第710話 トフーを使ったサラダを作りました



「では、トフーをサラダに混ぜましょう。えーと、あまり多く使うと量が足りなくなりますかね?」

「そうですね……どれだけの量を使うのかわかりませんので……とにかく買ってあるトフーを全て出して来ましょう。セバスチャンさん、すみませんが手伝って頂けますか?」

「了解しました」

「俺も手伝い……行っちゃった。ヘレーナさん、料理の事になると生き生きするなぁ」


 混ぜるにしてもどれだけの量があるのかわからないからと、ヘレーナさんに聞いたら、さっさとセバスチャンさんを連れて取り出しに行ってしまった。

 早くトフーを使ったサラダを見たいんだろうなぁ……俺も手伝おうと思ったけど、セバスチャンさんがいるなら大丈夫そうだし、おとなしく待っておく事にする。

 大量過ぎれば別だけど、あまり重たい物じゃないだろうからな。


「タクミ様、こちらが買ってきたトフーです。一応、夕食分は賄えると見込んでいるのですが……」


 セバスチャンんさんとヘレーナさんが持って来たトフーは、一つの大きさはあるんだが、数はやっぱり少なかった。

 日本のスーパーとかで売っている一丁の、倍くらいの大きさの物が二十個以上といったところか……大量に食べるレオやフェンリル達に、使用人さん達の数を考えると、一人あたりには多く使えそうにないな。


「確かに、あまり多いとは言えませんね。これだと、そうですね……少し少なめに使えば、使用人さん達にも行き渡るでしょうか」

「え、いえ……私はタクミ様やお嬢様方、レオ様やフェンリル達にだけと考えていました」

「え……?」


 あぁそうか、ちょっと認識の違いがあったようだ。

 屋敷の料理長であるヘレーナさんからすると、クレア達が優先で自分達や使用人さん達に対しては優先順位が低いんだろう。

 特に、珍しい食材のトフーとなれば、使用人さん達ではなくクレア達にと考えるのが当然か。

 でもなぁ、日頃お世話になっている使用人さん達にも、好まれるかどうかは人によるとしても、できれば食べて欲しいと思うんだよなぁ。


「うーん、今回はトフーの使い方の例を示すとして、少な目にして皆が食べられるようにしましょう。そうした方が、また行商人さんが仕入れてラクトスへ来た時に、誰かが教えてくれるかもしれませんからね」

「私達は、お嬢様方やタクミ様達が美味しく食べて頂ければそれで……」


 ヘレーナさんの考えは料理人だからと思えば、わからなくもないけど、今回は少し打算も入っているから、皆にも食べてもらう事で押し通したい。

 屋敷の使用人さんだからって、常に屋敷にいるわけではないから、トフーを食べてもらって味を覚えてもらえれば、新しい食材にも興味を持ってもらえるかもしれないからだ。

 あと、美味しいと思ってもらえれば、屋敷以外で無意識にでも探して別の誰かが仕入れて来ていた際に、教えてくれるかもしれない……可能性は低いから、ほんとにちょっとした打算と、使用人さん達に食べてもらいたいという気持ちだな。

 ……料理を担当していない俺が言うのも、わがままなのかもしれないけども。


「まぁ、新しい食材を広めると思って、今回は皆で食べましょう」

「……畏まりました。それでは、トフーはどのように使いましょうか? 使う量は少なめですよね?」

「はい。まぁ、少ないのなら野菜を足して量を誤魔化してしまいましょう。えーと、それじゃ……器に入れて、ざっくりとでいいのでぐちゃぐちゃにしちゃって下さい」

「ぐちゃぐちゃに……? それは、いいのですか?」

「せっかく形が整っているのに、何やら悪い事をする気分になりますな……」

「まぁ、形を楽しむというのもあると思いますが、今回はサラダに混ぜてしまいましょう」


 形を楽しむにしても切らないと大きすぎるし、柔らかい物だから何かと混ぜたら形を保っていられないからな。


「ふむ、柔らかいので特に力は必要ありませんな」

「そうですね。これなら作業は誰にでもできそうです」

「適当にぐちゃぐちゃにしてしまったら、サラダと一緒に混ぜて、ドレッシングをかけたら完成です」

「混ぜて……と。ん……ほぉ、確かにこれはさっぱりとする気がします。これは食べやすいですな」

「特に味が大きく変わったというわけではありませんが、柔らかい食感がサラダと混ざって面白いですね」

「香りは……思ったより軽減されませんでしたけど、特に気にする程ではなくなりましたね」


 ヘレーナさん、セバスチャンさんと協力して、スプーンを使って適当にトフーを潰し、サラダの中に入れてかき混ぜる。

 さらにドレッシングをかけて完成した物を、三人で試食。

 通常のサラダだけでも十分に食べやすくて美味しいけど、トフーを混ぜた事でさらに食べやすくなったのは考えた通りだったんだが……香りに関しては思っていたよりも、ドレッシングの香りが強く残ったようだ。

 とはいえ、少しは緩和されたし気にするほどでもなかったし、大丈夫だろう。


 ヘレーナさんが注目している食感に関しては、あまりトフーのような物がないのか、珍しく感じるのかもしれないな。

 俺にとっては、慣れ親しんだ食感だが。


「リーザー!」

「何ー?」


 味や混ぜ方の確認をした後、ハンバーグを捏ねていたリーザを呼んで、サラダにトフーを混ぜる作業を任せる。

 生のミンチ肉を捏ねていたので、手を洗わせた後、器とスプーンを渡したら楽しそうにかき回し始めた。

 こちらは形を気にする必要がないためか、遠慮なく混ぜていたんだが……勢いが付き過ぎて、少しトフーがこぼれてしまったのはご愛嬌、といったところだろう。。

 今回は丁寧に作らなきゃいけない料理じゃないから、これくらい大雑把で問題ない。

 ヘレーナさんたけでなくセバスチャンさんも、微笑ましそうに作業を見ていてくれたしな。



「タクミさん、また新しい料理を作って下さったんですよね?」

「誰から……セバスチャンさんかぁ。ヘレーナさんが珍しい食材を買ってくれていたから、それを使って簡単な物を作ったよ」

「珍しい食材とは、どのような物なのですか?」


 楽しそうにするリーザに料理の手伝いを任せ、俺は先に裏庭へ出てレオやフェンリル達の様子を見に来た。

 もう屋敷には慣れたようで、俺やレオが近くにいなくても寂しがることはなくなったし、料理の手伝いが楽しそうだったからな……寂しくなんてないぞ?


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