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第739話 起きたらクレアに謝られました
第739話 起きたらクレアに謝られました
「もう少し、見守るくらいでちょうどいいのかもしれないぞ?」
「ワウゥ……ワフワフ!」
ティルラちゃんだってやりたい事があるし、見ていれば責任感が強そうな事がわかる。
その辺りはクレアと姉妹というのも納得の一面なんだが、小さいなりにリーザという妹みたいな存在ができて、さらにラーレという従魔もできた。
ちょっと色々頑張りたい時期なんだろうと思って、過保護にならず見守るくらいがちょうどいいのかなと、レオに声をかけて、俺も寝るためにベッドへ横になった。
何やら、レオの方からは抗議するような声が聞こえた気がするが、構わず目を閉じる。
……俺も、リーザ相手に過保護気味で、レオの事を言えるわけじゃないのはわかってるから。
でも、リーザがいい子で可愛いんだから仕方ない……なんて、誰に言い訳しているのかわからない事を考えながら、就寝した。
親バカという自覚? もちろんあるに決まっている――。
―――――――――――――――
「タクミさん、昨夜はティルラがご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
翌朝、俺が朝の支度をしている時に部屋を訪ねてきたクレアが、入って来て開口一番の言葉。
俺の部屋に来る前に、ティルラちゃんはちゃんと言ってきたから、朝から探すという事はなかったようだけど、迷惑をかけてしまったと謝りに来てしまったみたいだ。
「大丈夫だよ、リーザも喜んでいたし、レオもほら……」
「ワフ、ワフ」
「昨日リーザやティルラちゃんと一緒に寝たから、ご機嫌みたいだからね」
今、リーザとティルラちゃんは仲良く顔を洗いに行っているけど、部屋に残っているレオは起きた時からご機嫌な事を示すように、ずっと尻尾が揺れている。
表情も心なしか嬉しそうだ。
考えてみれば、リーザはいつもベッドで寝ていてくっ付いて寝る事が少なかったから、レオとしても嬉しかったんだろうな。
「ありがとうございます、タクミさん。レオ様も。……それにしても、ティルラが少し羨ましいですね」
「羨ましい?」
俺だけでなくレオにもお礼を言ったクレアは、少しだけ顔を俯かせて呟いた。
レオにくっ付いて寝たのが、羨ましいんだろうか? あの毛は確かに気持ちいいだろうからなぁ。
「……いえ、なんでもありません。またいずれ、ランジ村に行く前のように皆で一緒に寝るのも、楽しそうですね」
「え、あ……はぁ……そう、だね?」
「ワフー」
はっきりと誤魔化されてしまった気がするが、とりあえず同意だけしておく。
ランジ村に行く前かぁ……あの時はライラさんもいて、俺としては色々大変ではあったんだけど、楽しくはあった……のかな、うん。
レオはミリナちゃんやティルラちゃんと一緒に寝たから、楽しかったことを思い出して、歓迎するように鳴いていた。
「ただいま戻りました。リーザちゃんも私もスッキリです。あ、姉様……」
「パパー、ママー。あ、クレアお姉ちゃん、おはようございます!」
「はい、おはよう、リーザちゃん。――ティルラ、あまりタクミさんに迷惑をかけてはいけないわよ?」
「はい……すみません……」
「おかえりリーザ、ティルラちゃん。気にしていないし、迷惑どころか楽しかったくらいだから、気にしなくていいんだよ」
「ワフ、ワフワフー」
クレアと話していると、顔を洗いに行っていたティルラちゃんとリーザが、元気よく部屋へと戻って来る。
ティルラちゃんはすぐにクレアが来ている事に気付いて、動きが止まった。
リーザは、俺とレオにちゃんと顔を洗って来た事を報告するように、笑顔で駆け寄りながら、途中でクレアに気付いて深々とお辞儀をしながら朝の挨拶……多分、ライラさんとかがお辞儀をするのを見て、覚えたんだろう、賢い子だなぁ。
挨拶を返しながら、ティルラちゃんにチクリと注意するクレアは、怒っている雰囲気ではないので一応言っておかないといけない……といった風なんだろう。
とりあえず俺も一応フォローしておいて、昨夜の話はおしまいにする。
「ティルラは、もう大丈夫のようですね。誰に似たのか、私やお父様には強がる事があるので、ラーレがいなくなって少し心配していましたが……私の所に来るのではないかと思って、シェリーと準備していたのですけどね」
誰に似たのかというと、確実にクレア……という言葉は口には出さないように気を付けよう。
ともあれ、クレアは姉だけあって、俺以上にティルラちゃんが寂しがっている事に気付いていたみたいで、ティルラちゃんが来てもいいように準備していたらしい。
リーザと一緒にレオに抱き着いているティルラちゃんは、昨夜のような様子は微塵もなくなり、寂しそうな表情をする事のなくなったのを見て、苦笑しながら言っているけど、言葉からは安心している様子が窺えた。
ほら、ティルラちゃん……やっぱりクレアに相談しても、ちゃんと笑わずにちゃんと受け止めてくれたみたいだよ? 言いにくかったんだから、仕方ないのかもしれないけどね。
「まぁ、家族相手だからこそ、言いたくない事ってあるからね。特にあのくらいの年頃だと……俺だけじゃなく、レオやリーザもいるから、こちらに相談してくれればなんとかなると思うよ」
「ありがとうございます、タクミさん。私もなんとなく経験がありますけど、難しい年頃なのでしょうね……」
ティルラちゃん達を見ながら心の中で言葉をかけつつ、難しい年頃だろうとクレアに言うと、何やら覚えがある様子。
クレアがティルラちゃんくらいの年頃と言うと、まだ初代当主様の話を聞いたりして、活発に過ごしていた頃かな? エッケンハルトさん、苦労したのかもなぁ。
そうして、レオとじゃれる女の子達を見ながら、しばらくクレアと話して朝食を頂くために食堂へ向かった――。
朝食の後は、裏庭を駆け回る機嫌のいいレオやリーザを見ながら、ミリナちゃんやライラさんに手伝ってもらいながら、簡易薬草畑で薬草を作る作業。
ちなみにティルラちゃんは、クレアに連れられてお勉強だ……頑張って。
その途中、またしてもセバスチャンさんが……。
「タクミ様、やはり使用人達がソワソワしておりましてな……?」
「……昨日は元気が良すぎてで、今日はソワソワですか?」
再び愚痴を言いに来たのか、背後から忍び寄ってきた……いや、忍び寄るは少し言い過ぎかもしれないけど、やっぱり気配を感じなかったんだよなぁ。
ライラさんやミリナちゃんなんて、悲鳴を上げそうなくらい驚いていたから、俺が気を抜き過ぎという事ではないはずだ――。
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