第585話 数日ぶりに薬草作りをする事にしました



「今日は、ちゃんといつもの通りの朝食だな」

「そうですね。やっぱり、昨日は急に戻って来たからなんでしょう」


 今日の朝食は、昨日の夕食開始時とは違って、ボリュームたっぷりだ。

 大量に食べるレオも、豪快に食べるエッケンハルトさんも、満足できる量がテーブルに置かれていた。

 というか、レオもエッケンハルトさんも、朝からよくそんなに食べられるなぁ……なんて思いながら、俺も同じく用意された料理をしっかり食べる。

 朝食は一日の元気の素……と言いたいが、ヘレーナさんの作ってくれた料理が美味しかったからなのは間違いない。


 朝食を半ば食べた辺りで、起きてきたアンネさんが合流。

 他の人達とは違って、アンネさんはまだ疲れが取れていないらしく、見慣れた縦ロールに戻してはいるが、以前のように整っていない感じだな。

 やっぱり、縦ロールはアンネさんの元気のバロメーターなのかもしれない。


「昨日、夕食も食べずに寝たからよアンネ? 疲れていても、しっかり食事をしないと、疲れは取れないわ」

「……そう言われてもですわ……」


 アンネさんは昨日さっさと寝てしまって、夕食を食べてないから元気が出ないんだと、クレアさんに注意されていた。

 確かに、栄養はしっかり摂らないと、寝るだけじゃ元気にならないよな……。

 俺も、仕事終わりに何も食べずに疲れて寝てしまって、朝起きても疲れが取れないなんて、しょっちゅうだったからな……アンネさんに注意するクレアさんの言葉は、しっかり覚えておこう。


「さて、タクミ様。本日ですが……ラクトスでの薬草が足りなくなっているようです」

「はい、昨日ゲルダさんに聞きました。まずはそれを作っておこうと思います」

「数日ぶりに、タクミ殿が薬草を大量に作る所を、じっくり見させてもらうか……」

「旦那様は駄目です。先程も申しました通り、本邸から催促されておりますので、やる事が溜まっておりますからな」

「そうですよお父様。私も、同じくやらねばならない事が多くあります。タクミさん、また今度『雑草栽培』を見せて下さいね」

「あはは、まぁ、地面から生やすだけで地味な作業ですが……それでいいのなら」


 全員が朝食を食べ終わった後、用意されたお茶を飲みながらセバスチャンさんから確認される。

 足りない分の薬草を補充するため、今日はまず薬草作りに専念しないとな。

 それにしても、久しぶりのお茶は美味しいなぁ……。

 エッケンハルトさんとクレアさんは、俺が『雑草栽培』を使う所を見たいらしいが、仕事が溜まっていてそれどころではないらしい。

 地味な作業だから、見ても面白くないと思うんだが……まぁ、本邸へ帰る前の仕事や、屋敷を開けていた間の色々と溜まっているようだから、今日は二人共そっちに専念だな。


「私は、ラーレの様子を見ておきます!」

「ティルラは……そうね、本当なら勉強をしろと言うのだけど、今日はその方がいいわね。ラーレも、まだここには慣れていないでしょうし」

「はい!」

「私は寝ますわー……」

「アンネリーゼ、それは無理だな。私と一緒に本邸へ行くのだから、用意が必要だろう? その身一つで本邸まで戻るわけでもあるまい」

「……うぅ、わかりましたわ」


 ティルラちゃんは、ラーレの様子を見るという口実で、勉強を回避できたようだ。

 実際、屋敷の外が気に入ったらしくとも、ラーレはまだ来たばかりだからな、色々確認しておくこともあるだろうし、そちらの方が優先されるだろう。

 アンネさんは、朝食を食べてもまだ回復しなかったようで、部屋に戻って休むつもりのようだったが、エッケンハルトさんによって阻止された。

 まぁ、長距離の移動になるし、日帰りできる距離でもないから、準備は必要だよなぁ。


 リーザとレオは、特にする事がないので、俺と一緒に裏庭へ行く事になるが……『雑草栽培』を見るのもすぐに飽きそうだから、ラーレやティルラちゃんと一緒に遊んでいてもらうかな。

 レオの方は、シェリーを走らせてダイエット計画を進める気満々のようだが……。


「タクミ様、薬草作りが終えてからでよろしいのですが……薬草畑についてのご相談もございますよ」

「そうなんですか?」

「はい。ラクトスの街で薬草が足りなかったので、裏庭で試作していた薬草を摘んでしまっていたようです。その事もありますし、そろそろ決めなければいけない事もありますからな」

「まぁ、足りなかったら試作中の薬草を使ってと言って、森へ行きましたからね。わかりました、そちらの方もついでにいくつか『雑草栽培』で作っておきます。薬草畑の方も、確かに決めないといけない事がありそうですね……」

「そうですな。人を雇ったりと決める事は多くありますので……」

「わかりました。薬草を作り終えたら、話しましょう」

「はい、お願い致します」


 簡易薬草畑の事は、足りなかったら使ってもいいと伝えていたから仕方ない。

 それでも、数日は様子を見てくれているはずだから、あれからどうなったかも聞けるだろう。

 それに、ランジ村での薬草栽培に関しては、まだ決めないといけない事がいっぱいあるはずだ。

 薬草畑にする場所や、住む家はそれとなく決まっているが、雇う人だったり、作る薬草や、それこそどうやって畑を管理するかとか……決めていない事の方が多そうだな。

 そちらはセバスチャンさんと後で話す事にして、ティータイムを終えた俺や他の皆は、それぞれのやる事へと向かった――。



「ラーレ凄いですー!」

「キィー!」

「ワウ……ガウ!」

「あ、ママ! わぁ、すごーい!」

「ははは、あっちは楽しそうだなぁ」


 裏庭に出て、ラーレと遊ぶティルラちゃんやレオ、リーザの声を聞きながら思わず呟く。

 今は、ラーレが空から急降下をして、地面スレスレまで来たと思ったら、すぐに体を上げて空へと浮かぶ……という動きを見せていた。

 猛禽類が、地上や水面にいる獲物を捕まえる時によくやるような動きだな。

 ラーレは見た目鷲なのだから、そういう動きができてもおかしくはないか。


 それを見て、レオが何を考えたのか……おそらくティルラちゃんに褒められるラーレに対抗意識を持ったんだと思うが……リーザを背中に乗せたまま、数メートルの高さまでジャンプしたりしていた。

 乗っているリーザは歓声を上げて、落とさないように気を付けているレオは確かにすごいが……鷲と狼で張り合わなくてもなぁ。

 そもそも体のつくりや生態が違うんだから……と思うが、ティルラちゃんもリーザも楽しそうだし、危険な事まではしようとしないだろうから、大丈夫だろう。

 余計な事を言って、楽しく遊んでいるのに水を差したくないからな――。


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