第319話 調合にリーザが興味を持ちました



「薬草、作ったから持って来たよ。……今日は、ゲルダさんが?」

「はい、私一人では時間がかかるので、手伝ってもらう事になりました」

「薬草を届けに来て下さったのですね。本日は、私がミリナをお手伝いします」

「はい、ゲルダさん。よろしくお願いします」


 調合は、乾燥するまで混ぜ続けないといけないが、すり鉢を使って混ぜていると、両手が塞がるからな。

 風を送った方が早く乾燥するが、さすがに一人ではできない。

 だからミリナちゃんは、手の空いていたゲルダさんにお願いしたんだろう。


「……それは、何をする物なん……ですか?」


 俺がミリナちゃんに薬草を渡す横で、リーザがゲルダさんの持っているすり鉢に興味を持ったようだ。

 スラムでは、すり鉢なんて見る事もないだろうからなぁ。

 リーザは、初めて見る事が多くて、色んな事に興味を持つ子なんだろうな。


「これは、色んな物をすり潰して、混ぜるための物だよ。見てみるかい?」

「いいの?」

「もちろん。ミリナちゃん、俺も一緒にやるよ。元々、俺がしないといけない事だしね」

「わかりました。ですが、師匠に任せられる事は私も嬉しいので、お気になさらないで下さい」

「やったー」

「ワフワフ」


 リーザに見せるため、ミリナちゃん達に任せようとしていた分を、俺もやる事にした。

 本来は、俺がやらないといけないとはわかってるんだが、ついつい任せてしまってたな。

 まぁ、全ての事を俺一人でできるわけじゃないから、誰かに手伝ってもらうわないといけないんだろうけどな。


 また初めての事を見られるとわかって、喜ぶリーザと、その横には何やらやる気のレオ。

 どうやら、ここでリーザにいい所を見せておきたいようだ。

 レオは魔法で風を出せるから、助かる。


「それでは、タクミ様のお使いになるすり鉢も用意して参ります」

「すみません、お願いします」


 ミリナちゃんとゲルダさんが二人でやろうとしてた事だから、俺が参加するとすり鉢が足りない。

 もう一つのすり鉢を取りに行ったゲルダさんを見送り、俺達はミリナちゃんを加えて、先に客間へと移動した。



「さて、それじゃあやってみるか」

「はい、師匠。こちらは私がやるので、そちらは師匠担当ですね」

「うん、そうだね」


 ゲルダさんが持って来てくれたすり鉢を、客間のテーブルに置き、その横に薬草を種類別に並べて置く。

 四角テーブルの右側に俺、左側にミリナちゃんと両端に座り、真ん中にレオがお座りして待機。

 レオは、俺達の方へ風を送る役目なので、その位置になった。

 リーザは、俺の横で椅子に座って手元を覗き込んでる。


「それじゃレオ、頼んだ」

「ワフ。ウゥゥ……ガウ」

「お~、ママから気持ちの良い風が来るよ!」

「そうだねリーザ。これは、混ぜている物を乾かすために、レオが魔法でやってるんだよ」

「ママも凄い!」

「ワッフ!」


 薬草をそれぞれすり鉢に入れて、すりこぎを使ってすり潰しながら混ぜ始める。

 ミリナちゃんも同じようにしながら、少しの間混ぜて、ゲル状のようになったあたりでレオに風を送ってもらうようお願いする。

 レオから来るそよ風に、リーザは目を細めて気持ち良さそうにしてる。

 食後にすぐだったら、リーザは寝てしまいそうだな。


 レオはリーザの言葉に、得意気な顔をして鳴いた。

 良かったなレオ、いい所を見せられて。


「ミリナちゃん、俺より手際が良いね?」

「昨日、何度かやったので慣れました」


 俺の向かいでは、同じようにミリナちゃんが調合しているが、薬草を混ぜる手際や混ぜ方が、最初の頃より手際良く見えた。

 まぁ、確かに何度もやれば慣れるか。

 すりこぎを使って混ぜる作業も、肩の力を抜いて、無駄な力が入らないように工夫しているし……既に俺が置いて行かれてる気分だ。

 任せてばかりじゃ駄目だなぁ。

 ミリナちゃんに負けないよう、俺もしっかり混ぜて調合をする事に集中した。



「ふぅ……これで一回目は終了だね」

「はい。……まだ、何度かしないといけませんね」


 しばらく後、すり鉢の中で乾燥し、粉末になった物ができあがって1回目の作業が終了する。

 混ぜ続けて、腕が疲れてる俺とミリナちゃんは少し休憩して、薬をまとめるのはゲルダさんに任せる。

 腕を休ませながら、テーブルに置いてある薬草を見ながら呟くミリナちゃん。

 今日は、俺がリーザにいい所を見せようと調子に乗った結果、何度も調合しなければいけない数の薬草がある。


 一度に全部すり鉢に入れて混ぜられればいいんだが、すり鉢の大きさからそれはできそうにないし、何より調合は一度に作る量を多くしないように、と本に書いてあった。

 これは、もし失敗した時のリスクを回避するための考えらしい。

 どちらにせよ、量が多ければ結局乾燥までに時間がかかるわけだから、そんなに手間は変わらないか。


「パパ、次は私もやりたい!」

「んー、大丈夫かい? これ、結構疲れるんだけど」

「やってみる!」

「そうかぁ。まぁ、これも簡単な作業だから大丈夫か。もし、途中で疲れたら、代わるから言うんだよ?」

「うん!」


 元気に頷くリーザ。

 俺が調合する作業を見ていて、自分もやりたくなったみたいだ。

 初めて見る物に、強い興味と好奇心があるようだから、無理そうな物でない限りは、やらせてみるのもいいんだろう。

 薬草を加える分量を間違えなければ、難しい作業でも無いし、そこは俺がやればいいしな。


 俺やミリナちゃんは、すぐに腕が疲れてしまうが、なんとか最後まで休まずに混ぜ続けられる。

 リーザだと、半分もしないうちに疲れてしまいそうだから、頃合いを見て代わってやろう。


「それじゃ、薬草を入れて……と。その棒を持って、入ってる薬草をすり潰すように混ぜるんだ」

「んん……、こう?」

「そうそう、その調子」


 薬草をすり鉢に入れてやり、それを俺が支える。

 小さな両手ですりこぎを持ったリーザに、力を籠めるように混ぜさせた。

 リーザには、さすがにすり鉢を支えながら、片手で混ぜる作業はできそうにないからな。

 それにしても、結構力が入ってるみたいだ。

 同時に2回目を始めたミリナちゃんの方と見比べても、遜色のない速度ですり潰されて行った。



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