第705話 レオの遠吠えがラーレに直撃しました



「ワフワフ」

「はいよ。ほらリーザ?」

「うん、わかったよママ。パパー!」

「おっと……もう少しゆっくり抱き着いてくれな?」

「はーい」


 レオがその場で伏せをして、俺とリーザに降りるように鳴いて促す。

 先に俺が降りてリーザに手を伸ばし、元気よく抱き着いて来るのを受け止める……元気なのはいいんだけど、もう少しゆっくり来てくれないと、俺の腰が危険でヤバイから、気を付けような?


 ワオォォォォォォン――! ガウワオォォォォォ――!


「キィー……」

「あ、ラーレに直撃したか……リーザ、行ってやってくれ」

「うん!」


 レオが空に顔を向け、叱りつけるように門の方にいる影に向かって遠吠えをする、さすがに空へ向かって吠えた事と、声の大きさは控えめなので今度は馬が驚いたりはしていない、馬も慣れるものなのかな?

 皆が驚いた事を、怒っているようだ……あ、向こうで複数あった影が一つになった、もしかしなくても、レオに怒られて怯えたため、体を寄せ合っているんだろうな。

 さらに、空へ向かってレオが吠えたため、声がラーレに直撃したらしく、ゆっくりと元気のない様子で地上におりて項垂れてしまった。

 ティルラちゃんは大丈夫だろうけど、リーザに頼んでラーレを怒ったわけじゃない事と、元気づけるために向かわせておく。


「ワフ、ワフー」

「あぁ、わかった。セバスチャンさん、先に行って話しておきます」

「はい、よろしくお願い致します。こちらは馬が走り出せるようになったら、すぐに向かいますので」


 御者台に座ったままのセバスチャンさんに声をかけつつ、再びレオに乗って、屋敷の門へ向かう事にする。

 来るのは構わないが、さすがに遠吠えをしたのは注意しないといけないからな……特にレオが言いたそうだし。


「やっぱり、フェンとリルルか……って、もう一体いる? それとなんでお腹を見せているんだ?」

「ワウ、ワウワウ」

「あぁ、そういう……」


 門に近付くにつれ、よく見えなかった影がはっきりと見えてくる。

 そこにいたのはシェリーの両親であり、餌付けをしてしまったに近いのか、一度屋敷に食べ物をおねだりに来た事もある二体のフェンリルと……もう一体フェンリルがいるな、家族とかかな?

 ともあれ、三体とも体を寄せ合った状態でお腹を見せ、完全に降伏のポーズを取っている。

 近寄りながら首を傾げる俺に、レオが応えるように鳴いた内容に寄れば、注意したから謝る代わりにという事のようだった。

 フェンリルが三体いるとはいえ、さすがはシルバーフェンリル、本能では絶対服従というのは間違いない事わかる、というのは以前森に行った時に確認していたっけか。


「久しぶりだな、フェン、リルル。それとそっちは?……あぁ、もう起き上がっていいから」

「ガウゥ……」

「ガウウ……」

「グルゥ……」

「ワウ! ガウ!」

「「「キャン!」」」


 お腹を見せているフェンやリルルの近くで、レオから降りながら声をかける。

 力なく鳴きながら、三体のフェンリルはレオの方に視線を向けて躊躇している様子だったのを、レオが一喝するように吠えると、甲高い悲鳴のような鳴き声を上げて起き上がり、お座りの体勢で項垂れた。

 項垂れたというよりは、頭を垂れたに近いかもしれないが、三体とも落ち込んでいる様子なので、反省を表現しているようにしか見えない。


「えーと、それでフェン、リルル、そっちのフェンリルは一体?」

「ガウゥ、ガウ、ガウガウ」

「グルゥ、グルル、グルウ!」

「すまん、レオ」

「ワフ。ワーフ、ワフワフ、ワウンワフ」


 フェンとリルルに問いかけると、まずフェンが事情を説明するように鳴き始め、それに続いて残り一体のフェンリルが唸るような声で鳴く……多分、自己紹介をしているんだろうけど、何を言っているかわからないな。

 リーザを連れて来ればよかったなぁと思いつつ、レオに通訳を頼む。

 えーと……なになに……このフェンリルは、森に棲むフェンやリルル達の群れの長で、シルバーフェンリルや人間と交流を持った事を聞いて、挨拶に来たと……。

 うーん、長として上位のシルバーフェンリルに挨拶をというのはわかる、公爵様であるエッケンハルトさんに、街や村の代表が挨拶に来るのに近いんだろう。


 それはともかく、歓迎する意味だったり、挨拶をするつもりでもいきなり遠吠えをするのは良くないな……。

 レオに慣れている人間はともかく、そうじゃない人や馬などの動物は驚いてしまうから。

 まぁ、今回の事はレオが注意して今後気を付けるとするか。


「とりあえずレオ、頼んだ」

「ワフ?」

「いや俺から言うより、レオから注意した方が効果がありそうだろ? でもまぁ、あまり怒り過ぎるのも良くないから、程々にな?」

「ワウ!――ガウ!」

「「「ワウゥ……」」」


 面倒な事……というわけではないが、俺の言葉は向こうに伝わっても、向こうからこちらに伝わる際にレオを介さなきゃいけないから、任せてしまおう。

 首を傾げるレオにお願いすると、頷いた後フェンリル達に顔を向け、顎をしゃくってこっちへ……と示して三体のフェンリルを連行して門の中へ入って行った。

 ……森から戻った時のラーレと、同じような感じだなぁ。


「はぁ、向こうはレオに任せるとして……大丈夫ですか?」

「た、タクミ様。申し訳ありません……」

「な、なんとか大丈夫です」


 レオを見送った後、後ろの方から馬車が近付いて来る音を聞きながら、屋敷の門にいた護衛さん達に立ち上がるよう手を貸しつつ、声をかける。

 こちらは、屋敷に残っていた護衛さん達だな……フェンリルの遠吠えを近くで聞いたうえ、レオの遠吠えも聞いたから、立っていられなかったみたいだ。

 フェンリルもそうだったけど、レオの遠吠えもなんというか、声だけでなく力がこもっているように感じたから、近くで聞いた護衛さん達がこうなるのも無理はないだろう。

 俺やリーザ、セバスチャンさん達は、レオが吠える前に心の準備ができていたのもあって、なんともなかったけど。


「タクミ様、どうでしたか?」

「セバスチャンさん。えぇと、フェンとリルルが来ていたみたいで……あと、群れのリーダーのフェンリルが、レオに挨拶に来たみたいですね」

「そうなのですか。だから、レオ様が戻って来るのを感じ取り、先程のように遠吠えのしたのでしょうか。それで、そのフェンリルは?」


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