第630話 ダンデリーオンの説明をしました



「説明しますので、飲みながら聞いて下さい。えっとですね……」


 冷めないうちにと、ダンデリーオン茶を飲みながらエッケンハルトさん達への説明。

 カフェインという成分を言っても、ピンと来ないだろうからまずはダンデリーオン……タンポポに関する説明からだな。

 ダンデリーオンは漢方として使われたりもするが、他の薬草類のような効果を発揮する事はないだろう。

 それこそ、ラモギやロエのような効果がなさそうだというのは、確認している。

 根を粉末にしてセバスチャンさんに任せた後、『雑草栽培』の状態変化で花や葉、茎を変化させて食べてみたが、乾燥した程度でその時に体への変化は特になかった。

 薬草の本でも載っていなかったし、ダンデリーオンは俺が知っているタンポポと、変わらない物という事だろう。


 本自体が、薬草の全てを網羅しているわけではないだろうし、もしかしたら違う使用方法があるのかもしれないが、それはすぐに確認できる事じゃない。

 それこそ、漢方のように他の薬草と混ぜ合わせたら効果を発揮する……なんて事もあるかもしれないが、とりあえず今は薬草とは言えない雑草だな。

 ダンデリーオンには、今のところ薬草としての効果が認められない事を説明しつつ、カフェインの事を簡単に説明しておいた。

 カフェインは、用法を間違えなければ体にいい物だが、間違えると体に悪影響を及ぼす事もある。

 妊婦は摂取を控えた方がいい……というのは聞いた事があるしな。

 眠気覚ましや興奮作用があるため、寝る前は避けた方がいいという事は、一応説明した。

 カフェインを取らないようにではなく、いつものお茶にも利点はある事も含めてだな。


「ふむ、少々苦いか……だが、薬酒に比べれば問題にもならん。香りは特に気に入ったな」

「に、苦みくらい我慢できますわ。お、美味しいですわねー」

「私は……苦手です。我慢して飲めないわけではありませんが、好んで飲むほどでは……すみません、タクミさん。せっかく作って頂いたのに……」

「いえ、味に関しては好みが別れる物ですからね。いつも入れてくれているお茶と比べると、飲み慣れないせいもあって苦手に感じてもおかしくありません」

「うぇー……苦いよー」

「ワウ!」

「ありがとママー……んく、んく……」


 エッケンハルトさんは気に入り、アンネさんはやせ我慢して、クレアさんは正直に苦手……と。

 俺も一口頂いたが、考えていたより苦みが控えめで、他に何も入れていないはずなのにほんのりと甘みを感じた。

 ブラックコーヒーよりはよっぽど飲みやすいとは思うが、慣れない苦みなのもあって、苦手に感じるのも仕方ない。

 元々、全ての人が美味しいと言える味じゃないしな……癖になると、忘れられなくなるんだが。


 リーザの分も用意されていたので、俺を真似て飲んだがすぐに小さな舌を出して、苦みに拒否反応を示していた。

 見かねたレオが、自分が飲んでいた牛乳をリーザにあげる。

 それはいいんだが、入っているバケツみたいな器を傾けているとはいえ、レオと同じように顔を突っ込むのは……やっぱり、牛乳ひげどころか鼻にまで付けているな。


「んうーパパくすぐったいー」

「牛乳が付いていたから、仕方ないだろ?」


 リーザの顔に付いた牛乳を拭きとりながら、説明を再開。

 味については、もし興味あるなら牛乳を混ぜたり、砂糖を入れれば苦手な人でも飲めるだろう。

 牛乳はともかく、砂糖は安い物じゃないらしいから、頻繁に使ったりはできないだろうけど。

 そうして、飲み続ける事での効果の一つを説明した時点で、皆の感想がひっくり返った。


「タクミさん、タンポポ茶……いえ、ダンデリーオン茶、もっと作って下さい!」

「そうですわ! これは全ての女性の味方! 大量に作っておくべきですわ!」

「クレアさん……アンネさんも……」


 カフェインにもその効果はあるが、ダンデリーオン茶にも効果が期待できるものの中で、ダイエット効果があるという説明をした途端、クレアさんとアンネさんの二人が激しく反応。

 他にも、ライラさんはあまり表には出していないが、ソワソワしている様子だし、ゲルダさんや別のメイドさん達……この場にいるほぼ全ての女性が、キラキラと期待している目を向けていた。

 女性にとって、ダイエットが大事なのはわからないでもないけど、そんなに劇的な効果はないと思いますよ? 多く飲めばそれでいいわけではないし……。


「えっと、いつものお茶もそうなんですけど、大量に飲めばいいというわけではないんですよ。それに、多く飲んだらちょっと大変な事になりますからね」

「大変な事とは、なんだ?」

「あー、その……トイレが近くなります。場合によっては、一時間に何度も行かなければいけない程……ですかね」

「「!?」」


 利尿作用に関して、女性に説明するのは躊躇われたが、なぜかセバスチャンさんが俺を後押しするような視線を向けて来たので、仕方なく口に出した。

 いつもなら説明したがるのに、こういう時だけ……まったく。

 一時間に何度もというのは、大袈裟に言った事だが、利尿作用を甘く見ては痛い目に遭ってしまう。

 男ならそこまで気にしなくとも、女性にとっては……公衆トイレとか、絶対ないだろうし……。


 エッケンハルトさんは、その程度の事か……と呟いているが、やはり女性達には効果があったようで、ダイエットと聞いた時の勢いは一瞬でしぼんでしまっていた。

 まぁ、トイレが近くなると言って、それでも多く飲みたいと言うような強者はそうそういないか。


「とはいえ、それに関してはいつも飲んでいるお茶にもあるんです。結局飲み過ぎなければいいだけなので。痩せる効果を期待するのであれば、一日数杯飲む程度で大丈夫でしょう……劇的に変化する物でもないですし、それだけで確実に痩せると言えるわけではありません。そこを気を付けて下さい」

「……わかりましたわ。はぁ……やっぱり、簡単にはうまくいきませんのね……」

「でも、少しは効果が期待できるのですよね? 折角タクミさんが作って下さったのですし、これからも継続して飲ませて頂きます」

「無理はしないで下さいね? さっき言ったように、何かを混ぜる事で飲みやすくもなるので、それで。混ぜたからと言って、全ての効果がなくなるわけでもないですから」


 そうして、気に入ったエッケンハルトさん以外は、無理せず飲んでいくという事になった。

 具体的には、一日二杯から三杯程度で、それ以外はいつものお茶を飲む事。

 これは利尿作用というよりも、砂糖を混ぜると考えた時のコストを考えてだ。

 砂糖はここでは高級だしな。

 俺やエッケンハルトさんは、何かを混ぜなくてもそのまま飲めるから、問題はないだろう――。

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