第699話 レオが楽しそうに穴掘りに励んでいました



 遊んでいたはずのレオ達が集まっている中、アンネさんだけは少し離れているみたいだけど、それでも興味深そうにレオの方を見ている……何かあるんだろうか?

 あとエッケンハルトさんは、レオに慣れるための荒療治を思い出したのか、恨めしい表情で俺を見ていたが……あれをやったのはクレアだったはず。

 屋敷へ最初に来た時は、俺が提案したし協力もしたけど……その後は満足そうだったし、根に持っているのは、例の店に乗り込んだ後にラクトスから屋敷へ戻る時、レオに乗せて疾走してもらった事だろう。


 あれは確か……俺やクレアには内緒で、セバスチャンさんと一緒に悪質な薬を売っていたウードを焚きつけ、俺に店の中で立ち回りをさせた事だったか……鍛錬の成果を見るためとか言っていたけど、クレアさんは怒っていたからな。

 とにかく、その表情は俺じゃなくクレアにして欲しいと思います、エッケンハルトさん……言い返されそうだからできないんでしょうけど。


「ちょっと行ってみましょうか」

「そうですね。話ももう終わりましたし……」

「では、先程の話の予定で進めさせて頂きます」

「そうだな。村長、よろしく頼むぞ?」

「はい、村のため、タクミ様のため、そして公爵領に暮らす者として、公爵様に貢献できるよう注力させて頂きます」

「……いや、そこまで意気込む事はないのだが……セバスチャンやタクミ殿がいれば、問題なくやってくれるだろう。クレアもいるのだからし……言い方を間違えたか?」


 まぁ、領地を治めている公爵様なのだから、ハンネスさんの意気込みというか反応は当然なのかもしれない。

 けど俺がいるからというのはともかく、クレアやセバスチャンさんと協力して頑張るつもりだから、ハンネスさんは頑張りすぎには注意して欲しいと思う。

 とにかく今は、レオ達の様子を見に行くか……また何か、ウルフをとか言っていたようにおかしな方向へ行きそうになっていたら、クレアと一緒に説得したらいいだろうから。



「ワフ……ワウー!」

「うわぁ、深いねママ!」

「レオ様凄いです! ラーレは掘れないんですか?」

「キィ? キィー!」

「空を飛ぶのと穴を掘るのは違うのですかぁ。成る程ー」

「キャゥ?」

「え、あぁ、シェリーも入りたいんですのね? どうぞ。……私は……入れそうにありませんか」

「……レオ、何をしているんだ?」

「ワウ? ワウーワウワウ!」


 話していた皆を連れて、何やらワイワイと楽しそうにしているレオ達の所へ来て声をかける。

 俺に振り返ったレオは、どこか誇らしげな表情だ……えっと、穴を掘った……だって?


「穴って……あーリーザが入っているのか」

「パパー、ママがね、ここは広いから穴を掘っても大丈夫だって! 凄いんだよ、すぐにリーザが入れる穴ができちゃったの!」

「レオ様は、魔法も使わないのに簡単に穴を掘っていましたよ!」

「そうかぁ……まぁ、楽しそうならいいんだが……レオ?」

「ワフ!? ワウワウ、ワフ!」

「いや、怒らないけどな? 広い場所があるから、別に穴を掘るくらいはしたっていいだろうし……ちゃんと後で埋めておくならだけど」


 お座りの体勢で、心なしか胸を張るようにしているレオの横から、皆が注目していた場所を見てみると、そこにはリーザがすっぽり入れるくらいの、幅一メートルくらいの穴が空いていた……この幅なら余裕がありそうだけど、尻尾があるから丁度良くハマっている感じだな。

 深さは……リーザの胸くらいだからこっちも一メートルくらいといったところだろう。

 リーザもティルラちゃんも、嬉しそうに報告してくれるけど、一体何のためにこんな穴を掘ったのか。

 そう思ってレオに声をかけたら、勘違いして怒られると思ったのか、首を振りながら言い訳をするように鳴いた……いや、怒るわけじゃないんだけどな?


「けどそうか……そういえば、こっちに来てから穴掘りはやってなかったな。存分に……とは言えないけど、少しくらいは大丈夫だろう」

「ワウー」


 俺から許可が出て、嬉しそうに鳴くレオ。

 とは言え、さすがに思いっきり掘るのは駄目だからな―? レオが調子に乗って掘ったらそこら中を穴だらけにしそうだし、人間が抜け出せないような深さに掘ったりもしそうだから危険だしな。

 あと、掘った後はちゃんと埋めるのを忘れないように、だ。


「レオ様は、以前から穴を掘る事が?」

「まぁ、癖というか習性みたいな事なんだと思うけど、何度かあったかな?」

「そうなのですね。シェリーも、時折部屋でいつも寝る場所を引っ掻いたりしていたので、なんでだろうと思っていました」

「レオも同じような事はしていたよ。落ち着かないのもあるんだろうけど、大体は寝床を確保というか、落ち着く場所を自分なりに作ろうとしているのが多いかな? まぁ、大体は失敗するんだけど……」

「……シェリーは、その後拗ねているような雰囲気で丸くなっていましたから、確かにタクミさんの言う通り失敗したんでしょうね。ふふ……」


 シェリーの失敗を思い出して笑うクレアを見ながら、小さかった頃のレオも同じような事があったなぁ……と思い出す。

 自宅で、クッション相手に前足で穴を掘る仕草をしたりして……最初はストレスかなとも思ったんだけど、散歩に連れて行った時にも近い事をやったりもしていたから、調べてみると巣穴作りをしている可能性もあるとかなんとか。

 ストレスも間違いじゃなかったり、犬種によって様々らしいけど、レオとしては寝床を整える意味があったんじゃないかと今では考えている。

 外敵に襲われないための巣穴だけど、室内犬は基本的に安全に慣れているから、寝やすい環境を整えているんじゃないかとな。

 さすがに、日本では道路で穴を掘る仕草をしても、アスファルトを掘ったりはできなかったが、よく行っていた公園では砂場で砂まみれになりながら、必死に掘っていた事もあったっけ……。


 この世界だとアスファルトはないし、畑の予定地は荒地ではないが短めの草が生えているだけの場所だし、掘りやすかったんだろう……体が大きくなって力も強くなったし、シルバーフェンリルの爪なら簡単にできるか。

 とりあえず、前回ランジ村に来る途中に遭遇した、トロルドを埋めるために魔法で穴を空けるのと同じ事じゃなくて良かったと、ひっそりと安心した。

 ……あれをやったら、大きすぎて皆穴の中に落ちてしまっただろうからなぁ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る