第385話 人間とは違う魔法が使えるようでした



「リーザ、特に意識する必要はないよ。ここに手を置いてごらん?」

「こう?」


 イザベルさんが、持って来た水晶球へ、リーザの手を置かせる。

 水晶玉は、俺がギフトを調べる時と同じ物だな。

 魔力を調べるついでに、ギフトがあるとわかる物だから、当然か。


「わぁ……綺麗……」


 リーザが水晶玉に手を置くと、赤く点滅し始め、黄色い光を放って辺りを照らす。

 俺の時とは、色が違うな……ギフトの有るなしが関係しているのか?

 リーザは、自分が手を置いた事で明滅し始めた水晶を見て、感動しているようだ。

 確かに、光を放ったり、赤や黄色に変化して行く様は綺麗に見える。

 俺の時は、ギフトの事を考えてたから、綺麗だとか感じる余裕はなかったしなぁ。


「ふむ、成る程ね」

「お婆ちゃん、どう?」

「どうですか、イザベルさん?」

「そう急くもんじゃないよ。ふむ、そうさね……」


 ジッと水晶を見ていたイザベルさんが頷いたのを見て、リーザと俺は結果がどうなのか思わず聞いてしまった。

 リーザは魔法を使いたいと言っていたし、俺としても魔力があるのかどうか、気になる所だ。

 そんな俺達を諌めたイザベルさんは、調べた内容を考えながら、俺達へと顔を向けた。


「まず、リーザに魔力はあるよ」

「やったー!」

「まだ喜ぶのは早いよ? 気持ちはわかるけどね」

「魔力がある以外に何かがあるんですか?」


 まさか、リーザにもギフトがあるとか?

 いやでも、希少なギフトは数百万人に一人との事だから、早々授かるものでもないだろう。

 他には……何かあるのかな?


「魔力量は、そこらの人間には負けないくらいあるね。タクミよりは大分多そうだ」

「そうなんですか?」

「あぁ。赤の点滅が激しかっただろう? あれは、魔力量が多い事を示しているんだ」


 言われてみれば確かに、俺の時よりも激しく赤が点滅していたと思う。

 あの時の事は、はっきりと覚えているわけじゃないが。


「そして、その後の黄色い光。それが少し問題なのかもね」

「黄色い光ですか?」

「黄色いの、綺麗だった!」


 俺の時は緑だったのを覚えてる。

 色の違いで、何かあるのだろうか?


「タクミの時は、ギフトがあり、それの関係で緑に光ったけど……この色は、魔力の出力を表してるんだ」

「出力……?」

「魔力量が多くあっても、出力が小さければ大きな魔法は使えない。逆に、出力が大きくても、魔力量が少なければ同じ事になる。これらを総合して、魔法を使う素質とするんだけど……リーザは少し特殊だねぇ」

「特殊、なんですか?」

「リーザは特殊ー!」


 出力というのは、イザベルさんが言うのを考えるに、魔力をどれだけ一度に出せるかを決める物なんだろう。

 どれだけ魔力量が多くとも、出力が低ければ大量の魔力を使う魔法は使えないし、逆もしかり……という事か。

 でも、リーザが特殊ってどういうことなのか……。

 リーザ自身は、自分が特殊と言われた事を喜んでるが……獣人として、人と違うのは当然だが、その事も含めて違うという事を喜べるのは、良い事だと思おう。

 人と違うからと、悩んだり迷ったりする事が減るだろうからな。


「恐らく、獣人だからなんだろうね。あたしも、人間以外を調べるのは初めてだから、はっきりとは言えないけどね」

「獣人だから……それで、どんな事がわかったんですか?」

「やはり、獣人と人間には見た目以外にも違いがあるのね……」

「魔力量、出力共に問題ない……どころか、そこだけを見ると素質はピカイチだ。ただ、通常の人間が使える魔法は、使えるかどうかはわからないね。もう手を離して良いよ、リーザ」

「そうなんですか?」

「うん……私、魔法使えないの?」


 獣人と人間の違いは、耳や尻尾だけでなく、魔法を使う部分にもあったようだ。

 クレアさんは眉間に皺を寄せて、違いという部分を考えている。

 どれだけ違いがあっても、リーザを可愛がるという事は変わらない。

 それはともかく、素質だけなら俺よりもあるそうだが、人間が使う魔法は使えないのだと言う。

 イザベルさんに言われて、検査が終わったリーザが手を離すが、今までの話で自分が魔法を使えないと思ったのか、少し俯き加減だ。


「魔法が全く使えないわけじゃないよ。ただ、人間が良く使う、基礎の魔法は使えないだろう……という事だね。恐らくだけど、獣人が得意な魔法があるはずだよ。可能性があるのは、体を強化する魔法かね?」

「体を強化……」

「あ……獣人は、人間よりも身体能力が優れてる……と」

「そうさね。少しでも獣人の事を知れば、必ず出て来る話さ。獣人は、元々狩猟を主とする種族だったからなのかもしれないけど、体を強化する事で、戦いやすくしてたんじゃないかとね」


 獣人は、狩猟をする事が多く、体を動かす事の多い生活だった。

 人間のように、道具を使って……というよりも自分達の力で獲物を得ていたんだろう。

 だから、そのために魔法も体を強化する事で、狩猟がしやすくなるように進化して行った……のかもしれないな。

 リーザは七歳でありながらも、ミリナちゃんや俺が一回やるだけで腕が疲れてしまう調合を、何度やってもほとんど疲れてはいなかった。


 身体能力が高く、スタミナがある事は間違いないんだろう。

 長所をさらに伸ばすため、魔法もそれに関係したものが使えるように特化した……と考えると、イザベルさんの考えがよくわかる。


「まぁ、あくまで推測だけどね。あながち外れてはいないと思うよ。だからリーザ、あんたは魔法が使えないんじゃない。使える魔法が限られてるだけだ。だから、それを探せばいいだけなんだよ」

「リーザが使える魔法を探す……うん、わかった! どうやるのかは、わからないけど……」

「そこは、クレア様や、セバスチャン辺りが協力してくれるさ。特に、あの執事の爺様は積極的に調べそうだね」

「あー……ははは、確かにそうですね」


 イザベルさんの言葉に、元気よく頷いたリーザだが、すぐにどうやれば良いのかわからず首を傾げる。

 それを見て、イザベルさんがクレアさんやセバスチャンさんの名前を出して、協力を仰ぐように言った。

 確かに、セバスチャンさんは、こういう事に興味を持つタイプだ。

 率先して調べたうえで、俺達にわかるように説明してくれるだろうな。

 説明爺さん再び……いや、再びどころか日常になってきてるか……。


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