第467話 リーザが屋敷に残るか森へ行くかを決めました



「えっとだな? オークというのは……」

「うんうん、なるほどー」

「ワフ!」


 オークの特徴などをリーザに伝え、人を襲ったりする危険な魔物である事を教える。

 セバスチャンさんが説明したそうだったが、ここは俺に任せて欲しい……どうせまた、何か説明する機会があるだろうしな。

 俺の話をうんうん頷いて聞くリーザに、説明が終わった辺りで、レオがオークは食料! と言うように軽く吠えた。

 いや……オークをただの食料って言えるのは、レオが強いからだろ。


 実際に戦った俺からすると、油断すると危ないし、倒した後は肉として調理できるとあっても、最初から食料扱いはできない。

 家畜ではないんだし、甘く見ていい相手じゃない。

 まぁ、どこかにオーク肉を取って来るような、専門の業者とか商売があるかもしれないが、そういう人でもレオのように簡単に言える事は少ないと思うぞ。


「もしかすると、あれの事なのかな?」

「リーザは、オークを食べた事はあるのか?」

「うん、多分だけど……。たまにお爺ちゃんが、ご馳走と言って美味しいお肉を持って帰って来る事があったの。ママが食べ物って言うのなら、そうなのかもって」

「……オークは、街の近くにはいないが、時折近づいて来る事もある。それに、山や森へ入れば比較的遭遇しやすい魔物だからな。狩猟で得られる事もあるだろう。そういった事を生業にする者もいるしな」


 お爺さんと言えば、レインドルフさんの事か。

 リーザのためなのか、売るためなのかはわからないが、オークを倒して食べられる肉を持って帰って来る事があったみたいだ。

 さすがに、形を保ったまま持って帰って来てるわけではないので、リーザ自身それがオークだとはっきり断定できないみたいだが。

 イザベルさんの話では、リーザを拾う前のレインドルフさんは、根無し草の旅人だったらしいから、オークと遭遇する事もあっただろうし、倒した後食料として食べた事もあったんだろう。

 それで、時折美味しい肉をリーザに食べさせるために、狩りに行っていたのかもしれないな。


 というか、魔物を狩って、それを売るという職業もやっぱりあるみたいだ。

 なりたいとは思わないが、人に危害をもたらす魔物を倒して、それで生計を立てられるのなら、いい職業だ。


「いつも、お爺ちゃんが持って帰って来てくれるのを待つだけだったから、実際はどんなのか見たい! 私も森に行く!」


 レインドルフさんが、実際にどんな魔物を倒して、お肉を持って帰って食べさせてくれたのか、リーザは興味があるようだ。

 好奇心が勝った様子で、危険な森に行くのは憚られる気もするが、このくらいの年齢ならそれは仕方ないのかなとも思う。

 一人で行くわけでもないし、俺やレオがしっかり見て危ない事をしないように注意していれば、大丈夫だろう。

 護衛さんや、エッケンハルトさんもいる事だしな。


「そうか……わかった。――エッケンハルトさん、リーザも連れて行くという事で……大丈夫ですか?」

「うむ。クレアやアンネリーゼも行く事になったため、考えていたよりも大所帯になってしまったが……構わないだろう。森の奥深くへ行く事が目的なわけでもないしな」

「……森に入る使用人を増やしますか?」

「そうだな……人数が増えれば、その分人手も必要だろう。セバスチャン、行けそうな者を選定しろ」

「畏まりました……」


 リーザに頷き、エッケンハルトさんの方へ向き直って、連れて行く事を確定させる。

 森の奥深くへ行く事が目的じゃないため、危険はあまり多くないと考えているようだ。

 まぁ、シェリーからの話で、奥深くにフェンリルがいる事はわかったが、そこまで行くわけでもないから遭遇する事もない。

 それに、フェンリルはレオがいてくれる限り大丈夫そうだ。


 他に遭遇しそうなのはトロルドだが、そちらも前回発見したのは森の奥……川を渡った先の事だ。

 そちらに行かなければ、遭遇する機会も少ないだろうし、シェリーのトラウマを刺激する事も少ない……と思う。

 レオが何か仕掛けなければ……だけどな。

 とはいえ、基本的にレオは優しいから本当に千尋の谷に突き落とすような事は、さすがにしないと思う。


「……もう少し、ロエが必要ですかね?」


 ふと考えたのは、森へ行く人数。

 エッケンハルトさんが言うように、クレアさんやアンネさんも追加されてしまったため、連れて行く使用人さんが足りない可能性もある。

 人が増えればお世話をする事も増えるため、予定のままだと、一人あたりの負担が大きすぎるしな。

 セバスチャンさんが選んで連れて行く人だから、問題のない人達だろうけど、森への人数が増えるという事は、必要になるロエも増える可能性があるという事。


 魔物だけでなく、森の中では何かしらの理由で怪我をする可能性もある事だしな。

 そう思って、エッケンハルトさんに聞いてみる。


「いや、タクミ殿。先程のロエだけで十分過ぎる程だ。とりあえずは、追加で作らなくとも大丈夫だからな?」

「そうですか……わかりました」


 さっき渡したロエで十分との見方のようだ。

 ……ちょっと怪我に対して心配し過ぎなのかな、俺?

 まぁ、何かあれば現地で作ればいいか。


「お父様、森への予定はどうなっていますか?」

「あぁ、そうだな。先程タクミ殿とは話したが、クレア達が加わるなら、改めて言っておかねばならんか」


 森での予定は俺とエッケンハルトさん、セバスチャンさんの間だけの話だった。

 クレアさんやアンネさんも来る事になったのだから、予定を皆で共有しておかなければならない。

 さすがに時間も結構経っていて、夕食の用意も終わっていたみたいで、今回の話は食事をしながらという事になった。

 クレアさんは、食事をしながらでも真剣に聞いていたが、アンネさんは意気消沈したままで、ヘレーナさんの作ってくれた料理でも持ち直す事はなかった。

 ……ちゃんと予定くらいは聞いておいた方がいいと思うが……いや、多分それでもちゃんと聞いてるんだろうな。


 ちなみに、行程の説明はセバスチャンさんが意気揚々としてくれた。

 リーザにオークの説明ができず、俺が説明した事の鬱憤を晴らしているみたいだったなぁ。



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