第626話 料理が完成しました



「さて、それではそろそろ焼きましょう」

「焼きましょー!」


 捏ねるのを手伝うのが楽しかったのか、テンションの上がったリーザが俺の言葉を真似る。

 ヘレーナさん達もそれを微笑ましく見ながら、楕円形の塊を作っていた手を止める。

 まずは、俺が焼くのを見本にして、学ぶためだろう。

 ちなみに、捏ねて用意された挽き肉は数十キロはあるくらい、大量だった。


 俺やエッケンハルトさん達だけでなく、レオやフェンリル達、ラーレもいるし、屋敷の使用人さん達も食べるからな。

 屋敷の使用人さん達が食べるのは当初、考えられていなかったらしく、俺とリーザが言い出した事でもある。

 せっかく作ったんだから、皆に食べて欲しいからな。

 手の込んだ料理じゃなくて申し訳ないけど……。


「それでは、火をつけさせて頂きます」

「はい」

「ファイアエレメンタル・キャンドル」


 鉄板の下に薪を入れ、ヘレーナさんが率先して火を付けてくれる。

 そういえば、セバスチャンさんに初めて魔法を見せてもらった時も、この魔法だったな。

 薪に火を付けたり、ろうそくに火を灯したりと聞いたのを覚えている。

 考えてみれば、焚き火に対してはレオが火を付けてくれていたから、この魔法で火を付ける所を見るのは初めてだ。


 ライターより少し大きめの日が、薪へと燃え移るのを待って、少しして燃え広がって行く。

 炭火とは違うから、目に見えて炎が上がってわかりやすいけど……火力調整はやりづらいだろうな。


「えーと、焦げたりしないように、見てて下さい。さすがにここで焼くのは初めてなので……えーと、なんどもひっくり返せば、そうそう焦げ付く事もないと思いますから」

「畏まりました」

「私も見るー!」


 コンロとフライパンで焼くよりも、火力が強いため、焦げたりしないようによく見ておく必要がありそうだ。

 ヘレーナさんにその辺りは任せる。

 慣れない焼き方だと、火が通り過ぎて焦げてしまいかねないからな。

 リーザも協力してくれるようだけど……料理未経験だから、あまり期待はしないでおこう。


「おや、美味しそうな匂いがしますね?」

「セバスチャンさん」


 焼き加減を見ながら、焦げ付かないようにして作られた肉の塊を焼いていく事しばらく、大量に焼けてでき上がっていく物を積み上げていると、ひょっこりセバスチャンさんが厨房へ顔を覗かせた。

 ダンデリーオンを厨房に持ってくるよう頼んだ後、どこかへ行っていたらしいが、昼食の様子を見に戻ってきたようだ。


「丁度、できあがったところでしたかな?」

「いえ、実はまだなんですよ……」

「ほぉ、美味しそうに焼きあがっているように見えますが……」


 俺が作っているのは、わかる人は既にわかっているだろう物……ハンバーグだ。

 だけど、形を作り、焼くだけで完成というわけじゃない。

 ソースに関しては、以前ヘレーナさんが料理で使っていたソースを、使わせてもらう事になっているので、問題ない。

 では、他に何をするのかというと……。


「ヘレーナさん。焼く前にお願いしたパンの方は……?」

「用意できております。チーズや野菜もこちらに」

「ありがとうございます」

「ほぉ、パンにチーズ……それに野菜ですかな?」


 ハンバーグを焼き始める前に、ヘレーナさんや料理人さんに頼んで、パンや他の物を用意してもらっていた。

 パンはハンバーグの大きさに合わせて切りそろえられており、チーズは軽く熱してとろけている。

 野菜は……俺としてはピクルスのような物が欲しかったんだが、それはないようなので、サラットというレタスそっくりな味と見た目の野菜で我慢する。

 焼きあがったハンバーグが積み上がる横に、大量のパンや切りそろえられたサラット、器に入ってトロトロにとろけているチーズがあるのは壮観だな。


「では……リーザ、手伝ってくれるかい?」

「うん、わかったー!」


 リーザにもお願いして、俺がパンを持ちさらに載せ、その上にハンバーグを乗せる

 ヘレーナさんが作ったソースをかけ、その上からサラットをお好みで乗せた後、器に入っているチーズをリーザがスプーンですくってかける。


「これくらい?」

「もう少しあった方が、美味しいかな?」

「はーい。じゃばー」


 熱々でとろけているチーズとはいえ、本当にリーザが口にするようにじゃばーとはかけられないが、スプーンから十分な量のチーズがかけられた。


「最後にこうして、完成です!」

「できたー!」

「ほぉ。パンに挟むのですな?」

「はい。パンに挟むのは、他でもやっていたので、こちらの方が食べやすいでしょう」


 ランジ村に行った時だったか、ヘレーナさんが作ってくれた物は、パンに様々な具を混ぜたサンドイッチのような物だった。

 サンドイッチというより、バゲッドサンドの方が近いかな? 固めのパンを使ってたし。

 あれを思い出して、以前は親しみ深かった食べ物を思い出したからな。

 パンでハンバーグを挟んで、ソースや野菜、チーズを使った物……そのものずばりハンバーガーだ!

 

 ハンバーグに付け合わせの野菜とパスタ……というよりは、こちらの方が昼食っぽからな。

 俺の勝手なイメージとか気分だけども。


「ふむふむ。肉を焼いてパンに挟む……というのは他でもありましたが、これはミンチですかな?」

「そうです。ミンチにした肉を、卵や塩を加えて形を整えて焼いた物……ですね。他にも作り方はありますが……色々と応用の効く料理ですよ」


 ハンバーグは多くの人に親しまれていて、誰もが知る料理の一つだ。

 だけどその作り方や、混ぜる食材など、様々なバリエーションがある料理でもある。

 奥が深い分、人によって多少なりとも味が違う物でもあるだろう。

 俺なんかは、レオが食べられる食材で作ったら、玉ねぎ抜きで今の作り方になっただけだが……ヘレーナさんに教えたら、色々とアレンジしてくれそうだな。


 ちなみに、コショウを入れるのも一般的みたいだが、俺は入れない。

 既に塩が入っているし、余り濃すぎる味はレオにとって良くないと思ったからな……実は塩も控えめだったりもする。

 レオはともかく、俺が食べる時はかけるソースで調整できるから、そういう意味でも便利な料理だな――。



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