第614話 リーザに起こされました



 俺が他の人達と違う接し方だったのが幸いして、エッケンハルトさんが俺を友人のように思ってくれるようになったんだろう。

 剣の方では師匠と弟子だが、レオの事やギフトの事もあるから、向こうにとっては対等と思えるのもあるのかも。

 俺とセバスチャンとで、わかり合っているような笑みを交わすのに、拗ねたようなエッケンハルトさん。


 そういうところは、本当にクレアさんと似ていてやっぱり親子だなと実感する。

 クレアさんも、以前に『雑草栽培』の事を教えなかったら、拗ねてたしな。

 あれは、確かシェリーを発見した森探索に行く前だったか……。


「どうした、タクミ殿?」

「あぁいえいえ、なんでもありません。ともかく、俺がアンネさんのところにいくというのは、今のところありませんので、安心して下さい。ランジ村での薬草畑を放り出すわけにもいきませんしね」

「うむ。先程のクレアに関する事もそうだが、タクミ殿が誠実に過ごそうと考えいているのはよくわかった。安心したぞ。はっはっは!」

「旦那様、そろそろ飲み過ぎでは?」

「何を言うセバスチャン。友人と、そして義理ではあるが新しい息子ができたのだと思えば、飲まずにいられんだろう!」

「……それもそうですな」

「いやいやいや、新しい息子って……クレアさんの事は、まだはっきり決まったわけじゃないですからね!?」

「はっはっはっは……!」

「ほっほっほっほ……!」

「ワフ……」


 結局、エッケンハルトさんはアンネさんのアプロ―チ……と言えるか怪しい言動で、俺とレオが伯爵家の方へ行く可能性を考えて、少し焦ってしまっていたんだろう。

 懐かしさも感じる以前の事を思い出す思考を止め、アンネさんとの結婚を否定する。

 初対面の時はまだしも、最近のアンネさんは残念さが目立って悪く思えなくなってきているから、絶対とは否定できないが……ともあれ、まずは薬草畑とクレアさんの事を考えるのが先だと、エッケンハルトさんに伝える。

 本当に俺の言葉で安心したのか、エッケンハルトさんが大きな声で笑いながら、さらにロゼワインを飲み干す。


 さらに追加をグラスに注ぎながらも、さすがにとセバスチャンさんが注意すると、早まった事を言い出した。

 友人と言ってくれるのは嬉しいが、クレアさんと……というのはまだ早すぎるって、さっき話したはずなのになぁ。

 どちらかというと今回は、半分以上冗談で俺をからかって、セバスチャンさんと二人で笑うためなんだろう。 

 二人が楽しそうならまぁ……いいのかな?


 大きな声で笑う二人をちらりと見ながら、レオが溜め息を吐きながら伏せて、目を閉じた。

 すまん、レオにとっては退屈な話ばかりだったな……。



―――――――――――――――



「パパとママが一緒ー! 私もー!」

「うぐぅ!」

「ワウ?」


 唐突な衝撃で目が覚める。

 思わず漏れた声と共に目を開けると、お腹の部分にリーザが顔を埋めて、俺と一緒に背中をもたれさせているレオに抱き着くような格好になっていた。

 目が覚めたリーザが、俺とレオに突撃して抱き着いた……ってとこかな。


「……リーザ、飛び込むように抱き着くのは……レオはいいが、俺にはやめてくれ」

「はーい!」

「ワフ?」

「レオなら、リーザが突撃しても大丈夫だろ?」

「ワウ」


 お腹の痛みに耐えながら、リーザを解きつつ言い聞かせる。

 抱き着いてくるのは、嬉しい事なんだが……寝ている無防備な時に急に来られるのはな……。

 リーザの身長が低いからか、顔がお腹に突き刺さってたし……一瞬息ができなくなってたぞ?

 俺から離れて、気をつけをしながら右手を上げ、素直な返事をするリーザ……うん、今日もかわいい。


 レオは、首を傾げて自分ならいいの? と言って鳴いたが、俺の言葉で納得して頷いた。

 リーザは獣人だから、人間より身体能力が高い……らしいが、それでもレオなら柔らかい毛で、問題なく受け止められるだろうしな。


「おはようございます、タクミ様」

「あぁ、おはようございます。ライラさん」

「はい。えっと、昨夜は申し訳ありませんでした……」

「いえいえ、気持ち良さそうに寝ていたので。それに、レオの毛に包まれて寝るのも、気持ち良かったですからね」


 背中を持たれていたレオから離れ、立ち上がったところで、リーザとは別の方から朝の挨拶をする声が聞こえた。

 そちらへ体を向け、挨拶を返すと、ライラさんが申し訳なさそうな表情をしながら、深く頭を下げた。

 ライラさんにとっては、こうやって謝るのは当然なんだろうが、気にしなくてもいいんだけどなぁ。


 昨夜、エッケンハルトさん達にからかわれながらも、しばらく食堂で談笑した俺。

 その後酔いが回ったためか、テーブルに突っ伏し、いびきをかきながら寝てしまったエッケンハルトさんをセバスチャンさんに任せて、俺とレオは部屋に戻った。

 寝ていてもワイングラスを手放さなかったので、セバスチャンさんが苦笑していたっけ。

 ともあれ、部屋に戻った俺とレオが目にしたのは、ベッドで気持ち良さそうに寝ているリーザ。


 それと、リーザがしっかりと抱き着いているライラさんだった。

 リーザの抱き枕となったライラさんは、確かに寝心地が良さそうではあるけど、引き剥がす事もできずに困っていたら、そのまま寝てしまったんだろうと思う。

 部屋に戻って来るのに、結構な時間が経っていたからな。

 二人があまりにも気持ち良さそうに寝ていたので、起こすのも偲びないと、レオに頼んで布団や枕代わりになってもらった。


 床に座って背中をやわらかい毛に預けた程度だが、風呂で綺麗に洗われたおかげでフカフカ、しかも俺の体を包むようでもあって、レオの体温を感じながら暖かく寝られた。

 ベッドもいい物だが、たまにはああやって寝るのも悪くないな。

 レオも嬉しそうだったし。

 ライラさんが謝っているのは、俺が床で寝て自分がベッドを占領してしまっていたからだろう……気にしなくてもいいのに、といってもお世話役としては気になってしまうのかもな。


「いいなぁ、パパ」

「ワフ」

「わーい、ママー!」

「おいおい、朝なんだからまた寝るんじゃないぞ?」

「はーい。ママの毛、すごいフカフカー! 昨日お風呂で洗ったからかなぁ?」

「ワフワフ」


 俺がレオの毛に包まれて寝ていたと知って、羨ましそうなリーザ。

 レオが前足で手招きのような仕草をすると、喜んで飛びついた。

 軽く注意をしたが、寝ると言うよりも楽しんでいるようだから、大丈夫そうだな。



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