第738話 ティルラちゃんとリーザはレオの毛に包まれました



「……眠くなるまで、ここにいてもいいですか?」

「それはいいけど……な、リーザ、レオ?」

「うん、ティルラお姉ちゃんと一緒ー。えへへー」

「ワフワフ」


 寝付けないから、眠れるようになるまでここにいて寂しさを紛らわせたいんだろう。

 遠慮がちに言うティルラちゃんに答え、リーザとレオを窺うと、両方頷いて了承してくれた。

 リーザに至っては、ティルラちゃんにもう一度改めて抱き着いて嬉しそうだ……懐いている人が一緒にいてくれて、単純に嬉しいんだろう。

 この様子を見ていれば、リーザの反抗期はまだまだ先のような気がするが、女の子は早熟とも言うし……男の俺では対処できない事でも、ライラさんのように女性のメイドさんが近くにいるのは助かるだろうけど、実際にその時が来たらどうするか。

 っと、また脱線してしまった、本筋に戻ろう。


「でもティルラちゃん。本当はもっと違う事をお願いしたいんじゃない?」

「そうなの、ティルラお姉ちゃん?」

「ワフ?」

「……どうして、わかったんですか?」

「はははは、前にティルラちゃんみたいに言いづらそうにもじもじしてて、遠慮してた子を見た事があるからね」


 まだ日本にいた頃、レオを散歩に連れて行った時に、一緒に遊んでいたリーザくらいの女の子だったが……いわゆる鍵っ子で、自宅に帰っても誰もいないから、できるだけレオと一緒にいたがった子がいた。

 その子が最初、俺がレオを連れて帰ろうとすると、今のティルラちゃんのように言いづらそうにしてもじもじしていたからな……俺の方に時間があった時は、しばらくレオと遊ばせたままにしていたっけ。

 とは言っても、休日がろくに取れない仕事だったため、月に一度あるかないか程度だったけど……もう少し相手をしてあげれば良かったかなとも思うが、中々なぁ。

 ただ、最終的には向こうから「今日も時間があるだろうから、一緒にいてあげる!」なんてレオに向かって言っていたりと、強気な女の子の片鱗を見せていたから、多分大丈夫だろう……女の子は強かだ……強がっているだけとも取れるけどな。


「そうなんですね。えっと……」

「大丈夫、笑ったりしないから言ってみて?」

「……その、レオ様やリーザちゃんと、一緒に寝たい……です……」

「そうかぁ。うん、よく言えたね。ほら、リーザ、レオ?」

「うん! ティルラお姉ちゃんと一緒に寝る―!」

「ワウー!」

「いいんですか!?」


 予想はしていたけど、やっぱり誰かと一緒に寝た方が寂しさが紛れるだろうからな。

 眠くなっても、部屋まで戻る時にまた寂しくなったりする可能性もあるし、ティルラちゃんはレオやリーザと一緒にいた方が気分良く寝る事ができるだろう。

 リーザとレオをもう一度促すように呼ぶと、さらにくっ付いていた……さすがにレオは大きすぎるから、体を寄せた程度だが。

 思い切って言ってみたものの、すんなり許可が出るとは思わなかったのか、驚くティルラちゃん。


 ……俺が初めてランジ村に行く前は、部屋でレオと一緒に寝てたんだから、俺からすると何を今更くらいなものだ。

 まぁ、あの時はクレアやライラさんも一緒にいたけど。


「もちろん。リーザやレオも喜んでいるし、迷惑なんて事もないからね」 

「あ、ありがとうございます、タクミさん! ほんとにここに来て良かったです!」

「ははは、そこまで言うのはさすがに大袈裟だよ。あ、でもセバスチャンさんとか、使用人さんの誰かにはここに来るって言ってある?」

「もちろんです。ちゃんと言ってあります」

「それなら大丈夫だ」


 以前、俺がこの屋敷に来てすぐの頃、レオと会うために早朝からティルラちゃんが部屋に来ていた事があった……俺は気付かずに寝ていたんだけども。

 その時は病気が治ってすぐだったからというのもあっただろうが、様子を見に行ったセバスチャンさんとクレアが心配して探す、なんて事態になっていたらしいからなぁ……ちゃんと伝えて来たのなら、そんな事にはならないから大丈夫だろう。


「ふわ~……安心したら、眠くなりました……」

「ちょっと緊張していたのもあって、一気に眠気が来たのかもね。お、レオ?」

「ワウー。ワフワフ」


 今日は寂しさを我慢しなくていいとわかって、安心したんだろう、急に欠伸をしたティルラちゃんは、めをしょぼしょぼさせ始める。

 とりあえずベッドに横になってもらおうかな、と考えながらティルラちゃんに声をかけていると、レオがのっそりと体を動かして、リーザとティルラちゃんを一緒に包み込むように丸くなった。

 毛布や布団代わりになってくれるみたいだ……この方が、ティルラちゃんも安心できるかな?


「ふわぁ~、レオ様あったかいです……」

「ほんとだぁ、ふわふわで温かくて……ママ気持ちいい~」

「ありがとな、レオ。――それじゃ二人共、そうやってレオに包まれて寝るといいよ。いい夢が見られるかもしれないね?」

「は~い……わかり……ましたぁ……」

「うん、ママと一緒、ティルラお姉ちゃんと……一緒……むに……」

「ワウ?」

「寝つきがいいなぁ。それだけ、安心したんだろうけど」


 レオの毛に包まれた二人は、その気持ち良さに身を委ねるようにして、すぐに寝息を立て始めた。

 さすが子供というべきか……スイッチを切ったように一瞬で寝息を立て始め、そんな二人に対してレオが首を傾げていた。

 リーザもティルラちゃんも、レオに包まれて一人じゃないと実感できたんだろう。


「ワウー、ワフー」


 丸くなった自分の体の内側で、気持ち良さそうに寝る二人を見て、起こさないように小さく鼻歌を歌うように声を出して、尻尾を揺らすレオ。

 その視線は、リーザも見ていたけど……ティルラちゃんの方をよく見ているな……。


「レオ、ラーレにやきもちを焼くなよ?」

「ワフ!?……ワウゥ?」


 レオは、え!?……わかる? と声をかけた俺を窺うように視線を向けた。

 まぁ、時折ラーレに抱き着いていたり、じゃれ合っていたりするティルラちゃんを見ていたからなぁ。


「ちゃんと、レオの事もティルラちゃんは好きだから、安心するんだぞ? それに、今はラーレが従魔になって日が浅いからな。まだまだわからない事も多くて、ティルラちゃんが自分でやらなきゃと思う事も多いから、ラーレばかりになっているんだろう」

「……ワウ」



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