第562話 鳥型魔物の正体が判明しました



「銅色の毛を持つ鳥の魔物……レオ様程ではありませんが、人間よりも大きな立ち姿……おそらく、カッパーイーグルで間違いないかと思われます」

「カッパーイーグル……? どこかで聞いた覚えがあるな」

「それもそのはずです。あの姿は文献に記されていた通りのままで、思い出すのには苦労しましたが……寄る年波には勝てませんなぁ。それはともかく、カッパーイーグルは鳥の姿をした魔物の頂点に立つ存在。それ一体で、国一つを滅ぼしてしまう事もできる魔物と言われております」

「なんだと!? カッパーイーグル……そうか、以前何かで見た覚えがあるな……だが、本当にあの魔物なのか? しかも、そんな魔物がこんな所にいるとは……」

「カッパーイーグルは、確かに国を一つ滅ぼす力を持つと言われておりますが、争いを好まない種族とも記されておりました。他の魔物を従える事はあるようですが、基本的に自分達から他者を害する事は少ないようです。従えた魔物が勝手にだとか、攻撃して来た者を排除すると言う事はあるそうですが……」

「争いを好まない……確かに、ティルラと従魔契約をして、住処を脅かされないようにと考えているようだから、辻褄はあうのかもしれんが」

「その、本当に国を一つ滅ぼせるんですか? レオが簡単に魔法で叩き落しましたけど……」

「レオ様は、特別というより別格だからな。シルバーフェンリルが本気になれば、この国はおろか、この世界が危ういとも言われているぞ?」

「……そんなに、ですか?」

「「……」」


 俺の質問に答えるエッケンハルトさん。

 えっと、レオってそんなに強かったのか?

 子供が好きで、ソーセージを前にすると尻尾を振って飛びつくような、あのレオが?

 もしかして……以前ディームの事を話していた時、ラクトスを云々言っていたのは俺をからかっていたわけじゃなくて、レオなら本当にできてしまうと二人は知っていたから、割と本気で注意していた……とかか?


 うーん……撫でられて気持ち良さそうにしているレオや、尻尾を振って舐めて来る姿ばかり思い浮かんで、破壊の限りを尽くす姿というのは、俺の貧相な想像力では浮かばないんだが……。

 首を傾げた俺に対し、神妙に頷くエッケンハルトさん達からは、冗談と思える雰囲気は感じられない。

 ……とりあえず、レオの事は脇にポイっと置いておいて、まずはあのカッパーイーグル、だったか? に集中しよう。

 イーグルという事は、見た目通り鷲と同じで考えていいんだろう。

 俺の知っている鷲よりも随分大きいが、レオやフェン達が知っているオオカミよりも大きいから、この辺りは考えても無駄だな。


「おそらくあのカッパーイーグルは、ラクトス北にある山で目撃されたという魔物で間違いないかと。住処と言っていたのなら、決まった場所があるのでしょうし、従えている魔物もいるとの事ですからな」

「そう、だろうな。そことは別の場所……あの山以上に離れている場所から、レオ様の気配を感じる事はできそうにもないしな。カッパーイーグルが、空を飛ぶ事で遠くまで見渡せるとしても……だ」

「はい。こちらにレオ様がいて良かったです……ラクトスの北を安全にするために、目撃証言をもとに兵士を向かわせるか検討段階にありました。もしかしたら、カッパーイーグルがいるとも知らず、こちらから攻撃を加える可能性もあったと……」

「国を滅ぼせる程の魔物相手にか? 無謀すぎるな。ともあれ、正体がわからなければ仕方ない事でもあるか……全く、レオ様といい、なぜこうもこの地域にそんな魔物が多いんだ……フェンリルもいるしな」

「あー……レオはまぁ、俺と一緒に来ただけですから」

「そうだったな……もしかすると、カッパーイーグルの方も、こちらが動く気配を感じて、どうにかして避けようと考えていたのかもしれんな」

「レオ様程ではありませんが、フェンリル達などのように知性のある魔物を見ていると、それくらいは考えてもおかしくないかと。むしろこちらは、いらぬ刺激をして反撃されないだけ、ありがたく思う方が良いのかもしれません……」


 これまでの話を総合して考えると、ラクトス北にある山にいて、魔物達を従えていたのがあのカッパーイーグルと考えて間違いないようだ。

 国を滅ぼせると言われる程の力を持っていながら、無益にその力を振るわず、住処の安寧を求めて自ら従魔に……というのは確かに、争いを好まないと伝えられるそのままなのだろうと思う。

 すぐ近くにある人間の街、ラクトスが何事もなく平和なのがその証拠だろうな。

 まぁ、そこでいきなり人間と従魔契約をと考える、思考の飛躍はよくわからないが……いや、もしかしなくともレオと一緒にいる事が原因なんだろうな。


 さっきの話とカッパーイーグルの様子を見るに、レオに対しては絶対敵わないようだし。

 エッケンハルトさんはフェンリルも含めて、強力な魔物が次々と発見されるこの地域に対して、溜め息を吐くようにしているが、レオは俺と一緒に知らないうちに移動してしまっただけだからなぁ……。

 ともあれ、カッパーイーグルは空を飛ぶ事できるのだから、街の様子を探るのは簡単だろう。

 遠くを見渡して知性もある事から、もしかするとエッケンハルトさんの言うように、兵士が山へと向かう雰囲気のような、ちょっとした物々しさを感じていた可能性も高い気がする。


「……すまないが、タクミ殿……」

「はい?」


 少し言いにくそうにしながら、俺に視線を向けるエッケンハルトさん。

 ちょっと嫌な予感がするんですけど?


「あのカッパーイーグルに確かめて来てくれないか?」

「俺がですか?」


 嫌な予感、的中。

 そりゃ、さっきまでは話していたけどさ……国を滅ぼせるとまで聞いて、簡単に話しかけるなんてなぁ……。

 いや、エッケンハルトさんも似たようなものなんだろうけど。


「タクミ殿にはレオ様がいるだろう? 先程までも、今もおとなしいし……レオ様がいればなんとか話せるはずだ」

「それはそうですが……」

「ティルラお嬢様が従魔契約を済ませておけば、こんな心配もなかったのかもしれませんが……」


 確かにレオがいれば大丈夫だろうし、今もおとなしくしているカッパーイーグルなら、話もできそうだが……。



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