第357話 見慣れた見慣れない武器がありました



「旦那様、お待たせ致しました」

「うむ」


 ティータイムが終わった後、エッケンハルトさんと俺、ティルラちゃんは鍛錬のために裏庭へ。

 ついて来たレオと、その背中に乗ったリーザとシェリー。

 さらに、エッケンハルトさんを監視するためなのか、クレアさんと興味本位のアンネさん。

 テーブルを用意して、俺達の様子を見る場を用意してくれた、ライラさんと他のメイドさん数名が裏庭に集まった。


 裏庭に集まった数分後、セバスチャンさんがニコラさんを含めた、護衛兵士さん3人を連れて来た。

 ニコラさん以外は、エッケンハルトさんがこの屋敷に来た時、護衛をしていた人達だな。

 ……ニコラさんもそうだが、護衛さん達もそれぞれ、何やら見覚えのあるような気がする武器を、一振りずつ持っている。

 ニコラさんは二振り腰に下げているが、護衛さん達は一振りずつ大事そうに両手で持っていた。

 何やら、粗末に扱ってはいけない宝を持っているかのようだ。


「ご苦労。では、片方を私へ。予備の一振りはタクミ殿に渡してくれ」

「はっ……どうぞ」

「ありがとうございます。……エッケンハルトさん、これは……?」


 セバスチャンさん達を労いながら、エッケンハルトさんは、立派な物を一振り受け取り、もう片方を俺に渡すように指示。

 予備と呼ばれた方を持った護衛さんが、俺に近付き、持っていた物を渡される。

 これはどういうことなのか、受け取った物を持ったまま、エッケンハルトさんに問いかけた。

 この異世界……今まで西洋風の剣はいくらか見た事はあるが、今受け取ったようなものは見た事がなかった。


 というよりも、この世界に来る前には、写真や映像では何度も見た事がある物だ。

 日本特有の武器、と言っても過言じゃない。

 今では美術品ともされる物だが、俺がここに来て使っている剣よりも、鞘に入っている状態でも細い武器。

 長さは……刃渡り70センチから80センチくらいで、全体で1メートルと少し……といったところかな?


 細さも相俟って、いつも使ってるショートソードよりも小さく見えるし、重さも若干軽い気がする。

 そう言えばエッケンハルトさんは、この刀を1本ではなく、一振りと言った。

 確か、刀は本と言うのも正しいが、一振り二振りと数える事もある。

 他にもあるらしいが……それはともかく、それを知っているという事は、刀の事がある程度正しく伝わっているという事なんだろう。

 日本のような文化を持つ国が、この世界にもあるのかな?


「見慣れずに驚いたか? それは、刀という剣だ。確か……太刀、とも言うのだったか? 詳しくは知らないが、長さや形によって色々な呼び方がされていて、面白い剣だぞ?」

「はぁ……そう、ですか」


 エッケンハルトさんは、俺が驚いているのは初めて見るからだと考えているようだが、実際は違う。

 見慣れている物だから驚いてるんだ。

 まぁ、鍛錬やら実戦やらで、いつも使ってるショートソードの方が見慣れては来てるが、それとは別の理由で、見知っている物だ。

 刀なんて、日本人なら一度は見た事があるだろうしな。

 実物はまだしも、写真や映像で、見た事がないという人はいないと思ってる。


「それは、あまり作られてはいない剣なのだが、タクミ殿にはそちらの方が合うかも……と考えてな」

「そうなんですか?」

「うむ。実際にタクミ殿が戦った場面は少ないが、イメージトレーニングでな。タクミ殿は、相手からの攻撃を受ける時、剣で受けるのではなく、なるべく全身を使って避けるだろう?」

「えぇっと……そうですね。剣で受けると、折れてしまうと考えて、躊躇してしまうので」


 イメージトレーニングで、想定敵と戦う時、相手からの攻撃……特にオークからの攻撃が来た時は、剣で受けるのではなく、避けるように意識してる。

 理由は、オークに力負けしたらとかもあるが、やっぱり剣が壊れてしまわないか……という恐怖感があるからな。

 実際にオークと戦った時、途中で剣が折れてしまった事も大きな理由だろう。

 あの経験から、剣で受け止めるという事はできる限り避け、避けられる攻撃であるならば、余裕を持って避ける事を考えてる。

 それを、エッケンハルトさんが見て、何か思いついたんだろう。


「まぁ、剣と剣を交えれば、どちらかの武器が破壊される事もあるのは当然だが……本来剣とは、そうやって使う物なのだがな。理想は、相手の剣を叩き折りながら、致命傷を与えると言ったところか」

「それは……さすがに、かなりの力が必要そうです」

「そうだな。こればかりは、一朝一夕でどうにかなる事でもないだろう」


 相手の剣を叩き折りながら……なんて、どれだけの力がいるのか……剣の重さや耐久も必要だが、何よりそれを振る方にも力が必要だ。

 数日……数カ月程度トレーニングを下くらいじゃ、そんな膂力は得られそうにない。

 薬草があるとはいえ、さすがになぁ。

 あまり考えたくはないが、人対人となると、金属鎧で守られた体を斬り付けなければならないのだから、それが一番なのはわかるがな。


「今までタクミ殿が使っていた剣は、そういった力任せの場面も想定された物だ。当然、それだけ頑丈に作られているため、重い。それとは別に、こちらの剣……刀は別の考えで作られた物だ。できる限り細く、軽くして切れ味を追求し、身軽になった事で相手の攻撃を受け止めるのではなく、避ける事を重視し、相手を斬る事を目的とした武器だ」


 エッケンハルトさんの言っている事はわかる。

 剣は頑丈さも求められるから、その分使っている金属が多いうえ、剣身が厚く作られてるように見える。

 当然重くなるから、刀と比べたら身軽に動く事が難しい。

 日本の刀でも、打ち合う事ができなくはないが、細い分脆いため、すぐに折れてしまうのは時代劇を見ている人なら、何度も目にしていると思う。


 まぁ、さすがに手で持って折ったりとかは、簡単にはできないだろうがな。

 硬い岩とかに力いっぱい打ち付けたら、剣なら刃がかけるくらいだが、刀なら折れる……と言うくらいの違いか。

 脆いとはいっても、金属だし武器だからある程度は頑丈にできてはいるはずだ。

 確かに、剣で攻撃を受けず、全身で避ける事を考える俺には、刀の方が合っているのかもしれないな。


「だが、そうは言ったが、すぐに刀を使いこなせるとは限らないがな。避けるだけではなく、振り方、握り方等、通常の剣とは違う事が多過ぎる」


 そう言ってエッケンハルトさんは、持っている刀を鞘から抜き、美術品と言われる所以が理解できる程、美しい刀身を見せた。



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