第284話 屋台で嬉しい発見をしました



「タクミ殿、こんな話ばかりではなく、今は腹を満たす事を考えよう。ほらあっちにも肉を焼いている屋台があるぞ!」

「……そうですね」

「ワフ!」


 少し重い話になったからか、エッケンハルトさんが話題を変えるように明るく行って、先にある屋台に向かう。

 結局は、アンネさんがどうするか次第なのだから、俺達がここで話していてもどうにもならない事だしな。

 どう接するか……というのは多少参考になったが。

 とりあえず今は、ラクトスの街を楽しもう。

 レオもまだ食べ足りないようで、肉を見て尻尾を振ってるしな。


「おぉ、これも美味いな。ラクトスは色々な物があるから、美味い物も多いな。ほら、タクミ殿、こっちも食べてみろ」

「はいはい。……うん、確かに美味しいですね。ほら、レオも」

「ワフ! ワフワフ」


 いくつかの屋台を周り、両手に買った物を持ってそれに齧り付くエッケンハルトさん。

 今日は、注意するクレアさんもいないから、思いっきり食べられて楽しそうだ。

 エッケンハルトさんに進められ、屋台で買った物を食べたり、レオに食べさせる。

 どれも美味しい物だから良いんだけど……ちょっと肉ばかりで飽きてきたかなぁ……。

 エッケンハルトさんやレオは、もっと肉を食べたいみたいようだけども。


「もう少し、あっさりした物というか……肉以外は無いんですかね?」

「ふむ、確かに肉ばかりだと飽きて来るか……。私はもっと肉ばかりでも良いのだがな」

「ワフ!」


 肉を買った屋台から離れ、他にもないかキョロキョロと視線を巡らせつつ、肉以外の屋台を探す。

 エッケンハルトさんは肉でも構わないようだし、レオもそれに同意するように頷いてるが、やっぱ肉ばかりだとなぁ。

 今回だけで、屋敷に戻ればヘレーナさんがバランスの良い食事を用意してくれるから、栄養が偏ってしまうとまでは考えないけどな。

 でもやっぱり、飽きて来るよな。


「お、あそこの屋台は……」

「む? ほぉ、他の屋台とは違いそうだな。行ってみるか?」

「はい。行ってみましょう」


 視線を巡らせた先、他の屋台では店先で肉を焼いているのに、その屋台は少し違う感じだった。

 エッケンハルトさんと一緒に、レオを連れてその屋台の前まで行くと、嗅いだ事のある香ばしい匂いがして来た。


「らっしゃい!」

「これは……パスタか? しかし、黒いな……匂いは美味しそうなのだが……」

「……焼きそば? でも、どうしてこんな所で……」


 屋台から香る匂いはソースの焦げる匂い。

 祭りの屋台や、海の家とかで食欲をそそる匂いを振りまいてるソースの香りだ。

 日本の食べ物……だよな……どうしてこんなところにあるんだろう……?

 いや、作れないわけじゃないと思うから、あっても不思議じゃないんだろうけど……。


「店主、これはどういうものなのだ? 私は見た事がないのだが……」

「へい! これはヤキソバという物でして。パスタを特製のソースを付けて、野菜と一緒に鉄板で焼くんでさぁ! 肉は少ないので、肉好きにはお勧めしませんが、食べ応えもあって、美味しいですぜ!」

「ふむ……ヤキソバ……聞かない名だな……」

「ワフ、ワフ」


 エッケンハルトさんは当然ながら、聞いた事がないようだ。

 だが、俺は聞いた事がある。

 というより、日本人なら誰でも聞いた事があるだろう。

 レオの方も、覚えているのか、尻尾を振ってよだれを垂らしそうな勢いで、鉄板で焼かれて良い匂いを出すヤキソバを見ている。


「おじさん、3人前、下さい」

「へい、ありがとうございます!」

「タクミ殿、食べるのか? 黒いが……」

「はい、もちろんです。これは美味しいですよ!」

「そう、なのか? しかし、タクミ殿は食べた事があるのか?」

「ええ。俺がいた場所では、よく食べられていましたから」

「……そうなのか」

「ワフ!」


 屋台のおじさんに3人分を頼んで、お金を払う。

 エッケンハルトさんには、俺が異世界から来たというのを話してある。

 そこで食べられていた物とわかって、色の黒さに躊躇していた雰囲気から、興味深そうに鉄板を見るようになった。

 レオはそもそも知っているから、嬉しそうに出来上がりを待って吠える。

 嬉しいのはわかるが、吠えるのは止めような? 屋台のおじさんがビクッとしてるから。


「へい、お待ち!」

「ありがとうございます。エッケンハルトさん、レオ、どうぞ。熱いのでお気をつけて」

「うむ……食べてみる事にしよう」

「ワフゥ!」


 紙を重ねた物を器にして、出来上がったばかりのヤキソバ受け取り、エッケンハルトさんとレオに渡す。

 木で作られた小さめのフォークを渡される。

 できれば箸が良かったと思うが……贅沢は言うまい。

 エッケンハルトさんとか、箸を使えそうにないしな。


「では、頂きます。……ズルズルズル! うん、美味い!」

「タクミ殿……クレアでは無いが、音を立てて食べるのは良くないのではないか?」

「あはは、確かにそうですね」

「……だが、勢いがあってそれも良さそうだな。……クレアもいないし……ズルズルズル! ん!」

「美味しいでしょう?」

「うむ! これは美味いな!」

「ワフワフ!」


 フォークを使い、野菜や肉と一緒に麺をすする。

 汁物じゃないから、すすらなくても良いんだが、久しぶりで勢いよくいってしまった。

 ヤキソバの味は、麺がパスタだからか少し違うように感じたが、十分に美味しい。

 ソースも、俺が慣れ親しんだ物とは少し違う気がしたけど……どこかで食べた覚えのある気もした。

 なんにせよ、思わぬところで出会ったヤキソバは、満足のいく味だ。


 エッケンハルトさんは、俺の真似をして勢いよく口に入れた後、目を見開いて美味しさに驚いていた。

 レオも、少し冷ましてから勢いよく食べてるから、味に満足しているようだ。

 青のりも欲しいなぁ……。



「あぁ、さっきのヤキソバというのは良かったな。色が黒いのは味が濃いからなのか? 野菜や肉もあって、バランスの取れた物だ」

「配分を変えれば、野菜多めとか、肉多めとかもできますね」

「ふむ……ヘレーナに作らせてみるか……しかし、クレアの前ではあのような食べ方はできないだろう」

「そうですね。こちらでは、音を立てて食べるのはマナー違反でしょうし……よし、レオ。粗方取れたぞ」

「ワフ!」


 ヤキソバを食べ終わり、口の周りをソースで汚したレオを拭きながら、エッケンハルトさんと話す。

 エッケンハルトさんも、ヤキソバを気に入ってくれたようで何よりだ。

 レオの方は、布を湿らせて拭いてあげたんだが……やっぱり少し残ってるか……帰ったら風呂で洗う事にしよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る