第726話 最近は自分から意見を言えるようになってきました



 頭の中で考えていた事を、クレア達に話す。

 セバスチャンさんは馬は共用以外、個人で所有すると考えているようで、眉根を寄せて考えてはいるが、俺の言っている事がわからない様子だ……まぁ、遠回しに言っているから仕方ないか。

 クレアは、意外……というと失礼だけど、柔軟な考えをしているようで、なんとなく気付いているみたいだな。


「その通りです、クレアさん。馬を所有している人がいないのなら、こちらから貸し出してあげればいいんです。そうすれば、交換だけでなく貸出料ももらえて、多少なりとも費用を回収できるでしょう?」

「貸し出す……ではその駅馬の馬は、共用の馬と同じ扱い……だと?」

「似たようではありますが、違います。えっと……そうですね、例えばランジ村からラクトスへ向かう際、一つの駅馬を用意したとします。もちろん、ランジ村だけに限らず各街や村に駅馬用の馬を用意しておいて、ですね。その馬を借りてラクトスへ出発、途中の駅馬で交換して行けば移動時間を短縮できます。ここまではいいですね?」

「はい」

「えぇ、各街や村にも、というのは驚きですが……わかります」


 実際には全ての街や村にというわけにもいかないんだろうけど、とりあえず今はその辺りは省略しておこう。

 街や村に駅馬用の馬がいる事前提での話だな。


「ラクトスへ到着したら、ランジ村で借りていた馬をラクトスの担当箇所へと返却します。欲を言えば、ラクトスで用を済ませたその人が、帰りにもランジ村へ馬を借りて帰ってくれればいいんですけど、全てが全てそうとは限らないでしょう」

「ふむ……各場所へ多めに馬を配置しておいて、貸した馬は別の街へ……そして貸した場所では、別の場所から来た馬を管理、という事でしょうか?」

「はい。そうして循環できれば、一番いいんですけど……まぁ、これは全てが上手くいったらの仮定ですね。実際には、馬の数を調整する人が必要だと思います」


 俺が考えているのは、日本でみかけたレンタサイクルに近い考え方。

 この場合、貸すのが自転車じゃなくて馬だから、レンタルホースとかレンタホースと呼んだ方がいいのかな?

 まぁ、呼び方はなんでもいいけど、馬を所有しようとする、元の場所に帰さなくちゃいけないから、ハードルが高いんだ。

 だから、馬を借りて目的地に行くだけで終われる仕組みを作ればどうかな? と考えた。


「とはいえ、これは馬の数を多く集める必要がありますし、今までやっていない事なので管理にも注意が必要です。当然ながら費用がかさむので……さすがに実現は難しいですかね。それに、道中で魔物に襲われて馬がいなくなったり、持ち逃げされる可能性もありますから」

「いえ……確かに意見を聞かせて頂いて、すぐに思い浮かぶのは欠点です。ですが、面白い考え方だと思います……ふむ……」

「欠点は確かにタクミさんが言うように、色々とあるとは思いますが……これを実現させたら、領内の移動が活性化し、街や村の交流だけでなく、物の移動も活発に行われると考えられますね。――どう、セバスチャン?」


 思い付きで行ったこととはいえ、真剣に考えてくれる二人。

 何か欠点を打ち消すような事や、利点に繋げる方法があるのか、深く考え込むセバスチャンさん。

 さらにクレアも、移動時間の短縮から考えられる領内の活性化……なんて事も考えたようで、セバスチャンさんに期待の目を向けながら尋ねた。

 考え方として、これはどうかな? というだけで提案しているので、はっきり言って俺自身が問題点を解消できていない。


 当然ながら、以前の職場で思いついただけのこんな提案をしたら、上司から非難囂囂(ひなんごうごう)だっただろうが、クレア達ならそういう事はしないとわかっていたから。

 それに、もしかするとセバスチャンさん達なら、この案を使うなり参考にするなりで、いい方向へ考えられるかもしれないとも考えている……こんな事、以前の俺なら考えられなかったな。

 それに、欠点に目をつむっても利点が勝れば、それは有効な提案になる事だってあるのだから、この世界で活かせる可能性だってある。

 移動手段が限られているこの世界だからこそ、時間短縮をする事が大きく意味を持つのだから。


「欠点ばかり目立っていますので、まだはっきりした事は言えませんが……やりようによっては、利益につながるかもしれません。いえ……利益と言えなくとも、各街や村で人の往来が増えれば、領内の活性化に繋がり、結果として公爵家だけでなく民全体の利益になる可能性すらあります。タクミ様、この案ですが……提案されたままでなければいけませんか?」

「え? いえ……ただこういう事もできるかな、と思っただけなので……俺が言った案のままじゃないといけないわけではないですから。もし他にいい方法があるのなら、そちらを優先して構いません」

「ありがとうございます。少々、私共で考えさせていただきます。……これは旦那様にも相談せねばなりませんな……」


 うーむ……難しいと思っていたんだけど、何やらセバスチャンさん達の琴線に触れるものがあったらしい。

 クレアさんも乗り気なうえ、セバスチャンさんは本気でどうにかしようと思案している様子で、エッケンハルトさんにも相談する気のようだし、ここまで本腰を入れて考えてくれるとは思わなかった。

 ほんと、以前の職場とは違うんだなぁ……。


「くぅ……すぅ……」

「んぅ……」

「ん?」

「この声は……?」

「おや?」


 話が一段落したと思ったら、どこからか寝息のような声が聞こえてきた……というより、完全に寝息だろう。

 クレアやセバスチャンさんと顔を見合わせ、声が聞こえた方へ顔を向けると、そちらでは丸まったレオの体に包まれるようにして、リーザとティルラちゃんが仲良く寝ていた。

 よく見るとシェリーもティルラちゃんに抱かれて寝ているようだ。

 さっきまで、レオはお座りの体勢だったのに、いつの間にか伏せて丸まっていたのは、リーザ達が寝入ってしまっても、体が冷えないようになんだろう。


「少々長話をし過ぎてしまったようですね?」

「そのようですな。有意義な話に集中してしまっていましたが、考えてみればここは裏庭……このままではいけませんな」

「日も落ちて暗いですからね。レオがいるとはいえ、冷えて体を壊さないようにしないと。――レオ、ありがとうな」

「ワフ」



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