第627話 ハンバーガーを運びました
「ほぉ、ミンチはほとんどがソーセージに使われますが、そのような使い方もできるのですなぁ」
「ソーセージ以外にも使うという事は、考えた事がありますが……ただ形を整えるという事ができませんでした。それを、卵や塩を加えてというのは、初めて見ました」
「数種類の肉だと、まとめて形になりづらいですからね。卵以外にも、混ぜて焼けば美味しくできると思います。まぁ、そこはヘレーナさん達がどうやるか……ですね?」
「……タクミ様から教えて頂いた料理、ありがたく使わせて頂きます!」
「ははは、そこまで大した料理法でもないですよ……」
興味深そうにハンバーガーを見ているセバスチャンさんに対し、軽く説明。
ヘレーナさんも近い発想になった事があったみたいだが、何かを混ぜるというところまで考えられなかったみたいだ。
というか、合い挽き肉を形作るのに、卵をつなぎに入れるとは全く知らなかったら、考えに至らなくても仕方ないか。
ともあれ、俺が知っている限りのやり方は教えたので、これから色々とアレンジされるのが楽しみだな。
俺のような素人ではなく、料理人さんが取り組んだ方が絶対美味しい物が作れる……というのも実は考えていた。
……やっぱり、美味しい物はいくらあってもいいからな。
「この料理の名前は、あるのですか?」
「はい、ハンバーガーと言います。その中に入っているミンチを焼いた物がハンバーグ。パンで挟んだ物をハンバーガー、ですね」
「ハンバーガー! ハンバーグー!」
男の一人暮らしの強い味方、ファーストフードの王様……はちょっと言い過ぎだけど、我らがハンバーガー。
呼び名を聞かれ、セバスチャンさん達に教える俺の言葉を、リーザが真似をする。
「おっと、冷めると味が落ちるので、温かいうちに食べないと」
「でしたら、私は旦那様方を裏庭に。フェンリル達もいますからな」
「では、すぐに取り掛かります!」
「それじゃあリーザ、俺達は裏庭に運ぼうか?」
「うん!」
「タクミ様、それくらいは我々が……」
「いいんですよ。皆さん手伝ってくれていますし、これくらいはやります。それに、料理は作って皆に食べてもらうまでが料理ですからね」
「食べてもらうまでが料理……至言です!」
熱々のチーズがかかっているため、焼いたばかりのハンバーグと重なって、数分で冷え切るという事はないが、それでも早く食べた方がいいからな。
エッケンハルトさん達を呼びに行くセバスチャンさんを見送り、次々と焼いたハンバーグをパンに挟んでいくヘレーナさん達。
俺とリーザも何かしようと思い、ハンバーガーを裏庭に運ぼうとしたら、料理人さんの一人に止められた。
とはいえ、それくらいは俺達がやっても構わないだろうと、適当に遠足は帰るまで――を勝手に言いかえたら、なぜか感動されてしまった……。
うん、まぁ……いいか。
食べてもらって、美味しいと言ってもらうのも料理人の喜びでもあるし、大事だからな。
「あ、ヘレーナさん。さっきも言いましたが、レオやフェンリル達のは……」
「はい。パンは使わず、ソースとチーズのみですね。サラットはドレッシングをかけて、別の皿で用意させて頂きます」
「すみません、お願いします」
「ママのは、違うのー?」
「んー、レオはパンで挟んだままだと、食べにくいだろう? だから、ハンバーグのまま食べてもらうんだ」
「そうなんだー!」
「さ、一緒に運ぶぞー?」
「わかったー!」
ハンバーガーの載ったお皿をワゴンに載せ、それを押して厨房を出る直前、ヘレーナさんにお願い。
レオは手を使って、ハンバーガーを持って食べたりできないから、パンはなしでハンバーグのまま食べてもらうようにする。
ヘレーナさんが頷いてくれたのを確認した後、はしゃぐリーザと一緒に、ワゴンを押して裏庭へと向かった。
レオだけでなく、クレアさんやエッケンハルトさん、皆が喜んでくれるといいな。
「おぉ、待ちかねたぞタクミ殿!」
「ワフ! ワフ!」
裏庭に出ると、朝食の時と同じくテーブルや椅子が用意され、待ち侘びてくれていたのか、エッケンハルトさんとレオが既に座っていた。
レオはわかるが、エッケンハルトさんまで……。
「ははは、すみません待たせてしまって」
「それで、料理の方は……それか? 見れば、パンに何かが挟んであるようだが……」
「はい。ハンバーガーと言います。捏ねて焼いた肉に、他の具材を挟んで食べるんです」
「ワフワフワフ!」
「わかってるよレオ。ちゃんとレオには別に、ハンバーグが用意されているから」
「ワウー!」
「ママ嬉しそうだねー!」
エッケンハルトさんの興味は、俺とリーザが運んで来たワゴンの上、作ったハンバーグへ視線と共に注がれている。
まぁ、新しい……かどうかはともかく、知らない料理がどんな物なのか想像するのは楽しいし、ワクワクするのはわかるけどな。
レオはレオで、行儀よくお座りしながらも目を輝かせてこちらを見ているし、尻尾をブンブンと振って興奮気味だ。
掃除が行き届いている屋敷内とは違って、裏庭なんだから、埃だけじゃなく砂が舞ってしまうから、尻尾はもう少し落ち着けような?
嬉しそうなレオを落ち着かせたり、皆が期待している様子を見て楽しそうにしているリーザを見ながら、テーブルに持って来たハンバーガーが載ったお皿を配膳して行く。
「フェンやリルルも、しっかり食べるんだぞ?」
「ガウー!」
「ガウゥー!」
「ワウ!」
「クーン……」
「キューン……」
「こらこら、威嚇するなよレオ。ちゃんとお腹いっぱい食べさせてやるから」
テーブルから少し離れた場所で、こちらは地面にハンバーグの載ったお皿を置いてやる。
こちらはフェンとリルルの分だ。
テーブルじゃないのは、体が大きいせいもあるが、レオが許さなかったからだ。
同じ犬というか狼なためか、上下関係に厳しいようだ。
まあ、狼って群れで生活するために、上下関係をはっきりさせたがるらしいしな……体育会系かな?
シェリーやラーレは、クレアさんとティルラちゃんの従魔なためか、特別扱いで一緒にテーブルで食べるのには何も言わなかった。
フェンやリルルは、料理が食べられる事が嬉しいらしく、こちらも大きな尻尾を振って喜んでいたので、テーブルじゃない事自体は気にしていない様子。
普段テーブルとかを使っているわけじゃないだろうし、慣れた食べ方に近い方がいいか――。
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