第566話 カッパーイーグルの名前が決まりました



「えっと、カッパーイーグル……でしたっけ? あなたの名は……『ラーレ』です!」

「キィ! キィー!」


 しっかりとカッパーイーグルの顔を見上げ、自分よりも随分と大きな魔物へ向かって、はっきりと名を告げるティルラちゃん。

 その名を受け入れ、カッパーイーグル……いや、ラーレが大きく鳴いて体を光らせた。

 これは……魔法を使ったとかではなく、従魔にする時の光だな。

 シェリーの時も、同じように全身が光っていた。


「キィ、キィ!」

「これからよろしくお願いします、ラーレ!」

「キィー」


 全身の光が収まったラーレは、嬉しそうな鳴き声を上げながら、ティルラちゃんへとくちばしを近付ける。

 それを撫でながら、満面の笑顔のティルラちゃん。

 ラーレもよろしくと言うように、体を摺り寄せていた。



「そういえばティルラちゃん。ラーレってどういう意味で付けた名前なの? クレアさんはシェリーに愛される者という意味で付けたみたいだけど……ティルラちゃんも意味とかは考えたのかな?」

「それは……考えました。姉様が付けたようにちゃんと意味を持っていて、かわいい名前を……でも……」

「でも?」

「……な、内緒……です……」


 従魔契約が終わり、皆が寝る準備を始めた頃、ラーレにじゃれつくティルラちゃんにふとした質問をしてみた。

 クレアさんのように、意味のある名前を付けたのかなと思って聞いたんだが……。

 ちゃんと意味を考えて付けたのは確かなようだが、恥ずかしそうにするティルラちゃんに内緒にされてしまった。

 うーん、恥ずかしがるような事なのかな?


「タクミさん、タクミさん……」

「ん……クレアさん?」


 無理に聞き出すのも気が引けるため、内緒というティルラちゃんに首を傾げていると、小さな声でクレアさんに呼ばれて手招きされた。

 何やら言いたげだが……とりあえずそちらへ行ってみよう。


「ティルラが付けた、ラーレという名前ですが……」


 クレアさんの所へ行くと、ティルラちゃんに聞こえないくらいの小さな声で、名前の意味を教えてくれた。

 それによると、ラーレとは「子守歌を歌う」という意味があるようだ。

 ……成る程。

 それって間違いなく、さっき羽毛に包まれて寝たからだよね?


 ティルラちゃんが恥ずかしそうにしていた理由がわかった。

 子守歌を聞いているのと同じくらい安らかに眠れて、気持ちのいい羽毛だったんだろうなぁ……。

 ティルラちゃんは内緒にしたいようだし、名誉のためにもこれ以上聞くのは止めておこう。

 ……護衛さん達や、使用人さん達も全員がティルラちゃんを微笑ましく見ているから、皆意味はわかっているようだがな。



「んにんに……」

「グゴー! グガー! ……フゴッ!」

「珍しく、今日は何もなかったな……」


 ティルラちゃんとラーレの従魔契約が終わり、明日引き揚げて帰る事を確認した後、それぞれがテントへと戻って休む。

 俺もリーザやレオと一緒に見張りを終えて、テントへと戻る。

 リーザはやはりというかなんというか、初日の夜と一緒で見張り中に寝てしまった。

 口をモゴモゴと動かして、寝言のような寝息のような音を聞きながら、シュラフへとリーザを入れて寝かせる。


 相変わらず、エッケンハルトさんの激しいいびきが響くが、これも今日が最後かと思うと何だか寂しさも……沸いては来ないか。

 ともあれ、連日見張りをしている時に誰かが来ていたのが今日はなく、魔物が近寄って来る気配もなし。

 何事もなく見張りを終える事ができた。

 ちょっとだけ拍子抜けだが、皆ラーレの事を考えるのでそれどころではないんだろうなぁ。


 レオもそうだが、シェリーに続いてティルラちゃんも従魔として魔物を従える事になった。

 しかも、今度は四足歩行の獣ではなく、鳥だから……屋敷に入るんだろうか?

 いや、天井の高い建物だから、中に入る事はできるだろうが、色々窮屈そうだ。

 まぁ、そのあたりは屋敷へと帰ってから考えればいい事……かな。


 そんな事を考えながら、ゆっくり休むために安眠薬草を食べて俺もシュラフへと潜り込んだ。

 ……薬草に頼り過ぎは良くないとは思っていても、エッケンハルトさんのいびきがすごいから、仕方ないよな。

 明日は森から引き揚げる日……荷物を持っての移動もあるから、しっかり休まないと……。

 そんな事を考えながら、目を閉じて意識を手放した。


 あ……最近、リーザや他の事に構ってばかりで、あまりレオを構ってやれてなかったな……。

 屋敷に戻ったら、しっかり構ってやろう……色々と頑張ってくれたし、魔法も使って……たし……な……。



―――――――――――――――



「キィー!!」

「うぉ!?」

「どうしふぁのー?」

「グゴー! グギギギギ! グガー!」


 突然、ラーレの物と思われる甲高い声が聞こえ、目が覚める。

 隣で寝ていたリーザは、まだ完全に目が覚めていないようで、シュラフの中でゴソゴソしながら呂律の怪しい声を上げていた。

 ……エッケンハルトさんだけは、かわらず大きないびきをかいているな……まぁ、それだけ眠りが深いんだろう。


「どうしたんですか!?」


 とりあえず、まだ眠そうなリーザを置いて慌ててテントの外に出る。

 外では既に起きていたのか、ライラさん達使用人さんと、護衛の人達が森の方を向いて何かを見ていた。

 皆に声をかけながらそちらへと近付く。


「あぁ、タクミさま。おはようございます。その……」

「あちらに何かあるんですか? ん?」

「どうかしたの!?」

「なんなんですの……?」

「何かあったんですか!?」


 ライラさんに挨拶をされ、視線で森の方へと促されるままに、森の方を見てみると……。

 そちらにはレオとフェンやリルルが、ラーレの後ろでお座りをしている状況だ。

 ラーレは、翼を広げて森へ向かっているようだが……?

 どういう状況なのかを見ている間に、女性用テントからクレアさんとティルラちゃんが慌てて出てきた。

 アンネさんは、まだ眠そうに目をこすっている。


 俺と同じく、先程の声で起こされたんだろうな。

 でてくるのが少し遅かったのは、女性だから一応整える必要があったからだろう……と思っておく。

 アンネさんの服が、危うい状態で着崩れているのは、見なかったフリをした――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る