第286話 薬草栽培の話をしました



「それでだな、タクミ殿。その時にタクミ殿も、一緒にランジ村まで来て欲しいのだ」

「俺がですか?」


 ロゼワインの事があるから、ラモギを作らないといけないのはわかってたけど……カレスさんの店の時のように、誰かに渡して運んでもらうくらいだと考えてた。

 でも、そうか……ハンネスさん達にとっては、知ってる人がしっかりと渡した方が良いだろうしな。

 それに、ミリナちゃんが頑張って調合してくれた薬を使ったワインの方も、成功したらあっちで作ってもらうよう、お願いする必要もあるかもしれない。

 ……これは、エッケンハルトさんに飲んでもらって、許可が出たら……だけどな。


「俺は確かに、ランジ村の人達と面識がありますから、村長さん達を安心させるために、行く必要があるかもしれませんね」

「あぁ、確かにそういう意味でもそうだな……」

「あれ、エッケンハルトさんもそう考えてたのでは?」


 商人い騙された村人達を、安心させるために必要だからと、エッケンハルトさんも考えてると思ったんだが、どうやら違ったみたいだ。


「タクミ殿には、ランジ村で薬草栽培に集中して欲しいと思ってな……」

「薬草栽培に?」

「うむ。タクミ殿の能力は、限界があるだろう? 作り過ぎると倒れてしまうとクレア達から聞いた」

「……そうですね。推測ではありますが、そういう事になっています」

「だから、タクミ殿さえ良ければ、ランジ村で薬草園のようなものを作って欲しいのだ。それがあれば、タクミ殿の能力を過剰に使用したりせず、領内へ薬草を供給し、ロゼワインを作る事もできるかもしれない……とな?」

「薬草園……確かにそれがあれば、毎日俺が薬草を作らなくても、多くの薬草を作れますね……」


 俺が『雑草栽培』を使って作れる薬草の数には、限界がある。

 シェリーの時以来、倒れた事はないが、それは無理をしないよう大量の薬草を作らないようにしてたからだ。

 セバスチャンさんと話した推測が正しかったら、作り過ぎて倒れてしまう事になるからな。

 倒れてしまったら、クレアさんやレオ……皆に心配や迷惑をかけてしまうから、その対策と考えればありがたい。


「だろう? まぁ、能力を使った時とは違って、急遽数を追加……という事はできないかもしれんが、それでも数を増やせることは強みになるだろう。タクミ殿が作った薬草が、土地に根付くかどうか……という問題はあるがな……」

「そうですね……今まで、他の場所で薬草を栽培するような事は?」

「ないな。……いや、どこかでやっている可能性もあるが、少なくとも、この国ではしていない。薬草と言うのは、自然に生えている物を摘み取って、各地に運んでいる物だけだ。だから、場所によって薬草にも偏りがある」

「そうですか……ですが、試すのなら屋敷でも良いのでは?」

「それも考えたんだがな。屋敷ならクレアや使用人達もいるし、管理は楽だ。だが、広さがな……」

「あぁ……確かに。レオが走り回ったりもしますしね」


 屋敷の裏庭でも多少はできるんだろうが、レオが走り回ったりもするし、そもそも広さが足りないかもしれない。

 レオに気を使ってもらうのも、自由に出来る範囲が減ってしまうだろうし……。

 レオに言えば、薬草に気を付けて、踏まないように動いてもくれるかもしれないが、気を使わせるのはな……。

 それに公爵家にとって、シルバーフェンリルは特別な存在らしいから、自由に動けなくなるようなお願いはしたくないのかもしれない。

 それにランジ村周辺なら、広い場所を取って、多くの薬草を栽培できるだろうしな。


「レオ様の事もあるし、もし上手くいった場合、屋敷では広げる事もできないからな」

「そうですね。上手くいくものだとして……そこからさらに場所を移したり広げたりしようとすると、屋敷だと不便でしょうね」

「うむ。まずは試す事から始めないといけないだろうがな。それに、あっちでなら世話をする者を複数雇えるだろう?」

「世話をする者、ですか?」

「あぁ。最初はまだしも、上手くいったとして……広い薬草園を、タクミ殿一人で全て管理する事はできないだろう。屋敷では、複数の者を雇う事もできいないだろうし、ランジ村なら、そういった者を雇って暮らさせるにもちょうど良いしな」

「それは確かに……」


 管理してくれる人を雇う……か。

 図らずも、ライラさんと以前話してた事がすぐ近くに来てしまった。

 人を雇うかぁ……面接官とかした事ないんだが、大丈夫だろうか。

 まぁ、まずは色んな種類の薬草が根付くかどうかを試してみないといけないけどな。

 そっちが成功してから……という事だろう。

 栽培は、1日2日で成功か失敗かわかるものじゃないから、その間で、どうするか考えておこう。


「まぁ、そうは言っても、すぐにランジ村に行って栽培できるかどうかはわからないから、屋敷で実験しないといけないだろうがな?」

「……そうですね。それじゃあ、帰ったら暇な時間を見つけて、『雑草栽培』で作った物を育てられるかを試してみます」

「あぁ、頼む。私もすぐにセバスチャンに話して段取りをつけておくことにする」

「エッケンハルトさんは、まず帰ったら説教からだと思いますけどね?」

「やはり、そう思うか?」

「はい」


 屋敷で少し実験をしてからという事で決まり、了承する。

 それとは別に、エッケンハルトさんが屋敷に帰ったら、その話よりも先に怒られる気がする。

 あのセバスチャンさんが、エッケンハルトさんが屋敷を抜け出したのに、ずっと気付かないとは思えないからなぁ……。


「一応、部屋には書置きを残して来たのだが……」

「まぁ……いなくなった事に対して、心配だとか、捜索だとかは無くなるでしょうけど……」

「はぁ……何も言わずに、護衛すら付けずに出た事は言われるか」

「でしょうね。それに、クレアさんからも何か言われるでしょう?」

「クレアは……何とかなりそうだな。昨日の事を言えば、話を逸らす事ができそうだ」


 エッケンハルトさんは、クレアさんの方は大丈夫だと思っているようだけど、本当にそうだろうか?

 クレアさんだけなら、確かに話を逸らして……とできるかもしれないが、もしセバスチャンさんと組んだら、手が付けられなくなりそうだ。

 ……俺も多少は覚悟を決めておこう。

 頼まれたからと言って、実際にここまで連れて来たのは、俺とレオだしな。



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