第377話 離れた場所でレオを叱りました



「ライラさん、人のいないような場所まで案内して下さい!」

「わかりました!」


 ライラさんに、人がいない場所への案内を頼む。

 ラクトスに不慣れな俺よりも、この街をよく知ってるライラさんなら、そういう場所を知ってるだろうからな。

 そのまましばらく、大通りやハルトンさんの店から離れ、レオの横を全力で走り続けた。

 俺と距離を離さないよう、速度を調節してくれてるから、何とかレオと走れてるんだがな。


「そこを右に曲がって……もう少しです!」


 レオに乗って案内をしてくれるライラさんのおかげで、段々と人のいない場所へと向かっている。

 途中、すれ違う人達は、疾走している俺とレオを見て驚いた顔をしていた……無理もないか。

 ん……こっちは……?


「その角を曲がって……ここです。ここなら、ほとんど人は来ません」

「はぁ……ふぅ……はぁ……」

「大丈夫ですか、タクミさん?」

「えぇ、なんとか……はぁ……ふぅ……」


 見覚えのある道を通り、ライラさんの案内で人のいない場所へと辿り着く。

 そこはちょっとした広場になっている場所で、ここならレオもゆっくりそうな空間があった。

 というか、さっきイザベルさんの店の前を通ったな……途中の道に覚えがあったのはそのせいか。


「はぁ……クレアさん、ライラさん、すみませんがリーザを降ろして下さい。レオ」

「ワ、ワフ」

「はい」

「畏まりました」

「……パパ?」

「リーザ、もう少し待ってくれ。今すぐその怪我、治してやるからな?」


 レオに乗ったままのクレアさん達に言って、リーザを降ろしてもらうよう頼み、レオに体勢を低くするように言う。

 さっきの事で怒られると思ってるのか、レオはしょんぼりしながらも、皆が降りやすいようにその場で伏せの体勢になった。

 レオから降りたリーザが、額を手で抑えながら俺を見る。

 リーザの小さな手だけでは、ちゃんとした止血ができてないのか、手の隙間から血が垂れている。


 もしかしたら、怪我のせいで力が入らないのかもしれない。

 以前負った俺の怪我よりも小さく、血も少ないようだが、それでも子供が頭に傷を負っている姿は見たくないものだ。

 リーザに対し、優しくもう少し待つように言うと、周囲を簡単に確認。


「よし、人はいないな……」


 人の目がない事を確認し、念のためレオの体に俺自身を通りから隠しながら、おもむろに地面に手を付き、『雑草栽培』を発動。

 俺の焦る気持ちの表れか、いつもより早く育ちきったロエが一つ出来上がる。

 それをすぐに摘み取り、状態変化で使える状態にさせた。


「リーザ、こっちに……」

「パパ、どうしたの?」

「その怪我をすぐに治してやるからな。痛みもすぐになくなるはずだ」


 リーザを呼び、優しく言いながら怪我を抑えてる手をどかし、額全体にロエを当てる。


「っ!」

「ちょっとだけ我慢してな? すぐに痛くなくなるから……」


 ロエが怪我をした部分に当たると、リーザは痛みに顔をしかめたが、少しだけ我慢するように言い聞かせる。

 レオやクレアさん、ライラさんは心配そうな表情で、リーザが治療される様子を見守ってくれてる。

 ランジ村で、ロエの効果や使い方はしっかり見ていたから、これで大丈夫なはずだし、すぐに怪我も治るはずだ。


「……あれ……痛く、ない?」

「よし、もう大丈夫そうだな。怪我の跡もない、可愛い顔だ」


 数秒後、痛みが引いた事に目を丸くさせるリーザ。

 当てていたロエを離し、怪我の跡を確認。

 さすがに血の跡は残っているが、怪我をした跡はなく、リーザの顔に傷跡が残らないとわかって安心する。

 小さい頃に怪我をして、その傷跡がずっと残るっていうのは、女の子には辛いだろうからな。


「はぁ……これで大丈夫だ」

「痛くなくなった……パパ、凄い!」

「ははは、そうかな」


 ホッと息を吐いていると、ペチペチと小さな手で、自分の額にあったはずの怪我を確かめていたリーザが、目を輝かせて俺を褒める。

 『雑草栽培』があって良かったと思うが、ロエという薬草があって良かったとも思う。

 ランジ村の時もそうだったが、致命傷にまでならなければどんな怪我も治せるって、便利だなぁ……高価なのも頷ける。


「リーザちゃん、良かったわね」

「安心しました」

「うん!」


 見守っていたクレアさんやライラさんも、怪我が治った事に安心した様子で、リーザと一緒に喜んでいる。

 あ、ライラさんは血の跡を拭いてくれてるな……ありがとうございます。


「さて……レオ……?」

「ワ、ワフ!? ……ワゥ」


 リーザをクレアさんとライラさんに任せ、レオの方へ声をかけながら体を向ける。

 き、来た! とでも言うように怯えた目をしたレオが、小さく鳴く。


「……ワフ、クゥーン」


 その後すぐに、謝るように鳴きながら、体を反転させてお腹を見せる。

 レオなりの降伏のポーズだ。

 シルバーフェンリルになる前も、悪戯が見つかった時のレオはこうする事があった。

 まぁ、怒られる事を理解して、観念したということなんだろうな。


「レオ……街中で人に対して、あんな事をしたらいけないだろう。かなりの人が怯えてたぞ? せっかく街の人達は少しずつでも、レオが怖い魔物じゃないって理解してくれて来てたのに……」

「ワゥ……」


 仰向けになったレオの顔に向かって、言い聞かせるようにしながら怒る。

 人に被害が出なかったが、あれでレオが怖いと感じた人は多いはずだ。

 せっかく少しずつ、レオが街にいる事に慣れてもらって、怯えられないようにしていた最中だというのに……。

 レオが、自分勝手に人を害するとは思わないが、それでもあのまま、リーザの静止も振り切って飛び出していたら、多くの人がレオの体に弾き飛ばされてたのは間違いないだろう。


 それだけで、少なくない怪我人が出ていた可能性もある。

 そうなればレオはもう、この街に入る事ができなくなる事だってあり得る。

 クレアさん達は庇ってくれるかもしれないが、街の人達が納得するとは思えないしな。


「レオが、この街にいられない事になってたかもしれないんだぞ? そうなれば、もう屋台で売ってた物……美味しい物も食べられなくなるんだ……だから……」 

「待ってパパ! ママは悪くないの。私のために怒っただけなの!」

「リーザ?」


 俺がレオに対し説教のような事を言っていると、リーザがレオのお腹に抱き着いて庇おうとする。

 庇うのはいいんだが、何故お腹に……いや、触り心地はいいんだろうけども。

 コラ、レオ……まだ説教は終わってないんだから、お腹をモフられて気持ち良さそうな顔をするんじゃない……。



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