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第615話 朝食は食堂ではないようでした
第615話 朝食は食堂ではないようでした
「本当に、申し訳ありませんでした。あ……」
「いえいえ、気にしてませ……どうしましたか?」
「あっ、いえ……なんでもありません。朝の支度用の物は準備させて頂きましたので。では……」
「はい、ありがとうございます。……ちょっと様子が変だったかな? あ……」
「ライラお姉さん、どこか痛かったとか? リーザと一緒に寝たからなのかなぁ?」
「あー……うん。リーザが悪いわけじゃないよ。痛いとかじゃないから、大丈夫」
「本当?」
「あぁ。俺やリーザの朝の支度が終わる頃には、いつも通りだと思うよ」
もう一度謝りながら、頭を上げるライラさん。
俺と目が合うと、小さく声を上げて動きが止まった。
どうしたのか聞いたが、すぐに朝の支度をしてくれていたようで、それを示してすぐに退室。
お礼を言いながら見送ったあたりで、思い出す……昨日の風呂場で起こった事を。
俺と目が合って、ライラさんもあの時の事を思い出して恥ずかしくなったんだろうなぁ。
ほんの少し、頬が染まっていたようにも見えたしな。
レオに抱き着いたまま、俺の呟きとライラさんの様子を見て首を傾げるリーザ。
ちゃんと心配できる、優しい子だな。
昨夜見た時は、リーザが全身でライラさんにくっついてロック、さらに胸に顔を埋めていたから、寝ている間に体を痛める可能性がないとは言えないけど、今のはリーザのせいじゃないだろう。
大丈夫だと伝えつつ、すぐにいつも通りに戻る事を期待しておく事にした。
「タクミさん、起きていますかー?」
「起きてるよ。入っておいで」
「はい、失礼します!」
ライラさんと入れ違いで、ノックと共に部屋の外からティルラちゃんの声。
今日もティルラちゃんは元気そうだ。
「おはようございます」
「おはよう、ティルラちゃん」
「ティルラお姉ちゃん、おはよー!」
「ワフー!」
元気よく挨拶を交わす俺達。
でもティルラちゃん、今日はラーレの方へ行くと思っていたんだけど、どうしたんだろう?
昨日の朝は一緒にラーレの様子を見に行ったけど、あれで大分慣れたはずだから、今日も一緒に来て欲しいとかではない……と思う。
「今日はどうしたの? また一緒にラーレの様子を見に行く?」
「いえ、ラーレとは先程挨拶をして来ました! 今日の朝食は食堂ではないので、呼びに来たのです!」
「食堂じゃない? じゃあ、どこで食べるんだろう?」
一応聞いてみると、既にラーレとは挨拶をした後だったらしい。
ちゃんとラーレの事を気にかけているようで、何よりだ。
それにしても、朝食が食堂じゃないのは、屋敷に来てすぐ俺がまだ慣れていない頃以来だな……。
「ふふー、それは行ってのお楽しみです! リーザちゃん、支度をしに行きましょう!」
「うん! 行って来るね、パパ、ママ!」
「行ってらっしゃい、リーザ」
「ワフ!」
ちょっと得意げに笑いながら、内緒にするティルラちゃん。
さすがに朝食抜きというわけじゃあないだろうから、どこかで食べるんだろうが、今日って何かあったかな?
エッケンハルトさんが出発するのは明日なはずだし、そうだとしても食堂以外で食べる理由が思いつかない。
まぁ、すぐにわかるようだし、まずは朝の支度を済ませてしまおう……と思いつつ、ティルラちゃんとリーザを見送って、手早く済ませるように動き出した。
「成る程……食堂じゃないならどこかと思ったけど、裏庭かぁ……」
「はい。これなら、ラーレも一緒に食べられます!」
支度が終わった後、ティルラちゃんに連れて来られたのは、屋敷の裏庭。
いつも剣の鍛錬をしたり、レオ達が駆けまわったり、簡易薬草畑がある場所だ。
今そこでは、食堂の物程ではないが、十人程度が使えるテーブルが置かれ、椅子も用意されていた。
既にクレアさんやセバスチャンさん達だけでなく、エッケンハルトさんも座っていて、料理も用意されて準備が整っていた。
「おはようございます、タクミさん」
「おはようございます。……エッケンハルトさんも」
「……うむ」
「調子が悪そうですけど……?」
「ティルラに起こされてな……まぁそれは構わないのだが、昨日のワインが……飲み過ぎた」
「まったく、お父様ったら……私の見ていないところで……」
「昨日は話が弾みましたからなぁ。私も、もう少し早めに注意するべきでした」
「あぁ……二日酔いですか……」
クレアさんと挨拶をしつつ、用意された椅子に座る。
座っている配置はいつもと変わらないのだが、ティルラちゃんの横にはラーレがいて、そこだけが違うといったくらいか。
ただ、朝食の席で既に起きているエッケンハルトさんが、顔色が悪く見えるな。
聞いてみると、昨日ロゼワインを飲み過ぎて二日酔いになったらしい。
俺も、慣れないお酒を飲まされて、二日酔いになった事があるが……辛いんだよなぁ。
仕事を休む理由としては認められないし、薬を飲んで無理矢理仕事をしていたが。
クレアさんが溜め息を吐きながら、エッケンハルトさんをジト目で見ているけど……話の内容的に、クレアさんがいたら話せなかった事だろうから、仕方ない。
というより、クレアさんがいてロゼワインで酔ってしまったら、落ち着いて話すどころじゃなくなるしな……。
「まぁエッケンハルトさんはいいとして……外で食べるのも、たまにはいいかもしれませんね。森にいる時は、常に外で食べてましたけど」
「そうですね、気分も変わるものです。裏庭だと、少々殺風景かもしれませんが……」
「まぁ、体の大きいラーレやレオがいるので……裏庭以外だと、屋敷の敷地外でとなりますからねぇ」
食堂でというのも悪くないが、外で食べるというのもピクニック気分でいいだろう。
森の中と違って、背の高い木々に囲まれてもいないし、開放的な気分にもなれる。
クレアさんの言う通り、裏庭は草花が整備されているわけではないので、多少殺風景ではあるかもしれないけどな。
だが、他の場所だとテーブルを置くスペースは何とか確保できても、レオとラーレが一緒にいる事が難しい。
体が大きい事もあって、何かしら草花が邪魔になってしまったり、踏んでしまったりするだろうしなぁ。
それに、今は他にも場所を大きく確保する理由もあるようだし……というか、あれはなぜここに……?
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