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第313話 お風呂に乱入者がありました
第313話 お風呂に乱入者がありました
「タクミ様。リーザ様の部屋は、現在準備中となっております」
「……そうですか。それじゃあ、今日は一緒に寝ようか、リーザ?」
「パパと? うん、わかった!」
「ふふふ、それでは、失礼します」
「あ、はい。ありがとうございました」
部屋まで付いて来ていたライラさんが、リーザの部屋はまだ準備している最中だと教えてくれる。
それを聞いて、一緒に寝る事をリーザに提案しすると、満面の笑みで頷き、尻尾もブンブン振られてる。
その様子に微笑んで、ライラさんは退室して行った。
……ここまでライラさんが付いて来た事に気付いてなかったな……メイドさんだから、気配を消すのに慣れてるとか?
俺に、リーザの部屋はまだ……と伝えるためにいたんだろうけど、昨日は酔ったクレアさんや、飲まされるアンネさんのお世話で大変だっただろうに……ありがとうございます。
「あー、でもレオを風呂に入れなきゃな……ライラさんは……疲れてるだろうし、今日は休ませてあげたいな。……他に誰かいると良いけど……」
「どこにいくの?」
「……ワフ」
ラクトスの街で、食べ歩きをした時のまま、レオの口がくすんだ色になって汚れている事を思い出した。
俺一人なら良いんだが、レオもとなると、誰かの助けが必要だ。
風呂から上がって体を拭かなきゃいけないしな。
そう思って、座りかけてたベッドから離れ、部屋を出ようとすると、リーザに止められた。
レオは、風呂と聞いてちょっとしょんぼりしているが、以前のように嫌がったりまではしない。
体を洗うのが改善されたからかな? いや、リーザがいるからかもしれないな。
レオなりに、手本となろうと考えてるのかもしれない……シェリーの時もそうだったし。
「えっと、風呂に入るんだけど、俺一人じゃ全部できないから、誰か呼んで来ようと思ってね。大丈夫、何処にもいかないよ」
「……一緒に行く」
「ワフ……」
俺が部屋を出ようとすると、不安そうな顔するリーザ。
安心させるように声をかけ、大丈夫と伝えて改めて部屋を出ようとすると、レオから降りて俺の服の裾を掴んだ。
……知らない場所で、一人にされるのは心細くなっても仕方ないか。
「わかった、一緒に行こう」
「うん!」
不安そうな顔から一転、すぐに笑顔になったリーザは、俺の手を握った。
表情豊かな子だなぁ。
「よーし、レオ。後は自分で洗うんだぞ?」
「ワフ!」
レオを連れて風呂で体を洗った後、大きな桶に水を溜めて後の事を任せる。
お湯より水の方が良いらしいからだが、冷たそうだ。
自分で桶に顔を入れたりして、ちょっと遊んでるような雰囲気を出しながら、自分で洗うレオ。
体や、しつこい汚れがついていた場所は、先に洗っておいたから放っておいても大丈夫だろう。
そう思って、飛び散る水が掛からないように、少しレオと距離を取って自分の体を洗い始める。
レオが風呂から上がった後は、ゲルダさんに任せるようになってる。
リーザと一緒に部屋を出た所で、ばったりゲルダさんと会ったからだ。
ゲルダさんは、アンネさんのお世話を終えて部屋から出てきたところだったようだ。
俺とレオが風呂に入ってる間の、リーザの世話も任せて欲しいという事だったので、そちらもお願いした。
アンネさんのお世話を終えた後で、申し訳ないと思ったが、むしろゲルダさんはリーザを預かるのが嬉しそうだった。
尻尾や耳に視線が向いていたし……今頃、リーザに触らせてもらってるのかな?
そんな事を考えていると、勢いよく風呂場の扉が開き、小さな影が飛び込んできた。
「パパ、私も一緒に入る!」
「ワフ?」
「リーザ!?」
小さな影は、俺にしがみ付くように飛び込んで来ながら、大きな声で叫んだ。
その正体はリーザだ。
服を脱ぎ捨て、裸のリーザが俺やレオと一緒に入りたがって、ゲルダさんを振り切って入って来てしまったんだろう。
うん……裸の肌に触れるリーザの尻尾が気持ち良い……とか考えてる場合じゃない!
「すみません、タクミ様! リーザ様が突然飛び出してしまって!」
リーザによって開け放たれた扉。
その扉に背を向けて立つようにしながら、ゲルダさんが謝っている。
うん、子供のする事だから、ゲルダさんが謝らなくても良いと思う。
「えぇっと……リーザ……あのね? 俺は男だから、リーザとはお風呂に入っちゃいけないんだよ?」
「? 男だからパパ。でも、パパとは一緒にいちゃいけないの?」
「んー……んっと……なんて言ったら良いのか……」
リーザの目を見ながら、言い聞かすようにしても、首を傾げるばかりで何がいけないのかわかっていない様子。
レオがいたから、子供の相手は結構慣れてたと思ったけど、こういう状況の時、なんて言ったら良いのかわからない……むぅ。
でもリーザは7歳、小学生になったばかりの娘と一緒に……と考えると、悪い事でもない……のか?
「えっと……ゲルダさん?」
「リーザ様がタクミ様の娘……というように考えると、おかしな事ではないと……思います」
「……良いのかな……」
「大丈夫です、誰にも言わないようにしますから!」
「それ、大丈夫じゃないって言ってるようなものですよね……?」
「パパ……?」
焦ったように言いながら、扉を閉めて出入口から離れてしまったゲルダさん。
誰にも言わないようにって……大丈夫じゃないから、言わないようにするって事だよなぁ……。
どうしようかと頭の中でぐるぐると考えるが、こちらを見上げて来るリーザの不安そうな顔を見たら、断れるわけがないと結論が出た。
出てしまった……。
本当は、レオと俺が風呂から上がったら、ゲルダさんか他のメイドさんにリーザを風呂に入れてもらえるよう頼もうとしてたんだけど……仕方ないか。
決して、決して! 俺に邪な気持ちはない!
父親が、可愛い娘を風呂に入れてあげるだけだ!
と、誰に言ってるかわからないような言い訳を、心の中で叫びつつ、リーザと一緒に風呂に入る事にした。
「しかし……色々傷だらけだな……痛くは無いか?」
「大丈夫」
「ワフゥ……」
リーザにねだられ、背中をタオルに石鹸を付けて優しく洗いながら、改めてリーザが傷だらけな事に気付く。
ほとんどが、擦り傷で跡が残りそうにないのが救いだが、治る前に新しい傷が付き、またそれが治る前に新しい傷が……というように増えて行ったのだろうと思う。
傷は手や足がほとんどで、ボロボロだった服に守られて背中には傷は少ない。
それでも、いくつかはあったから、石鹸が染みたりしていないか確認するが、リーザの方は大丈夫そうだな。
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