第700話 子供達は穴掘りに夢中になりました



「ワフ! ワッフ!」

「私もママみたいに掘るー」

「リーザ、余りはしゃぎ過ぎて怪我をしないようになー?」

「はーい、パパ!」

「あ、私もやりますよ、リーザちゃん、レオ様!」

「キィ? キィー……」

「ティルラちゃんまで……楽しそうだけど、公爵家の娘さんに穴掘りなんてさせていいのかな?」

「レオ様もいるのだし、遊びの範疇だからな。楽しそうなのが一番だ。――ティルラも怪我には気を付けるのだぞ?」

「わかりました、父様!」

「キャゥー!」

「シェリーも一緒に掘るんですか? ほら、こうやって……って、私よりもレオ様を見た方がわかりやすいですね」


 レオが楽しそうに、別の場所でまた穴を掘り始めるのを見て、リーザやティルラちゃんも真似を初めて素手で穴を掘り始めた。

 女の子がそういう遊びでいいのかという疑問はあるが、楽しそうだから気にしないでおこう、エッケンハルトさんも同意見なようだしな。

 ラーレはくちばしを使えば穴を掘るくらいはできそうだが、あまりやる気はないらしく、レオと一緒にいるティルラちゃんを見て、少し寂しそうだったが……まぁ、後でしっかりティルラちゃんが構ってくれるだろう。

 皆が楽しそうに穴掘りを始め、シェリーも混ざろうと抱かれていたアンネさんの腕から飛び出し、ティルラちゃんの所へ……見本を見せようとしたらしいけど、体の作りが似ているレオを真似た方が上手くいきそうだ。


 さすがにアンネさんは、穴を掘ったりはしないようだが、楽しそうな皆を見て微笑んでいた。

 最近少しだけ、リーザやティルラちゃんを見て、お姉さんのような雰囲気を出す時があるように思うけど、それも屋敷へ来た影響があるのかもな、近くにクレアという見本がいるわけだし。


「うんうん、楽しそうなのは良い事だ。子供が無邪気に遊ぶ姿は微笑ましいな。クレアもそうだったが、時折困らせてくれたものだ。食卓に泥団子を乗せた皿を置かれて、『食べて!』と言われた時はどうしようかと……それに比べれば、穴掘りは可愛いものだな」

「お父様!? そんな昔の事を、今思い出さなくてもいいのではないですか? それも、タクミさんの前で……」

「ティルラもそうだが、クレアが小さかった頃の事は、忘れたりしないぞ? せめて持って来るだけで済ませて欲しかったが……」

「もう! お父様ったら!」


 クレア、わざわざお皿に載せたのか……泥団子を作って、自慢するようにして持って来るくらいなら想像できるが、さすがに食卓でお皿に載せられたら反応に困ってしまうのも無理はない。

 リーザに同じ事をされたらどうしよう……? さすがにレオでも泥団子は食べないし、なんとか誤魔化す方法を考えておかないといけないかもしれないな……。


「タクミさん、何を考えているのですか……?」

「いや、クレアから教えられて、リーザが同じ事をしたら、どうやってその場をしのごうかなと……」

「そんな事、リーザちゃんに教えません! タクミさんまで私をからかうんですね!?」

「ははは、クレアの反応が面白いから、ついつい」

「タクミ殿、もしそういった事があった場合の回避方法はだな……」

「お父様!」

「おっと、クレアに怒られてしまうので、今は言えないか」


 リーザが同じ事をするかはともかく、クレアは全力で反応してくれるので面白いというのは間違いない。

 ちょっとだけセバスチャンさんやエッケンハルトさんが、クレアをからかう気持ちがわかってしまったけど……嫌われる事はないだろうが、やり過ぎてもいけないので気を付けよう。

 笑っている俺に、エッケンハルトさんがコッソリ対処法を教えてくれようとしたが、クレアに見とがめられてしまったようだ。

 後で、ちゃんと聞いてその時に備えておこうかな……もちろん、クレアが教えたりはしないだろうけどな。


 セバスチャンさんとハンネスさんは、少し離れた場所で楽しく遊ぶリーザやティルラちゃん、クレアをからかって笑う俺やエッケンハルトさんを見て、朗らかに微笑んでいた。

 年齢が近い者同士、何やら波長が合うようだ。


「レオ―、あまり深く掘るなよー?」

「ワウー!」


 クレアさんをからかいつつも、しばらく穴掘りの様子を見ていたが、時折レオが調子に乗って穴を深めに掘ってしまう事があるようだったので、声をかけて注意をしていた。

 一メートルの深さでも十分危険はあるけど、人間が脱出できそうにない深さを掘ろうとしていたからな……もし誰かが、気付かないうちに落ちてしまったなんて事があったら大変だしなぁ。


「しかしタクミ殿? こうしてレオ様が穴を掘って埋めるを繰り返していると、この辺りを耕すのも楽になりそうだな?」

「全部ではありませんけど、そうですね。まぁこの辺りの土は柔らかそうなので、耕すのもそこまで苦労はなさそうですけど」


 あちこちに穴を量産し始めたレオ達を見て、首を傾げるエッケンハルトさん。

 耕すのと穴を掘るは違うが、それでも土が掘り返される事でその後畑にするのが少しだけ楽になるかもしれない。

 雨が降ってそんなに経っていないせいもあって、土は柔らかめだが、前もって掘り返しておいた方が畑にする時耕しやすいのは確かか……どれだけ影響があるかはともかくな。

 さすがに、レオもそこまで考えて穴を量産し始めたわけではないだろうけど……ちょっとだけ感謝だな、後で褒めておこう。

 ……考えてない、よね?



――――――――――――――



 薬草畑の運営に関する事や、ワイン作りの事を話してからの翌日、朝食を皆で食べてから本邸へと出発する、エッケンハルトさん達の見送りだ。

 エッケンハルトさんと一緒に、護衛が三人、さらにアンネさんが本邸へと向かう。

 ただ、馬車だと移動が遅い事や刺激が足りないなどの理由で、移動の行程は全て馬らしい……屋敷に来る時もそうだったが、アンネさんには頑張れと心の中でエールを送っておこう。


「では、タクミ殿、クレア、ティルラ、レオ様……また、だな」

「はい、お気をつけて」

「お父様、無事に本邸へ戻られますよう」

「はい、父様! お元気で!」

「うむ。今度は……そうだな、タクミ殿とクレアの新居ができた時にでも、祝いに来よう」

「お父様!?」


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