。

 そもそも、リーザを標的にするよう仕向けていたディームは捕まえたし、集まる子供達はスラムの子じゃないからな……むしろリーザに友達ができる事に期待だ。


 しゃがんでリーザの視線に合わせながら、頭を撫でて笑いかけると、小さく頷いた後ようやく元気を取り戻して、いつもの笑顔になってくれた。

 隣ではレオが請け負うように鳴いてくれたので、何も心配はないだろう。


「タクミさん、リーザちゃん。それにレオ様。私もカレスの所で見ていますので、大丈夫ですよ」

「あれ? クレアは一緒に面談の方へ来ないんだ?」

「今回はタクミさんが雇う人達ですからね。それに私の方も、カレスと相談しておかなければいけませんし……」

「あー……そうですよね。わかりました、よろしくお願いします。――ほら、リーザも?」

「クレアお姉ちゃん、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくされました、ふふふ」

「私も一緒にいるので、大丈夫ですよー!」


 リーザ達と話していると、クレアから驚愕の事実を知らされる。

 いや……そこまでいう事はないのかもしれないけど……クレアも一緒に来るもんだと思っていたから、つい。

 人を見る目があるというクレアが、一緒にいてくれないのはいささか不安がよぎるけど、あちらはあちらで話しておかないといけない事もあるだろうし、仕方ないか。

 後で聞いたが、面接で俺が雇うと決めた人をクレアが見て助言を、という事になっているらしい……さすがに最初から全員をクレアが見るわけにはいかないから、という事らしい。


 とりあえず、リーザを見てくれているのなら、そちらはさらに安心だと、自分の湧き上がる不安は無視。

 さらに今回は、ラーレがいなくて寂しがらないようにとティルラちゃんも一緒に行くので、リーザの方には何も不安はないな……リーザの方には……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る