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第324話 獣人には鉄の掟があるようでした
第324話 獣人には鉄の掟があるようでした
「レオや、シェリーじゃ駄目なんですか?」
「レオ様やシェリーは、触れても何も言いませんが……リーザちゃんが嫌がるかどうかが、わからないのです。それに、また違った触り心地を試してみたい……と考えている者が多いようで」
「あー、レオやシェリーだと、気楽に触らせてくれますからね。リーザがどう考えるかは、また別、という事ですか。確かに、レオとはまた違った感触を楽しめそうですしね」
皆、レオやシェリーに触れて、感触を楽しんだ事はあるだろうからなぁ。
それでも、色や毛並みの違う獣人、という種族の耳や尻尾の触り心地……触れてみたいと考える人間は、なんと罪深い生き物か……とか、種族としての問題にするのは大きく考え過ぎか、止めよう。
「はい。リーザちゃんは確かに獣人ですが、一部を除いてほとんど人間と変わりません。レオ様達と違って、嫌がる可能性もあるので、気軽に触れるわけにもいかず……それに、獣人の掟がありますし……」
「獣人の掟、ですか?」
なんだろう、その破ったら村八分にされそうな響きは。
「そこに関しては、タクミ殿も知っておかねばなりませんな」
「説明は……セバスチャン、お願いするわ」
「はい、畏まりました」
獣人の掟なんて、仰々しい言い方をするんだから、重要な事なんだろう。
リーザの面倒を見る以上、俺も知っておかないといけないのはわかる。
説明をどうするかとクレアさんが考えた瞬間、セバスチャンさんの目が光ったように感じられ、それを見たクレアさんが、溜め息を吐くようにお願いした。
本当に、説明する事が生きがい何だなぁ、セバスチャンさんは。
お願いされたセバスチャンさんも、一応真剣な顔をしているが、目は笑っているし、口元もピクピクしてる……よっぽど説明できるのが嬉しいのか。
「獣人の掟ですが、これは一定以上の教育がなされている者達は、知っている事になります」
「一定以上の教育?」
「はい、貴族と、それに連なる者達ですな」
公爵家で言うと、エッケンハルトさんやクレアさん、それとセバスチャンさんを始めとした使用人さん達全員って事か。
「秘匿する事ではないので、街の者でも知っている者はいると思いますが……多くはいないかと。獣人の掟とは、獣人の国で定められた法律と同じ効果があり、その国でこの掟を破った者は、罰せられる事もあるようです」
「法律と同じ……」
「とは言え、基本的に他者へ何かをするといった事ではございません。基本的には、自らの行動を戒めるための物ですな。例えば、他者から食べ物を与えられたからといって、気軽について行かない、ですな」
なんだろう、子供へのしつけかな?
獣人の国が、一気にリーザのような子供ばかりがいて、お菓子をあげたら尻尾をブンブン振ってる人達ばかりのイメージが浮かんで来た。
いや、そう考えるのは失礼なんだろうし、実際そうではないんだろうけども……。
「掟の項目は、あまり多くはないのですが、その辺りはまたいずれ詳しく説明させて頂きます。今は、リーザ様への要望と、それに関する掟ですからな。普通に生活していれば、掟を破るような事はないので、ご安心下さい」
「はい」
掟と聞いて、知らず知らずに入っていた肩の力を抜く。
リーザと一緒にいる以上、その掟を知っておく必要はあるだろうが、今は耳と尻尾に関してだ。
「耳と尻尾は、獣人という種族にとってとても重要らしく、それを気軽に他者へ触れさせる事を良しとしないのです。曰く、耳と尻尾とは近しい者にのみ触れさせるべし……と」
「成る程。だから使用人さん達が触れてもいいのか、判断が付かないわけですね?」
「はい。近しい者とは、おそらく家族や親類という事だと思われますが……屋敷でリーザ様と仲良くなった者に触れさせてもいいものか、判断が難しいのです」
「そうですね……近しい者と言われても、曖昧ですからね。本人が、自分と仲のいい人を指定して、近しい者と言えば、否定は難しいですし」
明らかに、仲が悪かったはずの人が相手だと、近しい者ではないと否定できるだろうが……。
とこからどこまでが近しい人で、どういう人が近しい者ではないのか、という指定がなければわかりづらいだろう。
その辺りは、本人の感覚に委ねられてるのかもしれないが……アバウト過ぎじゃないか、獣人の掟。
法律と同じ効果があると言っていたから、もっと厳密に決まっていて、鉄の掟のようなものを想像してた。
この分だともしかしたら、獣人の国の法律も、ざっくりした物なのかもしれない。
ある種、『獣』人というのに、相応しいのかもしれないけどな。
人間の国より、のんびりしていそうだなぁ。
「なので、リーザちゃんにとって確実に近しい者と言える、タクミさんに確認して欲しいと思いまして……」
「まぁ、パパ……ですからね」
「はい。そうまで呼んでもらえるという事は、間違いなく近しい者と言えるでしょうからね」
クレアさんの言葉に、苦笑して答える。
パパとまで呼ばれているんだから、リーザからすると俺が近しい者となるのは間違いないだろう。
掟があるから、どれだけの範囲の人間が近しい者で、耳や尻尾に触れても良いのか、というのを確認して欲しいんだろうな。
「さすがに、掟を破る可能性があるため、使用人達には自分から触れないように言ってあります。タクミさんが確認し、可能ならばリーザちゃんにそれぞれがお願いを、不可ならば、諦める……という話になっていますので」
「そうですね。リーザが嫌がるようなら、触れないでもらえると助かります。ですが……」
「何か、気になる事でも?」
「いえ、リーザは物心ついた時から、ラクトスのスラムにいたらしいので……その獣人の掟を知っているかどうか」
「あ、確かに……そうですね」
「ふむ、そうですな。生まれて来たら獣人なら誰でも知っている……とは考えられません。まさか、本能で知っている、という事もないでしょうし……」
「はい。リーザを拾ったお爺さんが、どういった人なのかはわかりませんが、人間なのは間違いないでしょう。だとしたら、獣人の掟をその人が知っていたのか、それをリーザに教えていたのか、ですね」
ラクトスのスラムにいたんだから、お爺さんが人間なのは確定だ。
もしリーザを拾ったお爺さんが、同じ獣人だったら、スラムの人達はお爺さんもリーザと一緒に、迫害してただろうしな。
リーザへの迫害……イジメをそのお爺さんが止めていた節があるのは、人間だった証拠だろう。
一度、話してみたかったな。
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