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第412話 スラムの建物を調べ始めました
第412話 スラムの建物を調べ始めました
篝火の明かりを頼りに、大通りを抜け、しばらく東側へ向かった後、街の北側へ方向を変える。
エッケンハルトさんと来た時とは違う道だが、地図によるとこっちからの方が近いようだ。
遠回りして、無駄に時間を使わないだけでもありがたいな。
さすがに、大きな通りでもない場所には、篝火はなく真っ暗だった。
家々は、時折中から明かりが漏れている事もあったが、寝ている人がほとんどなのか、静かだ。
「この辺りまで来ればいいか……」
「ワフ?」
スラムと見られている場所まで、あと数分の所で立ち止まる。
ノシノシと、音を立てるように歩いていたレオが、止まった俺に気付いて、つんのめりながらも停止する。
すまん、止まる時に声をかければ良かったな。
心の中でレオに謝りつつ、懐に忍ばせていた物を取り出す。
「レオ、これを食べておいてくれ。俺も……ん、ゴク」
「ワフ」
取り出したのは、二種類の薬草。
体を強化させる薬草と、感覚強化の薬草だ。
レオには、感覚強化の薬草だけを渡しつつ、俺自身は二つの薬草を口に入れ、飲みこむ。
……別の種類の薬草を混ぜて飲むと、微妙な味だな。
レオに感覚強化しか渡さなかったのは、やり過ぎる事を防ぐためだ。
スラムとは言え街の中。
レオが自由に暴れてしまったら大変な事になるし、体を強化させたら、レオ自身やるつもりはなくともやり過ぎてしまう可能性もあるからな。
相手は人間だ……トロルドより肉体的な強度はないはず……そう考えると、あまりレオが暴れるのは良くないからな。
お互いに薬草を飲み込んだ事を確認して、再びスラムへ向かう。
この辺りで食べたのなら、多少調べるのに時間がかかっても、薬草の効果が切れる前には全部調べられるはずだ。
屋敷を出る時に食べなかったのは、効果時間を考えての事だ。
戦闘になるとは限らないが、いざという時に効果が切れてしまってはいけないからな。
「やっぱり、感覚強化があると便利だなぁ。明かりがほとんどなくても、よく見える」
「ワフ、ワフワフ」
「まぁ、それは仕方ないだろう。さすがに関係のない人の寝息は、無視するしかないぞ?」
「ワフゥ……」
暗く雨も降っている中、周囲がよく見えるようになったのを実感しながら歩く。
森での探索の時よりは、明かりが少ないために、視界は悪いままだが、それでも数メートル先まで見える。
さらに、感覚強化は耳も良くなるから、寝静まった家の中から、寝ている人の寝息やいびきも聞こえてくるようになった。
レオが、うるさいと言っているようだが、こればっかりは仕方ない……無視して移動するしかないな。
それにしてもこれ……スパイとかに使えそうな薬草だ。
戸締りをした家の中の様子が、音だけではあるがはっきりと聞こえる。
怪しい密会とかで話される内容を、こっそり聞くとかできそうだ……。
悪用したりされたりしないよう、気を付けよう。
「ここか……」
「ワフ……」
薬草のおかげで、歩きやすくなった俺達は、何か問題が起きる事もなく、一つ目の目標である建物の前に到着。
そこは2階建てのボロ屋で、向かいにはリーザがいじめられていた広場がある。
……またここに来るなんてなぁ。
レオと一緒に、建物を見上げて呟く。
隣でレオも、俺の真似をして、ここか……と呟くように鳴いてる……緊張感が解れるようで、何よりだ。
「レオ、中には人がいないか……?」
「ワフ」
建物を前に、隣にいるレオに念のために聞く。
俺も感覚強化で、色々と探れるようになっているが、元々感覚の鋭いレオは、俺よりも建物の中の様子がわかるはずだ。
レオに聞いて、頷くのを見てからもう一度建物を見る。
「はずれ……か……」
「ワフゥ……」
中からは寝息や物音は聞こえず、誰かがいる気配もない。
レオもそれを認めたから、間違いないんだろう。
まぁ、一つ目だし、最初から当たりだとは思ってなかったが、外れとわかると徒労感が少しだけあるな。
「……よし!」
「ワフ?」
「すまない、レオ。ここで少しだけ待っててくれ。できるだけ目立たないように、陰に隠れてな。俺は中を調べてみる」
「ワフ……ワフワフ?」
「大丈夫だ。中には人はいないし、何かあればすぐに逃げて来る」
「ワフ」
少し考えて、何かしらの手がかりを求めて中に入る事を決める。
もしここで一時でもディームがいたのであれば、何かしら手がかりがあるかもしれない。
さすがに、隠れ家の情報が書かれた物があったり……なんて事はないだろう。
それでも、ディームの持ち物があれば、レオに嗅がせて匂いを追う事もできるかもしれない。
……雨が降ってて追いづらいだろうが、感覚強化の薬草も食べてるし……まぁ、一応な。
虎穴に入らずんば虎子を得ず……だ。
大丈夫かと俺を窺うレオに、何かがあればすぐに逃げて出て来る事を約束し、建物の影に体を縮こませて隠れたレオを見て、扉に向かった。
「よし、中に入ろう」
扉の取っ手を回し、鍵がかかってない事を確認して、扉を開く。
スラムとは言え、開いたと同時に罠が発動しないかを警戒しつつ、体を中へ滑り込ませる。
街中にある建物だし、さすがにそれはないだろうとは思いつつも、居所を掴ませないようにしている相手 だから、警戒はしておいて損はないだろう。
幸いにも、中に入るまでに罠なんかはなく、すんなりと建物内部へと侵入した。
「……埃っぽいな」
中は、ここ数日は誰も使っていない事が容易に想像できる程、埃が充満していた。
雨の匂いと埃で、咳き込みそうなのを抑えつつ、口を手で覆っておく。
感覚強化のおかげで、匂いにも敏感なのが災いしたか……まぁ、これくらいは仕方ない。
窓すら木で打ち付けられて、外から明かりが入らない建物の中を、歩いて調べる。
そこかしこに埃が溜まっていて、誰かがいたような形跡や足跡すらなく、完全に打ち捨てられた建物だったようだ。
自分の足跡と断定されないよう、足を引きずるようにしながら移動し、念のため二階へ。
一階は二つの部屋があったが、二階は一つだけの部屋があった。
「あそこから、広場が見えるのか」
二階にある部屋の中で、一つだけ木が打ち付けられる事もなく、割れた窓がそのままになっているのに気付く。
そこに近付いて外を覗くと、リーザがイジメられていた広場が見えた。
窓の周辺は、他の部屋よりも埃が薄く、少し前に人がいたような形跡があった。
予想通り、ここからリーザがイジメられるのを、誰かが見ていたのかもしれないな……。
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