第416話 レオと一緒に乱入しました
やっぱり、マルク君が話していた通り、ディームがリーザをいじめろと指示したのは間違いないようだ。
リーダー格の男が周囲にいる他の男達に顔を向けると、それを肯定した。
俺やレオが聞いている事を知らないまま、男は尚も続ける。
それを聞いて、俺は激しい怒りに襲われる……まだだ、まだもう少し……。
男達は、ほとんど少年達の方を見ているが、一人が周囲を警戒している。
ここはスラム真っただ中だ。
夜にどれだけの人が活動しているかはわからないが、街中よりも多くの人が動いている可能性が高い。
そのうえ、大きな声で叫んでいるので、近くの家の隙間や窓から、身を潜めるようにしながら様子を窺っている人達がいるのもわかる。
多分、その人達は完全に無関係というわけではないんだろうが、ディーム側というわけではないんだろう。
ディーム側なら、身を潜める必要もなさそうだしな。
もしかしたら、こうして少年達を追い詰める様子を見せて、恐怖でスラムを支配する計画なのかもしれない。
善良な民……かどうかはわからないが、こういう場所では力を持つ者が上に立つ……というのは良くある話だ。
ともかく、男達をどうにかするにも、もう少し周囲の警戒が甘くなった瞬間を狙いたい。
レオなら容易いだろうが、なるべく安全に……。
もちろん、ナイフを使ったりと、本当に少年達を殺そうとしたら、すぐに飛び出せるように注意しておくが。
「そうだなぁ……まずはてめぇだ……てめぇを見せしめに殺す。どうせスラムだ、人が一人いなくなったところでバレやしねぇよ。ま、全員殺すんだがな?」
「「「「ひっ!」」」」
「ディームさん、いいんですかい?」
「構わねぇよ。どうせこいつらはもう役立たずだ。ガキがガキをいたぶるってのが良かったんだが、もうその相手はいねぇしな。だったら、次にやられるのは誰か……わかってただろうしなぁ?」
持っていたナイフをこれ見よがしに見せる、リーダー格の男。
隣にいた男が名前を呼んだし、あいつがディームで間違いないか。
肩を寄せ合い、囲まれた状況で逃げ出す事もできず、少年達が震えあがる。
「おい!」
「へい!」
ディームが周囲を警戒していた男に声をかけると、その男が建物の隙間に隠してあった剣を取り出して渡した。
その剣は、俺がいつも使っている剣より大きい。
ロングソードとか、そういう部類なんだろう。
その剣を持ったディームが、少年達を向き、おもむろに振り上げる――。
まずい!
「っ! 行け!」
「ガウ!」
あんな剣が振り下ろされたら、何も身を守る物すら見に付けていない少年達は、ひとたまりもないだろう。
警戒していた男が、少年達に意識を移したのと、ディームが剣を振り上げた事で、すぐさまレオに声をかける。
俺と同じように、いつでも飛び出せるようにしていたのか、声に答えてレオが俺を飛び越えて男達へと向かった。
森に行く時のために、指示を覚えさせておいて正解、だったかな。
「ぐあ!」
「な、なん……ぐぅ!」
「ひぃ! あぐっ!」
レオが前足で、まず剣を振り上げていたディームを払いのける。
簡単に弾き飛ばされたディームは、広場の横の建物まで吹っ飛んでぶつかる。
その勢いのまま、俺達に背を向けていた男達へ、レオが襲い掛かる。
……俺も、遅れちゃいけないな。
外套の下、腰に下げていた剣を抜き、男達へ向かって走りこんだ……んだが、その頃には全て終わっていた。
男達は、レオの姿を確認する事なく、前足に弾き飛ばされたり、体当たりを食らって壁に激突、昏倒した。
あれ、俺の出番は……?
「ワフワフ」
「あー、うん。よくやった、偉いぞ?」
あっさりと男達を無力化したレオは、俺の所に戻って来て誇らし気な顔。
相手が人間だからか、牙や爪を使わず弾き飛ばしただけで、殺してはいないようなので、それも含めて褒めるようにぐっちょり濡れている頭を撫でた。
あぁでも、 さすがに怪我はしてるか……爪が引っかかったりしてる可能性もあるしな。
もしかしたら、飛ばされた衝撃で骨が折れてるのもいるかもしれないが、少年達を殺そうとした男達には同情しない。
「「「「……」」」」
「えっと、大丈夫か?」
突然乱入したレオや俺に、ポカンと口を開けて言葉が出ない様子の少年達。
そりゃそうか……殺されると恐怖に怯えていたら、急に飛び出してきてディーム達を蹴散らしたんだから。
……俺は何もやってないけど。
こんなにあっさり終わるんだったら、周囲を警戒してた男の事を気にする必要はなかったなぁ……。
「怪我はないか? って、蹴られてたか……」
「「「「っ……っ……」」」」
近寄って声をかける俺に、コクコクと壊れた人形のように頷くしかできない少年達。
かなり驚いたようだな……まぁ、しばらくは仕方ないか。
とりあえず、見た目では大きな怪我はないようだし、大丈夫そうだ。
ここまで引きずられて来たのか、あちこち服が破れたり、擦り傷はあるようだがな。
「グルルルルル……」
「レオ? ん?」
「つぅ……一体なんだってんだ……」
子供達の様子を見ていると、レオが別の方を見て唸り始める。
どうしたのかと思って、視線の先を辿ると、最初に弾き飛ばしたディームが頭を抑えながら立ち上がろうとしている所だった。
他の男達と違い、ディームはガタイがいい分、タフなのかもしれない。
「くそっ……一体何が……っ!?」
「グルルル……ガ……」
「待てレオ。ここは俺がやる」
「……ワフ」
意識を保つためか、頭を振り、何やらブツブツと言いながら立ち上がったディーム。
剣を持ったままこちらへ視線をやり、俺と隣にいるレオを見た瞬間、驚いて目を向いた。
そのディームに対し、唸っていたレオが飛び出そうとするが、待てをして止めさせる。
レオにばかりやらせたりしない……全部レオが解決してしまったら、俺がここまで来た意味もなくなるからな。
とは言え、先制攻撃をレオにさせておいて、足をふらつかせてるディームだけを相手にするのは、いいとこどりかもしれないが……。
……そこは気にしないでおこう。
「……なんだてめぇは? その横にいるのは……魔物か? てめぇがけしかけて来たんだな?」
「……あぁ、そうだ。スラムで好き勝手してるお前を、捕まえに来た」
立ち上がり、こちらを訝し気に見るディーム。
その足は、最初こそふらついていたが、すぐにしっかりとしたものになった。
完全ではないにしても、多少はレオから受けたダメージが回復したようだ。
やっぱり、レオに任せた方が良かったかもしれない――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます