第538話 フェンリル達へお願いをしました



「広範囲でなくても構わないのです、レオ様。一部だけでも数を減らす事ができれば、それは全体に影響を及ぼします。そして、森全体の魔物が減る可能性もあるかと……」

「ワフ……ワフ!」

「わかった! だって」


 俺達が入って来ているのは、広い森のほんの一部だ。

 さすがにフェンリルであっても、そのすべてを網羅する事はできないだろう。

 だがエッケンハルトさんは、森の一部地域だけであっても、人間を積極的に襲う魔物を減らせば、全体数が減るから……と考えているみたいだな。

 この場合の魔物は、オークだな……一応、トロルドもいたか……それ以外は、遭遇した事がないので、俺は知らないが……まぁ、広い森だから他にいてもおかしくないだろう。


 まぁ、フェンリルが棲んでいる地域の魔物が減ったら、他の場所からなわばりのようなものを求めて来る事もあるだろうし、全体数が減って、多少なりとも危険が減るのは間違いない。

 イメージとしては、広い森に広がっている魔物が、薄く引き伸ばされている感じかな?

 ちょっとわかりにくいが、密集率が下がると考えると、わかりやすいかもしれない。


「ワフ、ガウガウ! ワウ?」

「ガウゥ……ガウ!」

「ガウガウ!」


 俺やエッケンハルトさんから話を聞いたレオが、まだ食事中だった親フェンリル達の方へゆっくりと歩いて行き、吠えるようにして説明していた。

 食事中なのに……と少し名残惜しそうな声で鳴いた後、父フェンリルが頷き、それに続いて母フェンリルも頷いてくれている。

 雰囲気としては、任せて下さい! と引き受けているようだが、大丈夫だろうか?

 親フェンリル達は大丈夫でも、群れの意見とかあるしな。

 それからも、レオが何か言うように鳴いて、親フェンリル達がそれに答えるというのを繰り返して会話していた。


「ワフーワウワウ。ワーウワフ」


 少しだけ不安になって、レオに訪ねてみると大丈夫というように頷いて説明してくれた。

 なんでも、ここにいる親フェンリル達は、群れの中でも高い地位にいるらしく、そのうえ周囲にいる魔物達は見境なく襲って来るので、迷惑していたとの事。

 自然の摂理のため、必要以上に狩ったりはしないが、数を減らすくらいなら簡単にできるから、問題ないし群れでも反対意見は出ないだろうと言っていたらしい。

 それに、レオに頼まれたら断る事なんてできないらしい……ちょっと卑怯だったかな?


「ま、まぁ……フェンリル達も問題ない様子だし、大丈夫だろう」

「そうですね……群れの方で問題ないのでしたら、大丈夫でしょう」


 リーザから通訳をしてもらったエッケンハルトさんが、少し戸惑いながらもそう言っていた。

 俺と同じように、レオに頼ませた事が卑怯と考えているのか、それともすんなり話が通った事に驚いたのか……両方かな。

 ちなみに、人間を襲うかどうかだが、そちらもできる限り襲う事はないと約束してくれた。

 というよりそもそも、親フェンリル達が人間を見たのはこれが初めてらしく、話をしている途中から鼻をスンスンさせて、人間の匂いというものを覚えようとしているみたいだったな。


 レオが来た事に関係なく、普段は森の奥で暮らしているため、そこまで人間が足を踏み入れる事がなかったんだろう。

 オークだけじゃなく、トロルドやもしかしたら他の魔物がいる可能性のある森だからな、好き好んで奥まで行ってみようという人間はいないか……。

 あ、いや、俺やクレアさん以外は……と付け加えておこう……以前シェリーを見つけたのは、川の向こうで結構奥まで進んでいたしな。


「とりあえず、人間を見かけても襲ったりしないという事で、話はつきましたね」

「そうだな。まぁ、さすがにフェンリルを襲うような人間からは、自衛のために反撃するとは言っていたが……」

「それはそうでしょう。フェンリルも生きているのです。自分や家族を守るためにも、襲われたら反撃もします。ただ逃げるだけでは危険ですからな」


 話が終わり、エッケンハルトさんと話す。

 そこにセバスチャンさんが加わって、もしフェンリルが人間から襲われた際に対処されるのも仕方ないとエッケンハルトさんに補足していた。

 そりゃそうだよな……襲ってきた人間すらも反撃せず、そのままにしていたらフェンリル達の方が危ないからな。

 多少なら、シェリーのように傷一つ付かないだろうが、魔法を使ったり武器を使ったりと、もしもの事だって考えられる。


 森の奥でフェンリルを見つけ、襲い掛かるような命知らずは、返り討ちに合っても仕方ないだろうな。

 とは言え、今まで見た事がないと言われるほど、人間がフェンリルの棲む場所まで行く事はないようだし、そもそも普通なら逃げ出すだろうから、大丈夫だろう。

 ここで会ったのも何かの縁……というよりシェリーやレオの縁。

 誰かを襲う事もなく、友好的な関係を築けそうなフェンリル達が、傷付いたりするのは嫌だからな。


 エッケンハルトさんやセバスチャンさんと話しながら、レオからの話が終わって再び食事を始め、満腹になった親フェンリル達が満足そうにお腹を見せて転がっているのを見る。

 周囲にいる人達からお腹を撫でられ、満腹なのも相俟って気持ち良さそうにしているフェンリル達は、大きさは規格外だが、もはや飼い犬のようにすら見えた……。

 毛がモコモコで、レオに頭が上がらずおとなしいせいなんだろうが、これだけ可愛いフェンリル達は、このまま誰かに害されたりはせず、平和に暮らして欲しいからな――。



「そう言えばリーザ?」

「どうしたの、パパ?」

「ワフ?」


 料理を食べて満足したら、群れの方へ帰るのかと思ったが、そのまま皆にお腹を撫でられながら気持ち良さそうにしているフェンリルを見ながら、レオの背中に乗っているリーザへと声をかけた。

 ……親フェンリル達、いつ帰るんだろう? という疑問はともかく、俺の声に首を傾げるリーザへと視線を向ける。

 レオも一緒に首を傾げていたが、リーザとの話だから関係ないんだぞ?

 とりあえず、構って欲しそうだったので、レオの体をゆっくりと撫でてやりながら、リーザへと聞いた――。



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