第346話 『雑草栽培』で作った薬草が枯れていました



「これは……確かに枯れていますね」

「そのようです。タクミ様、管理が行き届かなかった事、申し訳ありません」

「いえ、セバスチャンさんが謝る事ではないですよ。それに、普通とは違う方法で作った薬草ですからね。こういう事があっても、おかしくありません」


 セバスチャンさんと一緒に、簡易薬草畑を見てみると、そこには大きくなっていた薬草が、完全に茶色になって、瑞々しさは欠片もなく、完全に枯れた状態で地面に落ちていた。

 その周囲には、新しく芽を出した薬草が成長しており、摘み取るのに丁度いい状態になっていた。

 それを見た後、セバスチャンさんは他の執事さんと一緒に、俺へ改めて謝罪をした。

 けど、これはセバスチャンさん達が原因ではないと思う。


「まぁ、薬草に関しては、枯れてもまた作ればいいわけですし、気にしないで下さい」

「はい、畏まりました。ありがとうございます」


 謝らなくていいと伝えると、もう一度だけ、今度は感謝を伝えるために、セバスチャンさんと執事さん達が頭を下げた。

 そこまで、気にしなくてもいいのになぁ。


「とにかく、薬草が枯れた原因ですね……何かがあったんでしょうか?」

「……観察していた執事たちによると、特に何もなかったようですな。暗くて見えずとも、大きな変化があれば、さすがにわかるでしょう」

「そうですね」


 枯れる過程は、色が変わるだけだったんだろうから、暗い状態ではよくわからなかったんだろう。

 その他には、動物が何かをしたとか、外敵要因だと暗くても発見できる。

 けどそういった事はないらしい……まぁそもそも、この屋敷に動物や魔物が入り込んで来たら、護衛の兵士さん達が動いてるか。


「だとしたら何故、急に枯れたんでしょうか……?」

「わかりませんな……ただ、周囲にある、新しく芽を出した薬草が、順調に育っているのが気になります。先に作っていた薬草だけが枯れ、新しい物が残る……」

「確かに……新しい薬草が栄養を取ったのなら、他にも枯れている薬草があってもおかしくありません。けど、俺が直接作った薬草だけが枯れています」

「そのようですな。やはり、『雑草栽培』が関係しているのでしょうか?」

「はっきりとは言えませんが、これだけを見ると、そうとしか考えられませんね」


 枯れた薬草と、瑞々しく育っている薬草を見ながら、セバスチャンさんと相談する。

 レオやティルラちゃん、リーザはあまり興味が沸かなかったらしく、俺やセバスチャンさんから離れた場所で、じゃれ合い始めていた。

 まぁ、あっちは仕方ないか。


「もしかしたら……なのですが……」

「何か、わかりましたか?」

「いえ、はっきりとそうだとは言えない、単なる憶測なのですが……『雑草栽培』で急激に成長したため、タクミ様に作られた薬草は、その生を終えた……とは考えられませんか?」

「急激に成長……」

「はい。薬草に限らず、生きている者は全て、寿命があります。『雑草栽培』でタクミ殿が作られた薬草は、急激に成長し、薬として使用できるようになりますが……摘み取らなかったために、枯れるまで成長し続けた……と」

「それは確かに、ありそうな考えですね」


 植物だって、花を咲かせたり、実を付けた後には枯れてしまう。

 樹齢何百年の木とかもあるが、最終的には枯れてなくなってしまう事は避けられないだろう。

 人間で言うと、年々歳を取り、成長後に老化し、病気にはならなくとも、いずれは老衰で死んでしまう。

 『雑草栽培』で急激に成長した薬草は、俺が手を離した後も、多少速度を緩めながらも老化し続けて行った……と考えると、1日で枯れてしまったのも納得できる。


 昨日の時点で大きくなっていたし、薬草に最適な状態からさらに成長してたみたいだしな。

 とは言え、管理の不備というか、土が合わなかったり、栽培していた環境が合ってなかった、という可能性も捨てきれないから、断定はできないだろうが。

 水を上げた薬草も、水をあげないようにした薬草も、全て同じ状態になっているから、セバスチャンさんの考えが近いとは思うけどな。


「なら、新しく増えた薬草は……?」

「成長が早い事は間違いないので、すぐに枯れてしまう可能性はあります。ただ、『雑草栽培』で作った薬草よりは成長速度が遅いので、枯れるまでまだ時間はあるかと」

「そうですね。でしたら、新しい薬草はこのまま、要観察……という事で」

「枯れてしまう事もあり得ますが、よろしいので?」

「はい。元々、普通の栽培ができるかどうかのお試しですからね。枯れてしまう事もあると思ってますよ。それに、その過程も見る事で、薬草を作って行くうえで必要な事を確認できるでしょうし」

「……そうですな。初めての事なのですから、枯れるまでの過程も観察しなければいけませんね」

「そういう事です。なので、今度からは俺を呼びに来る時、もう少し勢いを抑えて下さいね?」

「はい、申し訳ありませんでした」


 新しい薬草が、このままどれくらいの期間で枯れるのかも知りたいところだ。

 残った薬草が、さらに数を増やすのかも観なければいけないしな。

 セバスチャンさんと話し、とりあえずはこのまま観察を続けるという事で、話を終えた。

 最後に、俺を呼びに来た執事さんにだけは、一言だけ言わせてもらったが。

 ……落ち着いたら、剃り損ねた傷の痛みを、思い出してしまったからな。



「タクミさん、皆も……タクミさんの作られた薬草が、枯れてしまったとの事ですが?」

「確かに枯れてましたね……えっと……」


 簡易薬草畑を、また執事さんに任せ、レオ達を連れてセバスチャンさんと一緒に屋敷へと戻る。

 朝食を頂くために、食堂へ移動していると、途中でクレアさんと出くわした。

 誰かから、クレアさんも薬草が枯れたと聞いて、裏庭に向かっていたんだろう。

 先に見に行った俺達が、クレアさんに簡易薬草畑の様子と、セバスチャンさんと話した内容を伝え、一緒に食堂へ向かった。


 薬草が枯れても俺が気にしていないという部分で、クレアさんはホッとした様子だった。

 俺が自分で作ったから、無駄にしてしまった事を気にしたのだろうか?

 確かに枯れたのは残念だと思うが、執着はしてないからなぁ……。

 また『雑草栽培』で作ればいいし、そもそも枯れる可能性も考えての、簡易薬草畑だ。

 セバスチャンさん達執事さんが、謝らなきゃいけないという程の事でもないから、皆気にしないで欲しいと思った。



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