第321話 クレアさんに呼び出されました



「いえ、その事ではなくてですね。……そもそも、あれはお父様が、無理矢理タクミさんに頼み込んだのだ、と考えています」

「タクミ様が、自分から旦那様を連れ出そうと言い出すのは、考えにくいですからな」

「お父様の事ですから、どうせタクミさんが街へ行くので、面白そうだと思ったのでしょう。レオ様もいますから、安全面は保証されてますし」

「ははは……えぇと、はい、その通りです……」


 エッケンハルトさん、正確に行動や考えを把握されてるな。

 クレアさんとセバスチャンさんが優秀なのか、エッケンハルトさんが単純なのか……両方か。

 なんて、公爵様に対して失礼な事を考えて、すぐにそれを取り払い、本題を聞く事にした。


「それじゃあ、俺をここに呼び出した用件っていうのは、なんですか?」

「先程、裏庭で試験的に始めましたが……ランジ村での薬草園の話になります」

「あぁ、その話ですか」

「はい。あの話は、タクミ様と旦那様が、街で話しただけの事となっています。なので、この話を進めるのならば、正式にお話をしておかねばならないと、と思いましたので」


 確かにあの話は、街で簡単にエッケンハルトさんと俺が話しただけの事だ。

 契約も何もしていないのだから、ここで正式に話して決定させておきたいのだろう。

 口約束だけでは、問題が出て来そうだしな。


「まだ屋敷での試験栽培を始めたばかりなので、上手く行くかどうかは判断できませんが、これからの話はある程度栽培ができるものとして、お話致します」

「はい」


 まぁ、数時間前に『雑草栽培』で薬草を作っただけだからな。

 まだこれから先どうなるかというのは、判定できないだろう。

 上手く行くのなら、ランジ村での栽培だったな。


「薬草栽培ですが、農地を用意する事も考えましたが……そこまでの広範囲にはならないかと思われます」

「そうですね。日常で使う野菜とは違うので……あまり数を増やし過ぎても、いけないでしょうから」


 多く栽培できるのなら、それに越した事はないとも思うが、それはそれで市場に混乱を招きかねないからな。

 どの薬草ができるかはわからないが、価値の高い薬草を栽培できた場合、大量に作ると価格の低下だけでなく、混乱を招くと言うのは、初めてロエを栽培した時に話してる。

 それに、大きくなればなる程、管理も大変そうだしなぁ。

 

「先々で栽培地を大きくする可能性はありますが、とりあえず、ランジ村と森の間にある土地に用意する事になるかと思います。村の入り口とは違う場所なので、人もあまり通らないでしょう」

「わかりました」


 森との間って事は、ハンネスさんの家がある先かな。

 一応柵があって、通れないようになっていたから、そこから先に行ったり、森に行く人は少ないんだろうと思う。

 それに、ランジ村自体街道から外れた場所にあるから、人の往来は少なそうだ。

 ある程度の村人には、『雑草栽培』の事を話す必要があるかもしれないが、多くの人に知られる心配も少なくて済むかもしれない。


「そして、その場所で頂いた薬草を、ラクトスの街へ卸し、そこから領内のそれぞれの街や村に運ぶ、という事になるかと思われます。ここは、まだ未確定の事が多いので、あくまで予定というだけですが」

「薬草を作る量は、どれくらいになりそうですか?」


 薬草を栽培したとしても、多過ぎるといけないのはさっき考えた通りだが、少な過ぎても、領内に行き渡らせる事ができない。

 俺自身が、『雑草栽培』で作る薬草だけで足りないのは当然だが、どれだけの量があれば領内に行き渡るのかどうかがわからない。


「そうですね……仮にという事で考えれば、今の3倍……いや、4倍欲しいですな」

「今の、というと、カレスさんの店で卸している薬草の数から、ですね?」

「はい。それを数日ごとにまとめて、ラクトスへ卸して欲しいと考えます。ただ、領内で流通する薬草の数や、売れている数などを調べないといけませんので、まだこれは決定ではありません」


 今は、ラモギを多めに作っているが、それを抜きにして考えると、100を越えるくらいか。

 それくらいなら、数日あれば俺だけでも作れると思うが、余裕はなくなるかもしれない。

 様子を見て数は上下するだろうが、無理ではない数だな。

 それくらいなら、確かに大きな農地はいらないだろうし、管理も楽になると思う。


「最初は、この屋敷の裏庭でできる広さの場所を、用意しようかと思ったのですけどね」

「そうなんですか?」

「はい。ですが、薬草の売れ行きが良かった場合、供給に不安が出る可能性がありましたので、もう少し広い土地を村の近くで確保する事に致しました」


 クレアさんが難しい顔をしながら、最初の予定を教えてくれた。

 薬草は、一つ一つが小さいし、数も大量と言う程ではないから、確かに今言われたくらいであれば、屋敷の裏庭でもできるかもしれない。

 でも、薬草が安定して手に入れられる事がわかった人達が、多く買ったりするとすぐに売り切れてしまいかねない。

 例の店の件もあったから、供給が不足するような事は避けたいんだろう。

 それでも、エッケンハルトさんと話してた時は、もっと大きな事になると予想してたけど、そうでもないみたいだ。


「裏庭でしたら、あまり正式な契約をしなくても良いと思ったのです」

「村の近くにある土地を使う事になれば、契約を交わさないといけないですからな。そこは仕方ありません」


 屋敷の裏庭だったら、クレアさん達の許可を取るだけで、特に契約は必要ないんだろう。

 まぁ、ちょっと大きめの家庭菜園程度だからな。

 さすがに、家で作る程度の物に仰々しく契約をすると言うのは、ほとんどないだろう。

 作るのが、野菜じゃなく薬草だけども。


「ランジ村の近くにある土地の権利関係は、どうなってるんですか? 俺が以前にいた場所では、ほとんどの土地は誰かが所有していましたが」


 こういう時、問題になるのが土地の権利関係。

 俺が聞いたりして知ってる範囲だと、管理が杜撰で誰名義の土地かわからず、買い取る事が遅れたり、土地の又貸しで誰の土地かもわからなくなるとかか。

 ほとんどが、田舎で起きる事だと思うのは、偏見かな?

 ともかく、そういった問題があるから、土地の権利関係はしっかり確認しておいた方が、後々問題にならないようにするためにも必要だろう。



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