第577話 評判になっているようでした



「本当に、ラーレは外でも構わないのか?」

「キィ!」

「構わないそうです」

「そうか……なら、すまないが外で過ごしておいて欲しい。一応、自由に過ごせる程度の庭になっていると思うが……できればあまり離れた場所にはいかないで欲しい。知らない者が見たら、驚くだけでは済まないだろうからな」

「キッ!」

「カッパーイーグルだと一目でわからなくとも、魔物なのはわかりますからな。できるだけ大人しくしていて欲しいと思います」

「キィッ!」


 ティルラちゃんから話を聞いて、確認するようにラーレへと問いかけるエッケンハルトさん。

 頷いてくれた事に、一度頭を下げてからあまり離れた場所へは行かないようにお願いしている。

 それに対しラーレは、承知した! というように片方の翼を上げ、短く返事。

 セバスチャンさんからのお願いも、頷いて承知してくれたようだ。


 まぁ、怪鳥と言っても過言じゃない大きさだしなぁ……近くで見れば必ず魔物だと思うだろう。

 領民に信頼されている公爵家だから、変な噂はそうそう流されないだろうし、セバスチャンさんも説明するように手配するんだろうが、それでも驚いたり怖がったりする人がいるかもしれないしな。

 真っ先に、屋敷の人達へ説明する必要はあるだろうけども。

 ……俺達がラーレをどうしようかと相談している間、森へ一緒に行った護衛さん達以外の人達が、何事かと集まって来ていた。

 レオやエッケンハルトさんが、何も気にしていない様子を見ているから大丈夫そうではあるけど、それぞれ槍や剣なんかの武器も持ち出しているしな。

 エッケンハルトさんとセバスチャンさん、馬車や荷物を片付ける指示はしたみたいだけど、こっちは指示していなかったみたいだ……。


「「「「「お帰りなさいませ、旦那様!! クレアお嬢様、ティルラお嬢様も、ご無事のお戻り、何よりでございます!! タクミ様もレオ様も、お帰りなさいませ!!」」」」」


 とりあえず、外に集まっていた護衛さん達へセバスチャンさんが説明し、ラーレが外で過ごすための場所を作るようなので、その場においてひとまず俺達は中へと入る事になった。

 屋敷の玄関を通ると、待ち構えていた使用人さん達がいつものように声を揃えて迎えてくれる。

 数日ぶりだけど、久々に聞く使用人さん達の揃った声は、なんとなく心地よく聞こえた。

 ……結構、この屋敷にというか、公爵家の人達に染まって来たかな?


「うむ、戻ったぞ」

「旦那様、お帰り早々申し訳ありませんが……」

「何かあったのか?」


 迎えてくれた使用人さん達へ、エッケンハルトさんが頷きながら応えると、執事さんが一人進み出た。

 何かあったというよりも、報告する事があるみたいだな。


「いえ、本邸の方から催促されております。……旦那様がいつお戻りになられるのかと」

「……むぅ、さすがにここへ長く滞在し過ぎたか。わかった、明日にでも予定を決めて、本邸へ伝えよう」

「畏まりました」

「タクミ様、リーザ様、ライラさん、お帰りなさいませ。レオ様もお帰りなさいませ」

「ゲルダさん」

「ワフワフ」

「ゲルダ、帰りました。こちらで変わった事は?」

「特にありません。……と言いたいのですが、ニックさんがラクトスでの薬草が足りないと仰っておりました」

「薬草が? 十分な量を用意して出たと思ったんですけど……」


 エッケンハルトさんは、本来公爵様で忙しい人。

 この屋敷に来てから結構経っているから、本邸の方でやらなければいけない事が溜まっているのかもしれない。

 そちらの話をするエッケンハルトさんと、使用人さん達に迎えられて荷物の受け渡しをしているクレアさん達の方をぼんやり見ていると、ゲルダさんが近寄って声を掛けられた。

 無事に帰ったと、お互い挨拶をしながらライラさんが何かなかったかと聞くと、薬草が不足しているとニックが言っていたようだ。


 薬草は、これまでのラクトスで販売していた量を考えて、十分な量を作って行ったはずなんだけどな。

 まさかまた、何かしらの病が流行しているというわけではないだろうし……。


「タクミ様の言う通り、十分な量があったはずなのですが……どうやらラクトスで評判になっているようなのです」

「タクミ様がですか?」

「はい。それと、カレスさんのお店もですね。他のお店だと、病が広がった際に十分な薬を売っていなかったのに、カレスさんのお店では十分な量を売っていて、尚且つ安く販売していた事。それによって、カレスさんのお店の評判が上がって、連日お客様が多く来られているようなのです」

「カレスさんの店にお客さんが……というのはわかりますが、足らなくなる程なのですか? ……というより、俺の評判って……」

「どうやら衛兵達の中で、タクミ様がディームを捕まえた事が噂になっているようです。街の人達の間では、スラムの治安を良くしようと尽力していると言われているようですね。あと……ニックさんもタクミ様の事を広めるのに一役買っている模様です」

「あー……あの時のですね。しかしニックもかぁ……」


 カレスさんの店が評判になるのはわからなくもないが、俺の評判も上がるというのはなぜだろう……。

 そう思って聞いてみたら、ディームを捕まえた事が関係しているらしい。

 スラムの治安を良くしよう……とまでは考えて行動したわけじゃないから、過大評価な気がしなくもないが、それにニックも絡んでいるらしい。

 ニックは、なぜか俺に対して凄く尊敬している素振りを見せているから、評判になり始めた段階で思わず自慢するように言ってしまったのかもしれない。


 ディームを捕まえた後の帰り道、ニックと会って話したから俺やレオが動いた事だと知っているしな。

 その事が評判になって、カレスさんの店との相乗効果で多くの人が店で買い物をしてくれているらしい。

 まぁ、俺の薬草を売ってくれている店だし、評判になって繁盛するのは悪くはないかな。


「カレスさんの店は、元々薬草以外の商売をしていたので、そちらの方も繁盛しているようです。そして、薬草を回帰に来た人がついでに他の物も……という事が増えたと聞きました。逆に、薬草をついでで買う人もいるようですね」



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