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第484話 二人を残して寝る事にしました
第484話 二人を残して寝る事にしました
「「セ、セバスチャン!?」」
「もう遅い時間です。お静かになさらないと、皆さんが起きてしまいますよ? それとも、旦那様とお嬢様は夜中に使用人達を起こして、翌日に影響が出るような事がお望みですかな?」
「「っ! っ!」」
結局、一呼吸おいて、驚いて大きな声を出したエッケンハルトさんとクレアさん。
その二人に、大きな声を出さないように注意するセバスチャンさんの言葉には、深々と刺さって抜けなさそうな棘が含まれている。
そっと目を開けて様子を見ると、セバスチャンさんに向かって激しく首を横に振る二人が確認できた。
「まぁ? 私は旦那様やお嬢様方をお支えするのが役目ですからね、苦言を呈する事もございます。ですが、それを疎ましく思っておられるとは……」
「いや、疎ましくは思っていないぞ? 本当だぞ?」
「そうよセバスチャン。ずっと私やお父様を支えてくれて、感謝してるわ」
「うむ。私がまだ当主ではなかった頃から、ずっとだからな。セバスチャンには感謝しているぞ?」
セバスチャンさんからは、怒りのような雰囲気はないんだが、クレアさんとエッケンハルトさんは、愚痴を聞かれたと焦ってしまっていて、なんとか弁解しようと必死な様子だ。
これは……セバスチャンさんが遊び始めたかな?
「ところでタクミ様、見張り交代の時間になっております。明日の事もあるので、お早めにお休みいただいた方がよろしいかと……」
「え? あ、はい。そうですね。確かにそんな時間になっていました……」
なんとか、疎ましく思っているのではなく、感謝を伝えようとしているクレアさんとエッケンハルトさんの二人を余所に、俺へ視線を向けて見張りの交代を告げるセバスチャンさん。
持っていた懐中時計を見ると、確かに交代を予定している時間になっていた。
結構話し込んでいたからな、もうこんな時間になってたのか。
「それじゃ、俺はリーザを連れてテントに戻りますね。――クレアさん、すみません……」
「あ、はい」
「スゥー、スゥー……」
「ワフ?」
「いや、大丈夫そうだ。このまま俺が運ぶよ。ありがとうな、レオ」
セバスチャンさんに断りを入れ、クレアさんに声をかけて抱き着いているリーザを受け取る。
抱き上げたリーザは、すっかり熟睡していて、ちょっとやそっとじゃ起きそうにない。
寝不足だったのと、クレアさんに抱かれているのが本当に安心したんだろうな。
レオから乗せる? と小さく鳴いて聞かれるが、重くもないのでこのまま運ぶ事にする。
レオの毛は気持ちいいが、何度も乗せたり抱き上げたりしてたら、熟睡しているリーザのじゃまになるからな。
「タクミ殿も、テントに戻るのだな。それでは、私も一緒に戻るとしよう。そろそろ眠くなってきたことだしな」
「そうですね、お父様。後の見張りはセバスチャン達に任せて、私達は明日に備えて寝る事にしましょう」
こういう時は、特に息が合っている様子のクレアさんとエッケンハルトさん。
焦り方が似てる気がするのは、確かに親子だと感じるな、うん。
「やはり、旦那様もお嬢様も、私と一緒に夜の見張りというのは、嫌ですよね。これまで口うるさく言って来た事を反省しながら、静かな夜を過ごしますか……」
「い、いや、そういう事ではなくてだな?」
「そ、そうよ。セバスチャンと一緒なのが嫌とか、そういう事はないわよ? ほら、一緒に座って、見張りをしましょう?」
「うむ、そうだな。それがいい。タクミ殿、私達はもう少しここにいるから、先にテントへ入って休んでいてくれ」
「ははは……はい。わかりました」
逃げようとするエッケンハルトさん達親子に、セバスチャンさんが少し拗ねたように言う。
それに対してさらに焦ったエッケンハルトさん達は、セバスチャンさんの言う事を否定しつつ、クレアさんが一緒に見張りをすると言い出した。
……俺から見えるセバスチャンさんの顔は、口の端が吊り上がっているようにも見えるから……これは、はめられてるなぁ。
俺よりも離れた位置にいる二人は、セバスチャンさんの表情に気付いていない。
角度的にも見づらいか。
「……それじゃ、おやすみなさい」
「ワウ」
「はい、おやすみさいませ、タクミ様」
「おやすみなさい、タクミさん」
「うむ」
レオと一緒に、セバスチャンさんの表情を見なかった事にして、その場に残る人達にお休みの挨拶。
リーザを抱えたまま、そっとその場から離れてテントへ向かった。
「……ニコラさん?」
「見張りお疲れ様です、タクミ様。……セバスチャンさんは、もう少しかかりそうですね」
「はい、そうですね……」
テントに近付いたら、近くに立っているニコラさんを見つけた。
セバスチャンさんと一緒の見張り担当だったから、起きて備えていたんだろう。
苦笑しながら話すニコラさんは、焚き火に残っている人達がどんな状況か、わかっているようだ。
まぁ、静かな夜で、風で揺れる木々や草花、川のせせらぎ以外はほとんど音のない深夜だしな……セバスチャンだけでなく、俺やエッケンハルトさん達が話していた声も、テント付近まで聞こえてたんだろう。
ニコラさんに苦笑を返しながら、見張りの交代をお願いして、リーザを連れてテントへと入った。
もちろん、レオはテントに入れないので、近い場所に毛布を敷いてそこで寝る事になっている。
リーザをシュラフの中にそっと入れた後、俺も自分のシュラフに体を滑り込ませ、目を閉じた。
俺も多少寝不足気味だったためか、すぐに寝られそうだ。
エッケンハルトさんとクレアさんは、しばらくの間セバスチャンさんに小言を言われてそうだし、明日はあちらが寝不足かな。
辛そうだったら、疲労回復や熟睡できる薬草を、二人に渡そうか……。
そのまま、エッケンハルトさん達はどれくらいの時間寝られないんだろう……? なんて考えながら、意識を深く沈ませていった。
――――――――――――――――――――
「きゃぁ! シェリー、水を飛ばしすぎー!」
「キャゥ! キャゥ!」
「ワフワフー」
「……ん?」
テントの外から、声が聞こえて目が覚める。
一瞬だけ、ここがいつもの部屋と違う事に戸惑いかけたが、そういえば森の中のテントで寝たんだという事を思い出して、シュラフから抜け出す。
隣を見ると、昨夜リーザを寝かせたシュラフが空だったから、もう起きたのようだ。
そういえば、さっき聞こえた声の中に、リーザの声もあったな……。
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