第618話 ヘレーナさんから相談を持ち掛けられました



「その……森から帰った時に、ゲルダさんから聞いているかと思いますが、料理を食べる事によって太ってしまう事とそれの対処です」

「あー、そういえばそんな事も言っていましたね。ヘレーナさんの料理が美味しくて、皆ついつい食べ過ぎてしまうんでしょう。俺やエッケンハルトさん、ティルラちゃんとかは、剣の鍛錬で体を動かしているので、太ったりはしませんが……運動をする機会のない人達は……」

「はい。クレアお嬢様から直接言われたわけではありませんが、少々心配で。現に、使用人達の中で食べ過ぎて太って来ている者もいます。なので、そのご相談をさせて頂きたいのです。量を減らすだけでは、不十分な気がして……もちろん、私としては美味しい物を食べられるだけ食べて頂ける方が嬉しいのです」

「成る程……」


 つまり、ダイエット食の相談……と考えていいのだろうと思う。

 運動をしていない人にとっては、毎食美味しいけどカロリーの高い物ばかりだと、どうしても太ってしまうからな。

 体質で太らない人はいるかもしれないが、全員がそうだとは限らないし、女性の使用人が多いこの屋敷では気にする人が多そうだ。

 ヨハンナさんのように、兵士をやっている女性もいるから、そちらは体を動かす分しっかり食べたいだろうし……全員を満足させるのは難しい事だなぁ。


「以前、新しい料理をと話した事を覚えておいででしょうか? その事とは少し違うかもしれませんが、ご助言を求めたく……」

「覚えていますよ。太らないというか、痩せる料理……と考えると、それも新しい料理と言えるかもしれません。ただ……そうですね……」

「む、難しいでしょうか?」


 太らない料理とか、痩せる料理というのは、日本でもよく話題になっていたのを聞いた事がある。

 本当に効果がある物から、効果のない物まで様々だ。

 俺自身はあまり気にしていなかったため、詳しくないんだが……多く食べる方ではなかったし、仕事をこなすため、エネルギーにもなるカロリーを減らすなんてもっての外だったからな。

 

「料理の量を減らす……というのはしたくないんですよね?」

「そうですね……それが一つの方法ではあると考えてはいます。ですが、できればしたくはありません。作った料理は、皆様に美味しく沢山食べて頂きたいですから。もちろん、腕が足りなくて美味しくないというのであれば、仕方がありませんが……」

「そうですか……」


 料理人だし、美味しい物を食べられるだけ食べて欲しいんだろう。

 俺は料理を作る仕事をした事がないが、気持ちはわかる。

 自分が苦労して工夫しながら作った料理を、美味しくお腹いっぱい食べてもらえるというのは、料理を作る人にとって一番の喜びとも言えるかもな。

 もちろん、食べる方も美味しく作ってもらった事に、感謝しなければとか、食べる側としても考える事はあるが……それは今問題じゃないか。

 クレアさん達公爵家の人々は、そういう事もわかっていそうだし。


「それであれば……料理というより、食材を考えてみてはどうでしょうか?」

「食材、ですか?」

「はい。食材によって料理が変わったりもしますが……ともあれ、太りにくい物や、痩せやすくするための食材というのはあるものです」

「……あまり、考えた事はありませんでした。とにかく美味しい物を……と求めて料理を作っておりましたので」

「そうでしょうねぇ……」


 栄養価の分析なんかできそうにない世界だ。

 多少なりとも、体にいいとか、元気になる食べ物なんかの考えはあっても、食材でのダイエット効果なんてあまり考えたりはしないだろう。

 スラムの事や、セバスチャンさんの生い立ちを考えると、食べる事そのものに必死で、お腹に入れられればと考える人も多そうだし、味を求めるくらいが精一杯なんだろうと思う。

 ある意味、食べ過ぎで太るかどうかが問題になるのは、贅沢な考えなのかもしれないな。


 それはともかく、ダイエット効果のある食材か……。

 日本にあった食材が、そのままこの世界にあるかどうかはわからないから、どうしたものか。

 というより、俺のダイエット知識なんて頼りにされても……という思いもあるけど、ヘレーナさんに頼りにされているんだから、協力してあげたい。

 んー……ダイエット食材かぁ……イモ類があるのは料理で出された事があるから、わかっているからこんにゃくとか……?

 ただ、こんにゃくだけだと味気ないし、他にも……あぁそうだ、そういえばあれなら……。


「大豆って食材はありますか?」


 大豆なら、栄養価も豊富だし、ダイエットに適していそうだ。

 色んな料理に活用できるし、それこそ豆腐やもやしだって作れる万能食材!

 日本人に生まれたら、どうしても苦手な人でなければ一度は食べた事のある食材の一つだ。


「ダイズ……? えーと、それはどんな食材なのでしょう? 聞いた事がありません……」

「んー……大豆はないんですかね? えーと、これくらいの大きさで、植物の実なのですけど……」


 そう思っていたんだが、ヘレーナさんは大豆に思い当たる事がない様子。

 この世界には大豆がないのか……? と一瞬思ったが、そういえばネーギというどう考えてもネギだろう物もあったし、呼び名が違うだけかもしれない。

 指で大きさを示すようにしながら、大豆の事をヘレーナさんに説明。

 大豆は大体一センチないくらいの大きさだったはずだから……。


「あぁ、ソーイの事ですか!」

「……ソーイ?」


 何その、掛け声みたいな呼び名は……?


「えぇと、タクミ様が仰るような大きさの物で、植物から取れます。収穫量も多いので、良く非常食として備蓄されたりもしていますね。街や村では、熱するだけで食べるおやつとしても親しまれていたかと。ただ、火を入れなければ毒があったような……?」

「あぁ、炒り大豆ですね。……いろんな味付けで炒って食べるのは、確かにおやつとしては丁度いいと思います」


 お婆ちゃんの味、としても親しまれていた記憶のある炒り大豆。

 恐らくだが、大豆がソイという海外呼びからソーイという呼び名になった……とかそういう事だろうか?

 この世界でどういう経緯で呼び名が決まったのかは、よくわからないな。

 アロエはロエだし、ヨモギはラモギだし……見た目はともかく、効果は違うが。

 とりあえず、生で食べると毒があるという事だし、ソーイが大豆であるという事で間違いなさそうだ――。



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