第563話 カッパーイーグルと話しました



 セバスチャンさんが苦虫を噛み潰したような表情で、ティルラちゃんとの従魔契約の事を言っていた。

 シェリーもそうだが、従魔になれば主人となる人間に危害を加える事はできなくなるらしいから、今よりは安全になるのは間違いない。

 だが、疲れて寝てしまっているティルラちゃんだしな、まだ年端もゆかない年齢の女の子のせいにするのはしたくない。


「はぁ……わかりました。レオに頼んで、一緒に話をしてきますよ。あ、あとリーザも呼んだ方がスムーズですね」

「直ちに呼んで参ります」

「すまないが、頼んだぞ。なに、タクミ殿なら大丈夫だ、うむ。夕食にはオークの肉を多めにするよう言っておこう」

「……オークの肉ばかりというのもちょっと。ここ数日毎回食べてますし。まぁ、滅多な事にはならないでしょうから、さっさと話して来ます……はぁ」

「すまない、頼んだぞ」


 溜め息を吐いて承諾し、腰の引けているエッケンハルトさんに頭を下げられる。

 ご褒美に夕食を豪華にというのは、屋敷に戻ってからヘレーナさんの料理でやって欲しいがな。

 それはともかく、リーザを呼びに行ったセバスチャンさんを待ち、何度も頭を下げるエッケンハルトさんを尻目に、カッパーイーグルへと話をするために向かった。

 俺も、腰が引けていないか少し心配だが……リーザも一緒にいるので情けない姿は見せられないと、内心で気合を入れておくことを忘れない。



「えーと、つまり本当にカッパーイーグルで、俺達が予想していたように、人間が動き出しそうな気配を感じたから、レオへと接触しようとした……という事でいいんだな?」

「キィ!」

「そうだ! だってー」

「ワフワフ」


 エッケンハルトさんやセバスチャンさんと話していた事を、レオやリーザと一緒に魔物へと聞く。

 それによると、本当にこの魔物はカッパーイーグルという種族であるらしく、なんとなくではあるが物々しい雰囲気……住処にしている山へと人間が向かうような気配を感じ取ったらしい。

 あくまでなんとなくであり、本当に人間がどう考えていたのかまではわからないらしいが、セバスチャンさんが言っていた事を考えると、雰囲気のようなものは確かに感じていたようだ。

 そして、最近になってシルバーフェンリル、つまりレオの気配を感じるようになった事で、動かざるをえなくなったと言っていた。


 おそらくだが、人間とシルバーフェンリルが協力するとまでは思っていなかったが、何かの気まぐれでレオが山へと来たら従えている魔物ともども、やられてしまうかもしれないという可能性を考え、念のため様子を見ようとしたとの事だ。

 そしてそこで、人間と一緒にいるレオを見て、このままだと自分達の住処が危ないと考えたらしい。

 人間相手なら、いくらでも対処できるとも言っていたが、さすがにシルバーフェンリルがそこに加わるとどうにもできないので、咄嗟に人間との協力関係という事を考えて、接触の機会を窺っていたという。

 元々、ティルラちゃんと話している時にも言っていたが、何かを乗せて自由に空を飛ぶ……という事もして見たかったらしいので、丁度いいとも考えたようだ。


 従えている魔物は、配下という扱いなので自分より上位の者以外は乗せたくないし、元々飛べる魔物が多いために乗せる必要はなく、それなら従魔になって人間を乗せればとの考えに至ったようだ。

 とはいえ、どの人間でもいいわけではないので、シルバーフェンリルの近くにいる人間ならば……とも考えたらしい。

 まぁ、レオと関係しない人間で誰でもいいのなら、それこそ偶然山に入ってきた人間に頼んでもいいわけだしな。

 それと、先程も言っていたように、空を飛ぶのはバランスが重要なので、できるだけ軽い方がいいというのも、大きな理由らしい。

 ……山の中に、子供が偶然入って来るような事はないだろうしな。


「えーと、それじゃ誰かと戦ったりとか、人間を害したりするつもりはないんだな?」

「キィ」

「……さっき、気が付いてすぐ俺を威嚇しようとしてたが……?」

「キィ!? キィキィ……キィ……」

「あの時は突然目の前に人間が現れたので……つい……って言ってるー」

「ワフゥ。ワウガウ!」

「キッ!」


 人間に対して害意はないと確認して、すぐに頷くカッパーイーグル。

 ボソッと、俺を威嚇した事を呟くと、焦るように声を出して弁解している様子だった。

 リーザに通訳してもらったが……まぁ、いきなり魔法をぶつけられて落下し、気が付いたら目の前に人間が……なんて状況になったら、警戒して当然か。

 レオが溜め息を吐くように声を漏らした後、少し怒るようにして吠える。


 もうやるなよ! と言っているようだが、それに対して体を緊張させたカッパーイーグルは、右の翼を上げて短く鳴いて頷く。

 多分、わかりました! という意思表示なんだろう。

 まぁ、人間と敵対せずにレオに怯える様子を見ると、危険な魔物には見えないから大丈夫だろう。

 本当に国一つ滅ぼすと言われているのかも疑問だが、本気で戦うとなると絶対俺が敵うような相手じゃないだろうから、試す気も沸いて来ない。


「話を聞いた限りでは、大丈夫そうだな。後は、ティルラちゃんがどうするかか……まぁ、寝る前に喜んでいた様子を考えると、なんとなくどうするかわかるが」


 レオがいるおかげなんだろうが、それでもこれだけ友好的というか、争いを好まないという種族ならエッケンハルトさん達のように腰が引けるまでしなくてもいいのかもしれないな。

 ……変にちょっかいを出すと、恐ろしい反撃が待っているんだろうが、話をするくらいなら問題なさそうだ。

 ちなみに、ラクトスの街の人やセバスチャンさんは、山にいる魔物の親玉がこのカッパーイーグルだとは知らなかった事と、姿を現すだけで人間が恐れて手を出さないのでは? と一応聞いてみると、首を傾げてなんで? という雰囲気だった。

 どうやらカッパーイーグル自身には、自分が国を滅ぼせる力を持っていて、どれだけ凄いのかわかっていない様子だ。


 あと、争う事を嫌うので、力を誇示する事もほとんどしないらしい……さすがに攻撃されたら反撃だとか、従魔契約をしたら主人になるティルラちゃんを害する存在から守るとは言っていたがな。

 住処で魔物達を従えていると言っても、力で無理矢理とかではなく、平和的にのんびりとしていただけらしい。

 一応、魔物の中には絶対に敵わない相手として認識されているため、それで従っている魔物もいるんだろうが、基本的にのんびりというか暢気な性格なのかもしれないな。

 シェリーものんびりした性格のように感じるが、あちらは戦う事を厭わない獣らしいところもあるので、似ているようで少し違うのかな?



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