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第323話 屋敷内の人達からの要望があるようでした
第323話 屋敷内の人達からの要望があるようでした
「それでは、契約書に関してはそれでよろしいですね?」
「はい」
あれから、薬草を普通に栽培する事ができたという事を前提として、クレアさんやセバスチャンさんと話しが進んだ。
土地を扱うから、薬草を卸す時よりも、厳密な契約が必要な事も説明される。
さすがに今すぐ契約を、という話では無いが、先に教えておいていざ契約する時に、戸惑う事がないようにとの配慮らしい。
「何かご質問や、疑問に思った事、要望などがあれば、すぐに対応させて頂きます」
「わかりました、お願いします」
契約には、俺に執事を付ける事も含まれるから、じっくり考えて欲しいとの事だった。
この場では思い浮かばない疑問も、時間が経てば浮かぶ可能性があるので、その際はセバスチャンさん達と相談するというのも決めた。
まぁ、執事に関しては雇用契約のようなもんだな。
さすがに日本のように、労働に際して厳密な規則や法律があるわけではなく、ざっくりとしたものだったが。
日本で自分がやっていた仕事の事を考えると、もしこのまま順調に行って、雇う事になっても、過剰労働は絶対にしないと決めている。
この世界で、ブラック企業のような考え方があるのかは知らないが、精神的にも肉体的にも追い詰められるような事は、させられない。
そのためには、俺自身も頑張らないといけないとは思うけどな。
「では、正式な契約は、試験栽培の様子を見て、という事で」
「はい、それでよろしくお願いします。ですが……」
「何か、ありますか?」
「いえ、契約関係ではないんですが。この場にエッケンハルトさんがいなくても良いのかな? と……」
領内の土地は領主の物。
という事は、公爵家の当主であるエッケンハルトさんの物という事だ。
本人がいないのに、その辺りの事を決めて良いのかな?
代わりに、クレアさんがいるのかもしれないが。
「そこに関しては大丈夫です。今回は正式な契約ではない事もありますし、お父様には許可を取っています。素案を話し合うだけですから、問題ありませんよ」
クレアさんが、俺の疑問に答えてくれた。
その横で、セバスチャンさんも頷いてるから、本当に大丈夫なんだろう。
「多分、お父様はこの事を私に任せる事で、教育のつもりなんでしょうね。タクミさんなら、難しすぎる話や交渉といった事にもならないでしょうし……」
公爵家の令嬢として、ちゃんとこういう事ができるのかの確認、とかもあるのかもしれないな。
俺相手なら、緊張するような事もないし、無理難題を吹っかける事もない。
説明は、ほとんどセバスチャンさんがやっていたが、こういう話をした……という事も重要なんだろう。
俺も、会社に勤め始めた頃は、先輩に連れまわされて横で見ているだけ、とかあったしなぁ。
そういった新人教育と同じとは言えないが、エッケンハルトさんからクレアさんに、経験を積ませようと言う試みなのかもしれない。
ともかく、問題はなさそうだし、エッケンハルトさんも承知の上なら、大丈夫そうだ。
「あ、そうでした。もう一つ、タクミさんにお願いする事があったのです」
「ん、なんですか?」
ここで話した事に納得し、ゆっくり考えるためにそろそろ退室するか……と考えていた時、クレアさんが思い出したように発言した。
俺にお願いとは、一体なんだろうか?
「お願いというより、要望……ですかね。クレアお嬢様、それは今話さなくても良かったのでは?」
「屋敷の者達からの要望よ? 使用人達の満足度を上げるために、必要な事だと思うわ」
「そうですが……しかし、タクミ様が了承するかどうか」
「そこは、聞いてみないとわからないわ」
「えぇと、結局何の話なんでしょうか?」
クレアさんが話そうとした事を、セバスチャンさんが咎めるように言って止める。
けどクレアさんは、止める気がないようだ。
セバスチャンさんは、俺が頷くかどうか悩んでるようだが、とりあえず話を聞かない事には判断できない。
それだけ、難しい要望なんだろうか?
使用人さん達かららしいが……もしかして、生活態度に問題があったか?
それとも、俺の知らないうちにレオがどこかを汚したとか?
うぅむ……。
「使用人達からの要望でもあり、私もお願いしたいのです。リーザちゃんの事なのですが……」
「リーザの? 何か問題があったんですか?」
リーザが獣人だからとか?
でもそれは、クレアさんが昨日屋敷に滞在する事を許可したから、問題はないはずだ。
クレアさんを始め、使用人さん達も獣人を差別するような考えは、持っていないように見えるし……。
誰か、俺の知らないところで、獣人を嫌ってる人がいるのだろうか?
「あぁ、タクミさんが心配するような事は何もないですよ。皆、リーザちゃんが屋敷に来た事を歓迎しています」
「クレアお嬢様や、旦那様が認めていますからな。それに、この屋敷にいる者で、獣人を差別する者はいません」
「はぁ、そうなんですか」
俺が考えている事が顔に出ていたのか、すぐにフォローするように言うクレアさん。
セバスチャンさんも、リーザを差別するような人はいないと断言してくれる。
ホッと安心したが、だったら何の要望なんだろう?
一息吐いた瞬間、顔が強張っていたのに気付いた。
これじゃあ、変な心配をしていたと、クレアさん達に見抜かれるのも当然か。
「えぇとですね……リーザちゃんの尻尾、耳でもいいんですが……それを触りたいとの要望が多くて……」
「は?」
少し言いづらそうに話すクレアさん。
えっと、リーザの尻尾か耳、それを触らせて欲しい、と?
何か問題があったのかと、身構えていた自分が、馬鹿らしく思えて来た。
「リーザちゃん……レオ様やシェリーもそうですけど、尻尾や耳が感情や動きに合わせて、動くじゃないですか? それを見た使用人達が、触れてみたいとうずうずしているようなのです」
「そ、そうなんですか……」
確かに、そう見える雰囲気はよく知っている。
クレアさんもそうだが、ライラさんやゲルダさんも、よくリーザの尻尾や耳に視線が行って、手がワキワキしていたからな。
他の使用人さん達も同様だ。
リーザが順調に、屋敷内で人気者になって来てる気がするなぁ。
好かれる事は良い事だな、うん。
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