第225話 エッケンハルトさんと鍛錬しました



「成る程な、『雑草栽培』……ギフト、不思議な能力だ」

「はい。人に対しては発動しにくいので、俺が誰かに触れて勝手に発動する事はないようです」

「それは安心できる情報だな。しかし、魔物に使えるかそうでないか……判断はできないか」

「そう、ですね。イザベルさんの言う事が正しいなら、相手の魔力にもよって変わるでしょうから、頼りにはできないかもしれません」


 俺が強く願えば、もしかしたらある程度魔力を持つ魔物にも発動するかもしれないが、それを試す事は早々できないだろう。

 わざわざ魔物の所に行って、無防備に手で触れて発動できるか試す……なんて危険すぎるしな。


「そうか。魔物相手に簡単に発動するなら、それを武器に戦う事も考えられるが……ギフトとは言え、万能に使えて何でも便利になる、というわけではないな」

「はい」


 ギフトだからと言って、全てが便利になるわけじゃない。

 実際、『雑草栽培』は植物に関するギフトだが、雑草という名前のせいなのか、農作物は栽培できないという制約がある。

 何でもかんでもできる能力ではなく、ちょっとだけ便利になる能力……と考えておく方が良いだろう。

 こういうものに頼り切ってしまっても、あまりいい方向に行かないような気もするしな。


「では、とりあえず鍛錬をするか。『雑草栽培』の事で動きを止めてしまったのは仕方ない事とは言え、それでも動けるように体に覚えさせないとな」

「はい!」

「はいです!」

「ワフ!」

「キャゥ!」


 エッケンハルトさんに言われ、緊張感のある鍛錬が始まった。

 別の事を考えてても、体が自然と動いて攻撃を回避するように……理想ではあるけど、中々難しいな……その分鍛錬は厳しいし。

 俺とティルラちゃんの気合が入った返事につられるように、レオとシェリーも大きく返事をした。

 レオは俺が怪我をしたのを見て心配してくれてたからわかるが……シェリーは……わかってないだろうなぁ。


 エッケンハルトさんが加わった鍛錬は、最初の頃やティルラちゃんと二人でやっていた時よりも厳しい物だった。

 特に、俺に対しては実戦を経験したという事で、模擬戦を多くやった。

 レオとの訓練とは違って、エッケンハルトさんの方からも、柔らかめの木剣を使って打ち込んで来るからだ。

 柔らかい木で作った木剣とはいえ、的確に撃ち込まれた体は、あちこちで打撲の症状が出る事になった。


「ふむ、やはりタクミ殿は実戦を経験しているだけあって、ティルラとは違う戦い方になっているな」

「そんなに違うものですか?」

「何が違うのかわかりません……」


 打ち合う鍛錬が終わり、あちこちにできた打撲にロエを使って治しつつ、エッケンハルトさんと話す。

 ……ロエをこんなに気軽に使って良いのか……とエッケンハルトさんが汗を流していたのは、気にしない事にする。

 『雑草栽培』様様だ。

 傷を作ったままだと、クレアさん達に心配をさせてしまうかもしれないからな。


「ティルラ、戦闘をする際、まずはどこを狙う?」

「急所です! そこを剣で斬る事ができれば、一度で相手を倒せますから!」

「タクミ殿は?」

「俺は……できれば急所を狙いたいですが……まずは腕や足、ですかね。動きを鈍らせてからの方が、戦いやすいですから」

「そこだな。はっきりと違いが出ているぞ」


 ティルラちゃんは戦闘の際、まずは急所を狙うと言った。

 けど俺は違う……はっきりと意見が分かれたけど、これが実戦を経験した事で変わった事なんだろうか?


「実力差がある相手ならば、真っ先に急所を狙うのは悪くないだろう。剣を突き詰めて行くと、どれだけ早く相手を倒せるか……という事でもあるからな。だが、実力が同じような相手の場合、むざむざと急所を斬られるような戦いにはなるまい」

「……そうなのですか?」

「うむ。剣で斬り合い、相手の隙を窺う……という事が多くなるはずだ。絶対では無いがな。その点タクミ殿は巧妙だ。相手の足や腕を狙い、動きを鈍らせる事を狙っている。腕を斬り付けられれば剣を持てなくなるかもしれない、足を斬り付けられれば動きが阻害される。相手を弱らせられれば、後は簡単だな」

「……成る程です」

「そうですね」


 エッケンハルトさんの説明に、ティルラちゃんと同じく俺も頷く。

 俺はオークと戦った時、まずは槍を持っている腕を狙った。

 それは、俺の実力と剣の大きさでは、相手とのリーチの差もあって簡単に急所を狙えないからだったんだが、その考えは正しかったんだろう。

 そう考えて、自分なりの戦い方を模索していたから、今回ティルラちゃんとの違いがはっきりできたのだろうと思う。


「旦那様、ティルラお嬢様、タクミ様。夕食の準備ができました」

「お、そうか。それじゃ鍛錬と講義はここまでだな」

「ありがとうございました」

「ありがとうです!」


 ゲルダさんが呼びに来て、裏庭での鍛錬は終了。

 指導してくれた人に対し、礼をするのは、剣道と通じる何かを感じたが、師匠と弟子のような関係になれば、どこでも同じような物なのかもしれないと思った。


「明日は、例の店へ……か」


 夕食もつつがなく終わり、風呂にも入って部屋でのひと時。

 今日は鍛錬を厳しくしたから、素振りもなく休めとエッケンハルトさんに言われた。

 明日の事もあっての配慮なのだろうと思う。


 ちなみに、夕食時、同じテーブルについたアンネさんが、レオを恐れて一番遠い場所に座ったのは少し笑いそうになってしまった。

 エッケンハルトさんはいつものように豪快に肉を食べる姿を見せてくれた。

 クレアさんには相変わらず注意されていたけどな。


「あまり遅くなってもいけないな。レオ、寝るぞー」

「ワフ」


 明日は例の店へ乗り込むんだ、あまり疲れを残してもいけないからな。

 ……戦う事はないだろうけど。

 薬草関係の事だから、俺も一緒だとエッケンハルトさんに言われた。

 最初からそのつもりだったんだけどな。


 ずっと撫でていたレオから手を離し、ベットへ寝転んで就寝だ。

 ベットの横でレオが丸くなったのを見ながら、おやすみのあいさつをして、夢の中へ入り込んでいった。

 悪質な店が無くなり、良質な薬草がラクトスで出回るようになれば良いなぁ。


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