第629話 新しいお茶が出てきました
皆の様子を見ると、女性の方が手で掴んで食べる事に抵抗があるように見える。
ティルラちゃんは怒られる方を気にしているようだから、ちょっと違うかもだが。
これはちょっと失敗したかな? もう少し食べやすい物にしたら良かった……少なくとも、ナイフやフォークを使って食べるような料理……ハンバーガーではなくハンバーグのままとか。
ハンバーガーもナイフで切り取って……という食べ方もできるだろうけど、パンが厚めな事もあって崩れないように切り分けるのは、ちょっと難しそうだ。
チーズのおかげで、具材とくっ付いているけど、切り分けようとしたらどうしても崩れてしまうだろうしな。
ふむ……あぁそうだ。
「すみません、ヘレーナさん」
「はい、なんでしょうか?」
「えっと……」
「畏まりました……」
ハンバーガーを食べた皆の様子が気になるのだろう、料理を運んできたまま近くにいたヘレーナさんに頼んで、至急ある物を持って来てもらう。
「ありがとうございます。えっと……これでこうして……はい、クレアさん。これで、ナイフやフォークを使っても、崩れたりしないですよ」
「クレアお嬢様、こちらを」
「ありがとうございます、タクミさん、ヘレーナ」
ヘレーナさんに持って来てもらったのは、竹串……ではなく細い木の串。
受け取ったそれを、ハンバーガーの真ん中からお皿に向かって突き刺す。
これで、ナイフで切り分けても、サレットはもかくハンバーグとパンが崩れるのを防いでくれるだろう。
クレアさんとアンネさん、それからティルラちゃんも受け取って、串を刺したハンバーガーを切り分け始めた。
一口サイズというには少々大きめだが、なんとか切り分けてパンとハンバーグを一緒にフォークで口へと運ぶ皆。
すぐに目を見開いて俺を見た。
「美味しいです、タクミさん、リーザちゃん!」
「凄い美味しいです! お肉が、ソーセージとは違うんですねー。それに柔らかいです」
「それは良かった。ソーセージと違うのは、捏ねて焼いてあるから以外にも、卵も入っているからだね」
アンネさんだけは、気に入ったのか黙々と切り分けて食べ始める事に集中しているが……それはともかく。
クレアさんとティルラちゃんが喜んでくれて、思わず俺も頬が緩む。
いや、懐かしい味もあって、元々緩んでいたか。
ハンバーグを捏ねる時に入れた卵、あれは合い挽き肉のつなぎであるのと、食感がふわっとして柔らかくなる効果もある……というのは、何かの受け売り。
「見た目はそうでもなかったが、食べてみると満足感は高いのだな。美味しかったぞ」
「喜んでもらえて、何よりです。パンもありますし、具材を一つにまとめていますからね」
「チーズと……ハンバーグでしたか? 二つが合わさって、とても美味しかったです。これは癖になりそうですね」
「私も作ったんだよー!」
「リーザちゃん、頑張ったわね」
ハンバーガーを食べ終え、皆が満足そうにしている。
パンやハンバーグが大きくてボリュームもあったし、一つにまとめて挟んでいるおかげで、第一印象よりは多く食べられなかったのだろう。
かくいう俺も、二個食べるのが限界だった……十分か。
あー、できればポテトも欲しかったけど、それはまた今度にしよう。
リーザが自分も頑張ったと主張し、クレアさんが目を細めて笑いながら褒めていた。
「旦那様、皆様、こちらタンポポ茶になります」
「うん? 聞き慣れない物だな?」
「タクミ様が作られた、新しいお茶になります」
「ほぉ、タクミ殿が? ……香ばしい香りがするな。いつものお茶とは随分違うようだ」
「タクミさん、これはどのような物で?」
満腹になり、食後の休憩になった頃合いを見計らって、セバスチャンさんや使用人さん達が、お茶を持って来てくれる。
それは俺が作った、タンポポの根で淹れられたお茶だった。
粉末にして渡していたから、早速試飲とばかりに作ってくれたんだろう。
俺が料理を作るのに、合わせてくれたのかもしれない。
カップに入っているのは、黒く澄んだ色の液体で、ほんのりとだが俺の知っているコーヒーよりも透明感がある。
エッケンハルトさんが言うように、香ばしい香りが漂っており、クレアさんやアンネさんも興味をそそられている様子だ。
いつものお茶とは違う色や香りに、前もって言っていなかった事もあって、驚いているみたいだな。
「えーと、タンポポという花があるんですけど……こちらでは、ダンデリーオンという呼び方ですね。まぁ、分類として雑草だろうと考えて試しに作ってみたら、成功しました」
「ふむ、それは『雑草栽培』でだな?」
「はい。そして、そのお茶は根を乾燥させて粉末にした物を使い、淹れた物となりますね」
「ダンデリーオン……どこかで聞いた事があるような気もします」
「私は、聞いた事がありませんわ」
「遠方の国では、そう呼ばれて見事な庭園となっている所もあるようです。タクミ様の『雑草栽培』で作られたという事は、人為的に作っているという事ではないようですな」
俺の『雑草栽培』には、作れる植物に制限がある。
まぁ、元々雑草というくらいだから、農作物とか人の手が入っている植物ができないくらいだけどな。
それで作る事ができたという事は、ダンデリーオンには人の手は入っていないという事だ。
その遠くの国で庭園になっているのも、環境が偶然あって多く繁殖した結果なんだろう。
名称は、クレアさん以外は聞いた事がない様子だった。
女性だから、花について興味があったり聞いた事や、書物で見かけた事があるのかもしれない……と言うと、花や植物に興味がある男性に怒られてしまうか。
それに、アンネさんも同じく女性だし……セバスチャンさんが近くにいるおかげで、広い知識が得られていると考えた方が良さそうだ。
「『雑草栽培』という事は、何か薬草としての効果があるのか?」
「うーん、効果が全くないとは言いませんが、他の薬草と同じように考えない方がいいかもしれません。ただいつも飲んでいる、お茶に含まれている物がないというくらいですね」
「ほぉ? その、含まれていないという物は、なんなのだ……?」
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