第193話 村人達の治療を行いました
落ち込んだ様子のロザリーちゃんに俺も声を掛ける。
こんな小さな女の子を落ち込んだままにはしておけないからな。
レオの頷きも見て、ロザリーちゃんは少し元気が出て来たようだ。
さて、子供達を元気にするために、怪我をした人達の治療をしよう。
「あぁ、薬師様……薬師様のおかげで村は何とか無事でした……ですが……」
「大丈夫です。俺に任せて下さい」
まず一人目は、俺の近くで戦っていて、腕を怪我して剣を持てなかった人だ。
あの時、腕を斬り付けられた場所が悪くて、腕に力が入らなくなったようだ。
右腕に巻かれた布に滲んでいる赤い血が痛々しい。
「さぁ、これで……」
「痛みが……引いて行きます……」
ロエを持ち、セバスチャンさんに巻かれていた布を解いてもらって、まだ血が滲み出ている腕に当てる。
すぐにロエは効果を表し、何も無かったかのように塞がる傷口。
数秒後には、跡形も無くなっており、今まで出ていた血の残りだけが怪我をした証拠のように見えた。
「腕が……動きます! 薬師様……なんとお礼を言って良いのか……」
「お礼は大丈夫ですよ。これで、村の仕事もまだまだできますね」
「はい!」
腕に力が入らなく、仕事や生活に対して絶望していたのかもしれない。
目に涙を浮かべて、俺の言葉に頷く男性……この人はもう大丈夫だろう。
「さて、次は……」
「タクミ様、こちらです」
「フィリップさん、本当に大丈夫なのですか?」
すぐにフィリップさんが次の怪我人を連れて来てくれた。
その人は、フィリップさんに背負われている……よく見ると、両足に布を巻いてるな……。
「大丈夫だから安心するんだ。タクミ様、こいつは足が動かないみたいなのです。酷い怪我なのに、痛覚も無く……」
「成る程、わかりました。セバスチャンさん、お願いします」
「はい、畏まりました」
フィリップさんに背負ってる男性を降ろしてもらい、地面に寝かせる。
土の上になるのは申し訳ないが、背負ったままだと怪我がよく見えないからな。
セバスチャンさんに、巻いてある布を解いてもらい、先程と同じようにロエを近づける。
……これは多分、足の神経か何かを斬られてしまったんだろうか……。
俺に医療知識はほとんどないが、なんとなく神経だとかそう言う事を聞いた事がある。
痛覚が無くなるほどの怪我……と言うのがどれほどのものなのかはわからないから、はっきりとこうだとは言えないんだけどな。
「……つぅ……痛みが……あれ、引いて行く……」
まだ血が流れる足にロエを当ててしばらく、多分神経か何かが繋がって痛覚が戻ったんだろう。
少しだけ痛みに顔をしかめた男性は、さらに痛みがなくなって行く事に驚いてる様子だ。
「よし、これで大丈夫でしょう」
「足の感覚がある……こんな事って……。……ありがとうございます、薬師様! フィリップも!」
「いえいえ、良くなって良かったです」
「良かったな!」
足の感覚が戻り、怪我の跡すらなくなった男性は飛び上がるように立ち上がって喜んでいる。
フィリップさんの事を呼び捨てにして、仲が良さそうにしているのを見るに、もしかすると酔って意気投合した村人はこの人かもしれないな。
フィリップさんに蔵のお酒を勧めて、酔い潰した人……という事にもなるけど……まぁ、おかげでガラス球を発見できたのだから、何も言わないでおこう。
「次は……と」
そうして、セバスチャンさんやフィリップさん。
怪我の治った人達と協力して、怪我をした村人達をロエで治療して回った。
ロザリーちゃんは、怪我をして沈んでいた村人達が、次々に元気になる様子を見て、泣きながらレオに抱き着いて喜んでくれていた。
よっぽど皆が心配だったんだろう、優しい子だ。
レオはロザリーちゃんを労わるように、モサモサの毛で包んでいた。
「ふぅ……なんとか、ロエも足りたかな」
一度使ったロエは他の人には使えない。
セバスチャンさんからは、まだ効力があったからもったいないと言われたが、怪我をした人に直接当てたり、血が付いてたりしてたからな……。
詳しくない俺でも、感染症が怖いと思ってしまう。
消毒とかができないから、一人につきロエ1個という事にした。
治療した人達は、総勢9人。
他にも軽く怪我をしている人たちもいたようだけど、かすり傷でロエを使うまでも無いようだ。
まぁ、体の一部が動かなくなるほどだったり、怪我が原因で病気になる、とかまでになっていなければ大丈夫だろうと思う。
俺も含めて、数十のオークを相手に合計10人の怪我人と考えると、被害は少なかった方なのかもしれない。
……だからと言って、商人達を許す事はできないけどな。
さすがにあいつらは、ニックの時のように助けてやる……という気は全く起きない。
「タクミ様、今回は本当にありがとうございました」
「私からも、公爵家を代表して、お礼を言わせて頂きます」
「いえ、そんな……」
「タクミ様がいなければ、この村はもうオーク達に蹂躙されて生きている者はいなかったでしょう」
「公爵家当主、エッケンハルト様の名代として……。タクミ様、公爵家領内、ランジ村の危機を救って下さり、ありがとうございます」
怪我人の治療が落ち着いて、商人達も閉じ込めて戻って来たハンネスさんと一緒に、今はハンネスさんの家の居間にいる。
そこで落ち着いて奥さんに淹れてもらったお茶を飲もうとしたところで、ハンネスさんとセバスチャンさんの、二大お爺さんに深々と頭を下げて感謝される。
……お茶はやっぱり、屋敷でライラさん達に淹れてもらった方が美味しいなぁ。
なんて、奥さんに失礼な事を考えつつ、一瞬の現実逃避。
……だって、こんなに改まって人から感謝をされるのに慣れてないんだ……。
「それで、セバスチャンさん。どうしてレオだけでなく、セバスチャンさんがここに?」
しばらく感謝をされて、慣れない俺はむず痒いような時間を過ごして落ち着いた後、セバスチャンさんがここにいる理由を聞く事にした。
レオもそうだが、セバスチャンさんがいてくれて商人達の捕縛や、村の収拾をしてくれたことは助かったけど、やっぱりここまで来た理由は気になるもんな。
というか、例の店関係で忙しくて屋敷から離れられそうになかったから、そう言う意味でも気になるところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます