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第257話 偉そうなことを言ってしまいました
第257話 偉そうなことを言ってしまいました
「……どうしてですの……どうして貴方は貴族にかしづかないんですの!? 伯爵家より上位の、公爵家に保護されているからですの!?」
「……いえ、例えアンネさんが公爵家で、エッケンハルトさんが伯爵家……と権力が逆転しても、断ったでしょうね」
「……どうして……どうしてなの……?」
アンネさんの考え方は、見方によっては間違いでは無いのかもしれない。
権力者がしっかりとし、民を導いていけば、頼もしい貴族に人はついて行く事だろう。
でも、俺としては……その考え方で進んで欲しくないような気がする。
まぁ、願望みたいなものだけどな。
クレアさんやエッケンハルトさんのように、権力を振りかざさない人達を見ているせいもあるのかもしれないが。
どうして……と呟いて答えがわからない様子のアンネさん。
髪を振り乱していたから、縦ロールが完全に乱れてしまっている。
……縦ロール……見てる分には面白いから、ちゃんと維持して欲しい……というのは余談か。
「わからなければ、人に聞く事も大事ですよ?」
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、というのは日本のことわざか。
この世界に、同じような言葉があるかわからないが、貴族だという事を自負していて、一人で考える事に慣れたアンネさんには、わからないかもしれない。
「人に聞く……でも貴方は答えをくれませんわ」
「俺だけでなく、色んな人に聞いてみる事ですね。必ず答えが貰えるとは限りませんが……何かしらのヒントはくれるかもしれません」
特に、エッケンハルトさんやセバスチャンさん辺りは、何かしらのヒントをくれる可能性が高い。
クレアさんも、同じ貴族令嬢としてアドバイスをしてくれるかもな。
「貴族が、他の者に聞くなどと……」
「できませんか? クレアさんは、わからない事があれば、セバスチャンさんを含めて色んな人に聞いているようですよ?」
「クレアさんは変わっているんですの。他の貴族達が集まった時も、クレアさんだけは……」
「そうなんですか?」
クレアさんが変わってる……とはあまり思わないんだけどなぁ。
まぁ、妹が病気だからと、護衛も付けずに危険な森へ一人で入る……というのは、確かに貴族令嬢としては変わってるんだろうが。
「そうなのです。……貴族は権力を持っていますわ。それを使わずに何を使うと言うんですの?」
「貴族だからと、必ずしも権力を振りかざさないといけない……というわけではないと思うんですけどねぇ……なんにせよ、一人で考えるだけでなく、色んな人に意見を求めたり、話をしてみる事をお勧めします」
「そうすると、答えがわかるんですの?」
「さぁ?」
「……無責任ですのね。今貴方が仰った事ですのに」
答えを出すのは、アンネさん自身だからなぁ。
誰かと話す事で、必ず答えが出るなんて事、俺にはわかるわけがない。
「まぁ、一つ言える事はですね」
「はい……」
「権力を振りかざさなくとも、人はついて来る……という事です。それはクレアさんを見ていればわかると思いますよ? 権力に固執していては、また俺のようにアンネさんからの申し出を断る人も現れるでしょう」
「……クレアさんを」
「屋敷の中の誰でも良いのです。色んな話をして、人と繋がりを作り、権力とは違う……人が付いて来る方法、というのを考えてみて下さい」
それだけを言って、俺は部屋を出ようと扉へと向かう。
随分偉そうなことを言ったが、エッケンハルトさんと話して、アンネさんとも話し、俺が考え付いた事はこれくらいだ。
俺にはアンネさんを完璧な答えに導く事はできないから、自分で見つけてもらう事を願うしかない。
また、疫病やランジ村での事件のような、人を害して利を得るような考えを持たないようになって欲しいからな。
……というか、そんな事を考えて実行しようとしたら、今度こそエッケンハルトさんと国によって、伯爵家そのものをおとり潰し……なんて事になりかねないからな。
袖振り合うのも多生の縁……ではないが、関わってしまった以上、いい方向になって欲しいと思う。
……様子を見に来るだけのつもりが、説教臭くなってしまった……。
「わかりましたわ。……貴方の言葉をよく考え、行動させてもらいますわ」
「はい。偉そうな事を言いましたが、俺もしっかりできてるとは言い難いんですけどね。頑張って下さい」
「何ですの、それは……」
「ははは。元気になったようで何よりです」
最後に、冗談っぽく言って話を済ませる。
部屋を出る直前に見たアンネさんの表情は、笑顔だったから、しっかり考えて行動してくれるだろう……多分。
またあの縦ロールが、きっちり腰までくるくるドリルになってるのを見てみたいしなぁ……なんて事を考えながら、アンネさんの部屋を離れた。
「えーと、次はミリナちゃんか……」
そろそろエッケンハルトさんとの鍛錬を行う時間だが、先にミリナちゃんに話しをしよう。
調合の事を、伝えておかないといけないからな。
「お、いたいた」
ミリナちゃんは、客間でライラさんに指導されていた。
食堂も探したけど、こっちだったか……。
「ミリナちゃん?」
「良い、ミリナ? 皆様をお見送りしたり出迎えたりする際、しっかり他の人達と声を合わせるのよ?」
「はい!」
声をかけたのだが、指導に熱が入ってるために気付かなかったようだ。
入り口に背を向けてるのもあってか、俺が客間に入って来たのも気付いていない……。
「ではまず、クレアお嬢様が屋敷を出る際のお見送りよ?」
「はい」
「あのー?」
「……タクミさん?」
「師匠?」
見送り、出迎えの練習をするところだったようだ。
やっぱり、使用人さん達は、声を合わせる練習をしてるようだなぁ……。
後ろから掛けた俺の声に、ようやく二人が気付いてくれたようだ。
……邪魔したかな?
「えーっと、今大丈夫……かな?」
「ええ、大丈夫ですよ。何かご用ですか?」
「師匠、どうかしましたか?」
「用というか、ミリナちゃんに伝えておく事があってね」
「私ですか?」
俺の言葉に、ミリナちゃんが首を傾げている。
使用人としての指導とかがあるのに、調合の事を追加するのは少し気が引けるけど……。
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