第567話 ラーレが活躍したようでした



「……レオ?」

「ワフ? ワフワフ!」

「おはよう、よしよし。それで、何があったんだ?」


 とりあえず、俺がいる使用人さん達が集まっている場所からだと、レオやフェン達の体に隠されて、向こうで何があったのかよくわからない。

 ラーレが翼を広げているのもあって、森の方が完全に見えなくなっているため、レオに呼びかけて見た。

 すると、すぐに振り向いて俺へと尻尾を振りながら近寄ってきたレオは、朝の挨拶をするように鳴いた。

 ちゃんと朝の挨拶ができて偉いなー、と褒めるように体を撫でながら、何があったのかを聞く。


「ワフ、ワフワウ。ワーフワウワウ……」

「ふむふむ、成る程。そういう事か」


 レオが言うには、つい先程森の中からトロルドが四体程こちらを目指してやってきたらしい。

 それを倒しただけの事と言っているが……トロルド四体って結構大事じゃないか? と一瞬思ったが、レオなら簡単そうだし、フェンやリルル、ラーレもいるから問題ないかと思い直した。

 そして、ラーレが自分だけで倒すと言って、それを実行した……という事らしい。

 さっきの甲高い叫び声は、ラーレがトロルドを倒す時の声だったのか……。


 とりあえず、ラーレが簡単に倒したので特に問題はないとレオが言っているから、大丈夫なんだろう。

 そもそも、レオだけでもランジ村に行く時トロルド数体を倒していたから、問題が起こりようはないんだろうな。

 魔物が多くいるはずの森でも、安心感が強い。



「キャゥゥ……」

「ワフ!」


 しばらく後、とりあえず身支度を整えてトロルドの後片付け。

 その頃にはリーザやエッケンハルトさんも起きて来て、事情を説明し終えていた。

 まぁ、起きるのが一番遅かったエッケンハルトさんは、まだ川で支度をしている最中だけど。

 ともかく、トロルドの後片付けをしようと近付くと、クレアさんに抱かれたシェリーが小さく怯えたような声を漏らしていた。


 それを聞いたレオが、これくらいで怖気づくな! と言うように吠えている。

 トロルドにこっぴどくやられた経験から、トラウマがあるみたいだからなぁ、シェリーは。

 ラーレが魔法を使ったんだろう、焼け焦げて動かないトロルドに対しても、怯えて震えてしまっているようだ……クレアさんが慰めるように、体を優しく撫でている。

 ちなみに、フェンやリルルはトロルドに怖気づいたりする事なく、平気なようだ。

 というより、これがフェンリルとして通常なんだろうな。


 焼け焦げたトロルドは、中々に強烈な臭いを放っていたので、嗅覚の鋭いフェンリル達は川の方へ行ってしまったが……レオはシェリーの事があるから、ここまで来ているようだ。

 厳しいながらも、面倒見はいいんだなレオ。


「ワフワフ!」

「あ、レオ様? どうなされたので?」

「ワフ!」

「キュゥ……」


 片付けを始めていたフィリップさんに近付き、レオが鳴いて自己主張。

 振り返ったフィリップさんに一声かけてから、クレアさんの腕の中で震えていたシェリーを咥え、トロルドの残骸へと近付けた。

 相変わらずシェリーは怯えているようだが、既に事切れているため危険はないだろう。

 多分レオは、この機会にシェリーの苦手意識を少しでも克服させたいと考えているんだろう。


「キィ? キィッキィッキィ!」

「キャゥゥ……」

「ワウワウ! ガウー!」

「キャゥ……キュゥ?」

「ガウ!」


 臭いには敏感ではないのだろう。

 トロルドを倒したラーレは、相変わらず近くに立っていて、怯えているシェリーを少し笑っているようだ。

 これしきの相手に怯えるなんて……みたいなニュアンスを感じられた。

 シェリーがそんな事言われても、というように委縮して声を漏らすと、シェリーを地面に置いたレオが発破をかけるように吠える。


 ほんとにやるの……? と窺うシェリーに、やれ! とさらに吠えたレオ。

 ……あまり厳しくやり過ぎても……と思うが、シェリーのトラウマが克服できるのならと思って、俺とクレアさんは黙って見守っている。

 クレアさん、気持ちはわかりますが、あまり強く手を握りしめていてはいけませんよ?


「キュゥン……キュゥ? キャゥ、クンクン……キャゥゥゥ! キャゥ?」

「ワウ!」

「キャウキャウ!」

「お?」

「……少しずつ、シェリーが元気を取り戻していますね?」


 レオに言われて仕方なさそうに、トロルドの残骸がある場所……その端へとゆっくり近づくシェリー。

 動かないトロルドを前に、体を震わせながらも首を傾げ、少し意気込んで鼻先を近付けて臭いを嗅いだ。

 さすがに臭かったんだろう、悲鳴のように鳴いて顔をしかめたようにも見えたが、それだけしても何もないトロルドに、再び首を傾げた。

 レオがさらに声をかけると、シェリーもこのトロルドは無害と気付いたらしく、ちょっと元気が出たようで、はっきりと声を出して吠え始めた。

 見守っている俺とクレアさんは、レオの試みが成功したのかと考えて顔を見合わせる。


「キャゥー! キャゥー!」

「ワフゥ……ガウ!」

「キャヒン!」

「あー、調子に乗ってレオに怒られてますね……」

「ふふふ……。でも、とりあえずは怯える事がなくなったようで、良かったです」

「そうですね」


 少しすると、トロルドが動かない事に調子に乗ったシェリーが、残骸の上に乗って飛び跳ねたりするようになった。

 さすがに調子に乗り過ぎだと、レオが叱るように吠えていたが、先程の怯えていた様子とは打って変わって、元気なシェリーを見て俺とクレアさんは安心できた。

 まぁ、今回は動いていないトロルドだからで、もし襲って来るトロルドを見たらまた委縮してしまうかもしれないが、トロルドに対するトラウマも少しはマシになったかもしれない。

 やり方は少し厳しく思ったが、後でレオを褒めておかないとな。



「キィ、キィ」

「ほら、フワフワでしょう?」

「わぁ、本当だ~」

「ワフ……」

「まぁ、子供の興味は変わりやすいから、仕方ないさ。リーザはちゃんとレオに懐いているから、大丈夫だって」

「……ワフ!」


 シェリーをトロルドに慣らせた後、片付けも終わり朝食も食べ終わった後、ティルラちゃんがリーザの手を引いてラーレと触れ合わせていた。



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