第727話 ラーレはまだ遊びたかったようでした



 気が付いたら、結構な時間長話をしていたようだ。

 ティルラちゃんやリーザは、難しい話が続いていたので寝てしまったんだろう。

 二人とシェリーを起こさないように気を付けながら、小声でレオにお礼を言うと、同じく小さく鳴いて頷いてくれた。


 その後、ライラさんがリーザをそっと抱き上げて部屋へと運び、ティルラちゃんは別のメイドさんが部屋へ寝かしに行ってくれた。

 寝入っていたらか、ティルラちゃんはしっかりとシェリーを抱き締めていたので、無理矢理離すと起こしてしまいそうだったため、今日は一緒に寝かせましょうとのクレアからの提案で、一緒に運ばれて行った。

 朝起きてシェリーが一緒なら、ティルラちゃんは喜びそうだ……シェリーは、気付いたらクレアの部屋ではない場所なので、驚くかもしれないけど。


「キィー……」  

「ラーレ?」

「キィ……」


 寝ているティルラちゃんを、ラーレが寂しそうな鳴き声を出しながら見送っていたので、声をかけるとこちらを向いたが、そこでもまた寂しそうに鳴く。

 俺はラーレと従魔契約をしていないから、何を言っているのかわからないが……レオが時折似たような雰囲気になる事があるので、何を考えているのかなんとなくわかる。

 さっきまで、寝ているティルラちゃんを優しそうな雰囲気で見ていたんだけどなぁ……鳥型だから、優しい眼差しかはわからないが、なんとなくそんな雰囲気だった。


「まぁ、ティルラちゃんも眠かっただけだから。明日になれば、また一緒に遊んでくれると思うぞ?」

「キィ。キィー」

「タクミさん、ラーレが何を言っているのかわかるんですか?」

「いや、わからないんだけどね。けど、なんとなく見た事のある雰囲気だったから、言いたい事はこうかなぁ……と。――な、レオ?」

「……ワウ」

「レオ様?」


 通訳を必要とせず、ちゃんと会話が成立しているような俺とラーレを見て、クレアから問いかけられる。

 実際にはなんて言っているのかはわからないけど……まだレオが小さかった頃、俺が学校なり仕事なりで出かける時、俺を見送るレオと似た雰囲気だったからな。

 ラーレは屋敷の中には入らないから、ティルラちゃんが自分から離れていくような気がしたんだろう。

 とりあえず、心当たりがあるだろ? と言うようにレオを呼ぶと、しらを切るようにそっぽを向いて鳴く……この反応は間違いなく、以前の事を覚えている反応だな。


 まぁ、寂しがっていた事が恥ずかしいんだろうけど、自宅で孤独になるのはレオだから、それは仕方ないと思うんだけどなぁ。

 クレアが首を傾げるのを見ながら、寂しい思いをさせてしまった事を謝るように、レオの体をガシガシと撫でておく。

 前のように、寂しい思いはさせないからな。


「とにかく、明日になればティルラちゃんも元気に、また遊べるだろうから、今は我慢だな」

「ワフ!」

「キ、キィ!」


 苦笑しながらラーレに声をかけると、追随するように我慢しろ! とレオが吠える。

 レオにまで言われたラーレは、片方の羽を上げて敬礼するような格好になりながら、了解しました! と訳されて聞こえてきそうな鳴き声を出していた。

 どちらにせよ、もう結構な時間だかティルラちゃんが起きていても、ラーレと遊んでいられる時間は少ないからな。

 それなら、明日にした方がいいだろうから。


「それではタクミさん、程々に……」

「うん、無理はしない程度に頑張るよ。そっちも、程々に」

「さすがに、本日は確認をするくらいにしておきますよ」

「……本当かしら?」

「はははは……」


 リーザ達が部屋へ運ばれてからは、素振りをするために俺とレオ、それとゲルダさんが裏庭に残る。

 クレアとセバスチャンさんは、さっきまで話していた事を話し合うようで、お互い程々にと言い合って屋敷の中へ戻るのを見送った。

 ……セバスチャンさん、何やら目が輝いてやる気に見えたから、遅くまで話し合う事にならなきゃいいけど……それは、クレアも同様なんだけどな。

 エッケンハルトさん程じゃないけど、クレアも最近は面白そうな事に食いつくような傾向が見えるから、のめり込んで寝不足にならなきゃいいけど……。


「ワフ!」

「あぁ、すまない。俺もさっさと素振りを終わらせて、寝ないとな」


 催促するようなレオの声に急かされ、剣を振り始める。

 レオは一緒にいてくれるが、リーザの事が気になるのかもしれないな……単純に、レオが眠たいだけかもしれないが。

 ともかく、日課になっている素振りを終えてレオを部屋まで連れて行き、リーザを見てくれていたライラさんと交代し、俺は風呂で汗を流す。

 昼間に馬車を曳いて走れたおかげか、風呂から上がって部屋に戻ると、気持ち良さそうに後ろ足を伸ばして寝ているレオの姿があった。


 屋敷の中だから何もないのは間違いないけど、完全にリラックスしているレオの様子に以前の記憶と込み上げる笑いを我慢しながら、湯冷めしないようベッドに潜り込む。

 ほんと、体は大きくなってもレオはレオなんだなぁ――。



――――――――――――――



 翌日、昨日は寝るのが早かったから、元気なリーザに起こされつつ、こちらも元気なティルラちゃんがラーレと遊ぶのを見守りながら、薬草畑の様子を見たり、ラクトスでそろそろ足りなくなるだろう薬草を作ったりをして過ごす。

 ついでに、薬酒用の薬草も忘れずにミリナちゃんへと渡し、調合をお願いしておくのも忘れない。

 ランジ村には持っていかなかったけど、いつの間にか屋敷の使用人さんまでもが飲むようになっていて、薬草が不足しそうだったため、多めに作っておいた……調合するミリナちゃんは、目を白黒させていたけど、今後の事を考えるとこれくらいはやり遂げますと言ってくれた。

 本当は、俺も手伝おうとしたんだが、ランジ村で薬草畑ができたらもっと多くの量を調合したり、他に薬を作ったりするかもと、予行練習のつもりなので、一人でやり切りますと言われてしまった。


 ちゃんと人を雇うから、その辺りは頑張り過ぎないようにして欲しいんだけど……まぁ、今はとりあえず任せる事にする。

 あとは、ラクトスの街以外にも薬草を持って行くために、日頃よく売れている物を中心に作って備蓄しておく。

 これは、薬草畑が作られてから販路を築くのでは遅いため、余裕を見て近くの村へと売り込みに行くためらしい……担当はクレアになるようだ。

 まぁ、『雑草栽培』を使ったら、通常ではありえない速度で薬草が増えるのだから、今のうちに動いておく必要があるんだろうな――。



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