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第192話 怪我が酷い人達もいるようでした
第192話 怪我が酷い人達もいるようでした
「あぁ、セバスチャンさん、タクミ様も、お疲れ様でした。……村の状況ですが……あまり芳しくありませんね……」
「何か問題が?」
俺達に気付いたフィリップさんだが、村の状況を考えてか、その表情は険しい。
怪我人は確かにいたが……何かあるのだろうか?
死者が出ていないという言葉に、安心しかけたがフィリップさんの顔は晴れない。
「いえ、これだけの規模の魔物達に襲われて、死者が出ていないのは奇跡的なのですが……怪我人のうち、数人が……」
「確かに、死者が出ていないのは僥倖ですな。……タクミ様の奮闘、レオ様の活躍があってこそでしょう」
「はい。それは確かです。ですが、怪我人の中に傷の深い者が数人いるようです。幸い、死に至る程ではないようですが……」
俺が頑張ったと言うよりも、村の人達で協力して頑張った成果だと思う。
魔物の事をよく知らない俺でも、あれだけの数のオークに襲われて、死者がいないというのは奇跡的だと思える。
最終的には、レオのおかげというのが大きいだろうな……駆けつけるのがもう少し遅かったら、俺も含めてもっと被害が大きかっただろう。
それはともかく、フィリップさんが言うには、怪我人の中に問題があるようだけど……?
「怪我人の中には腕を斬り付けられて……腕が動かなくなった者がいます。それ以外にも……」
フィリップさんが言うには、槍で斬り付けられた事で、腕を始め体の一部が動かなくなるような怪我をした人がいるという事だ。
確かにそれは、死者がいないという事だけに喜ぶわけにもいかないだろう。
もしかしたら、そんな後遺症が残った人はこの先、満足に仕事ができなくなるのかもしれないからな。
「そうですか、それなら心配には及びません」
「何か方法が?」
「タクミ様が薬草を用意して下さっていますからね」
「成る程。それなら怪我人も……!」
セバスチャンさんが俺の事を言い、安心して胸を撫でおろすフィリップさん。
お酒の席で、村人とは大分打ち解けた様子だったから、フィリップさんにとっては大きな怪我をした人達を放っておけなかったんだろう。
俺としても、お世話になってるから村人達が怪我をしている現状を放っておく事はできないしな。
「怪我人を一つの場所に集めて下さい。その方がすぐに処置ができるでしょう」
「わかりました。すぐに!」
「あ、それと、ハンネスさんを呼んで下さい。この者達を置く場所も考えないといけませんので」
「はっ!」
セバスチャンの言葉で、早速とばかりに駆け出すフィリップさん。
商人達の方は、ここまで連れて来られた時点で、もう諦めたのか、項垂れるだけだ。
と言うより、さっきよりもしっかり紐で結ばれてるから、身動きが取れないのかもしれない。
……馬に乗せて運んだ時点では、これ程じゃなかったのに……ちらりと視線を向けると、ヨハンナさんが一仕事終えたような良い笑顔を浮かべてたから、ちょっとした隙にやったのかもな……。
「お待たせしました。怪我をした村の者達は今、広場に集めております」
「ご苦労様です。村長……ハンネスさん。この者達ですが、明日にはラクトスへと護送するのですが、今夜置いておく場所はどこかありますかな?」
「……そうですな……村のはずれに使われていない建物があります。しかし、外から鍵を掛けられないので、逃げ出す可能性も……」
「それは心配無用です。ヨハンナ」
「はっ! 私とフィリップさんとで、交代で見張りを致します。それに、この状態ですから。よっぽどの事が無いと抜け出せないでしょう」
「確かに……。わかりました」
フィリップさんに呼ばれて、村の入り口に戻って来たハンネスさん。
セバスチャンさんに言われて、商人達を置く場所を考える。
しかし、外から鍵がかからないから、閉じ込めておくには不向きらしいけど……ヨハンナさんとフィリップさんが見張ってくれるなら安心だろう。
それに、ヨハンナさんが縛ったから、抜け出して逃げる事はできないだろうしなぁ……ミノムシみたいになってる。
……トイレとかどうするんだろう? ……まぁ、良いか。
「それでは、ヨハンナはハンネスさんの案内で、この者達を。私とタクミ様は怪我人が集められている場所へと参りましょう」
「はい」
「はっ」
「わかりました、こちらです。あ、けが人は宴をした広場に集めておりますので」
セバスチャンさんに促されて、ハンネスさんとヨハンナさんは商人達を運んで行く。
ハンネスさんにとって、あの商人達は病の原因を広めた恨むべき相手だが、無事捕まえられた事と、公爵家からセバスチャンさん達が来てくれている事で、留飲を下げているんだろう。
……本当は、色々と口汚く罵っても許されるだろうに……まぁ、元々そう言う事ができない人なのかもしれないけどな。
「あ、もしその人達が抵抗したら言って下さい。レオを向かわせます」
「ワフ!」
「わかりました」
「「ひっ!」」
商人達を連れて行くハンネスさんに、後ろから声を掛ける。
レオが頷き、ハンネスさんも頷く。
レオの声を聞いて、商人達がビクリと体を強張らせて恐れるような声を漏らした。
……これだけやっておけば、下手に逃げ出そうとは考えないだろう。
「さて、では私達は怪我人の所へ参りましょう」
「はい」
ハンネスさん達を見送った後、俺とセバスチャンさんはレオを連れて宴の行われていた広場へ。
怪我で苦しんでる人達を、速く助けてあげないとな。
「こちらです、セバスチャンさん、タクミ様」
「レオ様だ!」
「ワフッワフッ」
広場に着いて、フィリップさんと合流する。
その時、広場の奥からロザリーちゃんがレオの大きな体を見つけて駆け寄って来た。
ロザリーちゃんは、さすがに戦闘には参加しなかったが、怪我人の手当てをしていたらしい……その手は誰かの血で汚れていた。
「レオ様……皆が……」
「ワフワフ」
村人が怪我をした事で、ロザリーちゃんにはいつもの元気はない。
レオが励まように近付いて、ロザリーちゃんの小さな体に、自分の頬を寄せて励まそうとしている。
「ロザリーちゃん。大丈夫だよ、皆の怪我は俺が治すからね」
「ワフ!」
「本当ですか? タクミ様、レオ様」
「本当だよ。だからロザリーちゃん、元気を出して」
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