第564話 予想外以上に多くの食材を消費していたようでした



「よく食べてますね……」

「そうですね……」


 カッパーイーグルとの話が終わり、エッケンハルトさん達にも内容を伝えた後、ライラさん達が頑張って用意してくれた夕食を頂く。

 クレアさんと二人で、皆が囲んでいる焚き火から少し離れた場所……魔物達の食事場になっている場所を見ながら、お互い苦笑いをしながら呟いた。

 レオやシェリー、フェンやリルルだけでなく、カッパーイーグルもいて体の大きい魔物が集まっている様子は、いっそ壮観だが……それよりも、尋常じゃないスピードで盛られた肉が消えていくスピードの方が壮観だ。

 その中で、唯一体の小さいシェリーは、周囲ががっつくように肉を食べるのとは違い、行儀よくちびちびと齧って食べていた……クレアさんの従魔らしいな。


「タクミ殿、やはり明日にはこの森を出た方が良いようだ」

「さっきも言われたので、そのつもりでしたが……何か問題でも?」

「タクミ様、オークを倒して下さっているので、お肉には困りませんが……他の食料の方が心許ないのです」


 レオ達の方を見ていたら、ライラさんを連れたエッケンハルトさんに声をかけられる。

 明日森を出ようという事は、俺がカッパーイーグルと話しているうちに寝ているティルラちゃん以外に伝達済み。

 すでにそのつもりでいたのに加えて、疲労とは別の理由で森を出なければいけない理由ができたようだ。

 ……レオだけでなく、フェンやリルルもよく食べるしな……今回の夕食にはカッパーイーグルもいるから。


 というか、鳥型だから小麦とか木の実を好むのかと思いきや、嬉しそうに肉をついばんだり鋭いくちばしと爪を使って、大きめに切って焼いてあるオーク肉をちぎって食べている。

 まぁ、猛禽類だからな……肉食でもおかしくないか……そもそも魔物だし。


「野菜の方はまだ多少残ってはいるのですが、明日いっぱいが限界かと。それに、調味料の方も……」

「そうですか、わかりました。それじゃエッケンハルトさん、さっき話した予定通りに」

「うむ。明日は朝から昼にかけて出立の準備をする。……完全に日が落ちる前に屋敷に帰れるよう、動くぞ。あぁ、セバスチャン!」

「畏まりましてございます」

「畏まりました!」


 野菜が多少残っていても、調味料がないのは厳しいな。

 やろうと思えば、オークの肉だけで過ごす事もできるだろうが、そんなストイックなアウトドアをするために来たわけじゃない。

 調味料がない料理は味気ないだろうし、無理してこの場に留まる理由もないのだから、素直に変えるべきだな。

 ライラさんに頷いて、エッケンハルトさんに確認。


 エッケンハルトさんから簡単に予定を伝えられ、セバスチャンさんにも声をかけていた。

 セバスチャンさんが一礼するのと一緒に、もう一人の執事さんも同じように礼をしている。

 なぜかと思ったら、朝起きてすぐ護衛さんを伴って先に森の外へと向かうかららしい。

 森に来る時に使った馬車や馬の代わりは、すでに到着して森の端で留まっているそうだが、俺達が引き揚げて来る事を伝えて、すぐに出発できるよう準備をさせるためだそうだ。

 急に森から出て来ても、準備が整っていなければ出発できないし、日が暮れる前に屋敷へ帰れなくなるだろうからな。


「ふあ~……いい匂いがします……んにゅ」

「あら、ティルラ?」

「ティルラちゃん?」

「起きたか。食事の匂いに釣られてというのは、誰に似たのか……」

「ティルラお姉ちゃんが起きたー!」

「わっ! リーザちゃん。急に飛びついて来たら危ないですよー」


 テントの方から、まだ眠気が取れてなさそうな声が聞こえてきたので、そちらを見ると、ティルラちゃんが起きてこちらへと歩いて来ていた。

 とりあえず、食事の匂いで云々はエッケンハルトさんに似ていると思いますよ……?

 とは思っても口には出さずにおくと、既に食事の終わったリーザが、ティルラちゃんへと駆けて行って抱き着いた。

 リーザは元気だなぁ……ティルラちゃんとは違って、慣れない森の中でもあまり疲れを感じていないようだ。


 ほとんど遊びに近い気分だったからかもしれないなぁ。

 あと、気を使わなくなって、緊張とは無縁で楽しんでいたからなのもあるか。

 大きな尻尾を振りながら、なんとかティルラちゃんに受け止められたリーザを見ながら、獣人の体力に少し感心してしまった。


「ティルラ、とりあえず食事をしろ。その後、あの魔物との事を決めるぞ?」

「はい、父様。もう決まっていますが、わかりました!」

「リーザ様、どうぞ」

「ありがとうございます、ライラ」

「ティルラお姉ちゃん、これから食べるの?」

「そうですよー。リーザちゃんはもう食べましたか?」

「うん、美味しかった!」

「それは良かったですねー」


 エッケンハルトさんに言われて、ひとまず食事をと焚き火の傍に座るティルラちゃん。

 すでにカッパーイーグルとの従魔契約をどうするかは決めているらしいが、まずは腹ごしらえ。

 食事の匂いで起きてきたのに、お預けはかわいそうだし、真面目な話をしている時にお腹が鳴ったりしたら、締まらないからな。

 ライラさんが持って来た料理を受け取ったティルラちゃんは、仲良そうにリーザと話しながら、寝起きとは思えない勢いで食べていた……相当お腹が空いていたんだろうな、まぁ、戦闘したりと運動もしたから当然か。


 その食べ方は、少しだけエッケンハルトさんの豪快さに似ていた……やっぱり親子は似るものなんだなぁ。

 まぁ、クレアさんは注意したそうでうずうずしていたけど。

 さすがに、リーザと仲良さそうにしている所を、注意してしょんぼりさせたりしないように我慢していたが。

 俺は、まだ食べ続けている魔物達と、仲の良さそうな子供達を朗らかに見守っていた。

 ……我慢しているクレアさんを笑っていると勘違いされて、すぐに謝る事になったけどな……。



「それでだ、ティルラ」

「はい!」


 食事も終わり、エッケンハルトさんが真面目な雰囲気を作ってティルラちゃんに話し掛けた。


「魔物との従魔契約、どうするのだ?」

「私は、従魔にしたいと思います! レオ様に負けないくらい、気持ちのいい触れ心地でした!」

「……従魔にするのに、それを理由にするのは如何なものかとおもうが……まぁ、ティルラらしいと言えばらしいのか……」



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