第696話 雇用の一部を活性化させる案が採用されました



 提案した事に関してだが、孤児院で見聞きした事や、知り合った人達からの話というのが大きい。

 リーザを孤児院に連れて行った時に聞いたのは、成人したら本来は働きに出ていずれ孤児院を出るはずなのに、ミリナちゃんのように孤児院に残ったままになっている人もいるうえ、子供の数が多くて空きがない状態だという事……まぁ、ミリナちゃんは自分がどう働くのか迷っていただけみたいだが。

 だったら、孤児院から雇う事ができればその時空いた場所に、別の困っている子供が入れる可能性が出るし、孤児院にも余裕が出るかもしれない……と考えたのは、マルク君やスラムにいた少年達を見たからでもある。

 スラムにいるから全員悪人というわけではないろうし、望んでそこにいるわけでもないのだから、孤児院に入ったり働く場所をどうにかしてあげれば、悪さをする人は減るんじゃないか、というのはニックから話を聞いて考えた事だな。


 だからと言って、さすがにスラムの子供や少年達をランジ村に連れて来て働かせようとか、自分で雇うというのは周囲も不安がってしまう可能性が高いから、公爵家で採用している孤児院からの雇い入れはどうかと考えた。

 孤児院はちゃんとした教育がされるようだし、スラムにいる子供を少しでもそちらへ入れるようにすれば、多少なりとも健全な方向にいくかも? くらいは考えていたが、さすがにスラムがあるという問題を解決しようとか、できるとまでは考えていなかったからな。


「屋敷に戻り次第、孤児院と連絡を取りたいと思います」

「うむ、そこらの事は任せた。タクミ殿と一緒に、滞りなく進めるのがいいだろう」

「はい。一度孤児院の方も見ておきたいので、セバスチャンさんと話しながら進めます」


 時間があれば、ランジ村に来る前に一度寄っておきたかったんだがな。

 エッケンハルトさん達と話す前に、アンナさんと話したり、働きに出られる人がいるかどうかを聞いたりだな。

 まぁ、できなかったものは仕方ないから、ランジ村から戻ったらセバスチャンさんと相談しながら取り掛かろう。


「……最初は、薬草を作るだけと考えていたんだが、大きな事業になってきたな」

「そうですなぁ。タクミ様からの提案で、領内が活性化されそうな予感がします。まだ全体に及ぶのは先でしょうが……薬草だけでなく、ランジ村のワインの改良案から、体にいい薬酒。さらには宿屋を作る事で村の発展を促進しながら、街で問題になっている雇用も潤滑に行おうとしています。絶対に上手くいくかはわかりませんし、これからやらねばならない事は増えるでしょうが……」

「そこは、私達も頑張らねばならんだろう。ラクトス周辺が活性化すれば、各貴族領での評判も上がる。公爵領でも他の街や村も刺激を受けるだろう。良い方向に行けばいい……ではなく、行かせるように仕向けなくてはな」


 エッケンハルトさん達にはお世話になっているし、ラクトスでもお世話になっている人達がいる。

 全員のためになるかはこれから次第ではあるけど、街やその周囲が活性化して喜んでくれるのなら、考えた甲斐があったと思う。

 とは言え、さすがに多少の雇用を生み出して、一つの村から特産品となる物を作りだしても、全てに波及するかどうかはわからないから、もっと他の事もやって行かないとな。

 あれ? 村で薬草を作りながら、のんびりレオやリーザと過ごしたいと思っていたんだけど……もしかしてさらに忙しくなるような予感?

 ……気のせいだよな、うん。


「ラクトスが要衝なのもあるけど、公爵領は国内でも影響力を持っているし、発展するのは喜ばしい事だよね。うんうん、僕はゆっくり皆が楽しく過ごしておくのを見ておこうかな」

「閣下、国からの決定は伝えたのですから、一度戻らねばなりません。他の者なら伝令を遣わせればいいのでしょうが……閣下はそれでは駄目でしょう?」

「あ~そうだった……僕からの連絡は、緊急の時以外直接伝える事にしてたんだ……面倒だなぁ、なんとかならない? まったく、誰だろうこんな面倒な事を決めたのは……」

「なんともなりません。閣下が決めたと聞いていますよ? 確か、国に入り込んだ他国の者が、閣下の名を騙って誤った情報を流したとか?」

「……はぁ。あの時は戦争を仕掛けられる事が多かったから、内部から混乱させようとか考えてたみたいだね。まぁ、僕からだと証明する方法を作る事もできるんだけど、それも面倒だね。仕方ない、一度戻ろう」

「はい、王家の方々も閣下のお戻りをお待ちになっているかと思います。あ、ですが、まずは伯爵……いえ、子爵領に寄って行かないといけません。バースラー元伯爵の代わりに、領地を運営するお触れを出しませんと」

「それもあったかぁ。仕方ない、さっさとそちらに行っておこう。んー……他の貴族領も見ておかないといけないか、今回の事で国内がざわつきそうだからね。全てじゃないけど、いくつか見て必要なら牽制しておかないと」

「そうですね。元伯爵のような者がいないとも限りません。遠回りにはなりますし、閣下と私で全てを見られるわけじゃありませんが……」

「それでも、噂くらいは拾えるからね。表立って動くよりも、有益な情報が得られる事もあるんだよ? 構えられたら、隠されるから。情報を集めて王家の誰かにぶん投げよう」

「……閣下が対応するのが一番早いのですけど……はぁ……」


 ルグレッタさんが溜め息を吐いて、ユートさんがこれからどうするか決まったようだ。

 エッケンハルトさんを見ていると、貴族は皆領民の事を考えているように見えるけど、人間は欲深い生き物だからね、国に反意をとまで考えていなくとも、私腹を肥やすために悪さをしていたり、領民を苦しませている貴族はいるのかもしれない。


「なんだか、どこかの副将軍みたいだなぁ」

「なんだっけそれ……?」

「えっと、時代劇だよ。あのお供を連れて悪さをしている代官とかを懲らしめるっていう……」

「あぁー! あったあった! 成る程、確かにそうだね。それじゃ、印籠の代わりに紋章を見せつけようかな。大立ち回りもしないとなぁ……」

「閣下が大立ち回り?……無理では? 魔法を使うのであれば別ですが」

「ひどい! 僕だって頑張っているんだからね!?」



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