第191話 ロエを使って傷の治療をしました



「酷い裂傷です。意識を失っていてもおかしくありません……これで……」

「そんなにですか……いてて……あぁ、痛みが引いて行きますね」


 どうやら、俺の怪我は自分で感じてるよりも酷かったらしい。

 棒になり果てた槍で強打されて、皮膚がパックリと裂けてるくらいの状態らしい……怪我を自覚して、痛みが増したように感じたけど、ヨハンナさんがロエを傷口に付けてすぐ、痛みが引いて行く感覚。

 頭蓋骨がパックリ……と行かなくて良かった……そうなってたら、今ここにいる事もできなかったからな……なんて考えつつ待つ事数秒。


「終わりました。傷跡も無く、完全に治りました。気分は如何ですか?」

「痛みも無くなりましたし、気分も悪くありません。……ロエってこんなに効果がある物なんですね……。ありがとうございます」

「いえ、私は大したことはしていませんよ」


 怪我が治って俺から離れるヨハンナさん。

 ロエを使ってくれたおかげで、痛みももう全然ないし、特に気分が悪くなったりもしない。

 血を出し過ぎて貧血……という事にもなってないみたいだ……しかしロエ……こんなにすぐ効果を発揮する物なのか……。

 初めてロエの効果を実感して、これは高価な薬草である事が頷けると納得した。

 まぁ、シェリーの時に似たような薬草を作った事はあるが、あれは特別だろう。


「タクミ様、これからはこんな無茶はなさらぬよう、お気を付け下さい」

「そうです。……あんな怪我をしていたとわかっていたら、ここまで来てもらう事もありませんでした……」

「ははは、まぁ自分でもどれだけの怪我か把握していませんでしたからね。まぁ、痛みはありましたが……我慢できるくらいでしたので。それに、商人達の顔をセバスチャンさん達は知らなかったでしょう?」

「それはそうですが……」


 まぁ、今回はそれで納得してもらおう。

 こんな時間に、こんな場所を他に馬で移動する人なんてほとんどいないだろうから、俺がいなくても捕まえられたかもしれない。

 だけど、ランジ村にあんな事をしたこいつらを、俺が自分の目で捕まえるのを見届けたかったからな。

 ……自分の力で捕まえる……とならないのは少し情けないかもしれないが……。


「まぁまぁ。とりあえず、ランジ村に帰りましょう。色々後始末をしないといけないでしょう?」

「……わかりました。ですが、これからは同じような無茶はしないよう、お気を付け下さい」

「わかりました」


 とりあえず頷いたセバスチャンさんだが、俺に苦言を呈する事は忘れない。

 まぁ、心配をかけてしまったんだから仕方ないな……俺を心配してくれる人がいるというだけでも嬉しい事だ。

 セバスチャンさんの言葉にヨハンナさんも頷いているのが、少しだけ嬉しかった。


「ワフゥ……クゥーン……クゥーン」

「ははは、レオも心配を掛けてごめんな。よしよし」


 馬が落ち着いたのと、俺の怪我の治療が終わったのを見計らって、レオが俺に鼻先を擦り付けて来た。

 随分心配をさせてしまったようだ、助けてくれた事も含めて、しっかり撫でておこう。


「では、私達はこの者達を連行致しますので」

「一旦、ランジ村ですよね?」

「はい。この時間からラクトスへは少々難しいでしょうからな。村の一角で捕らえておく方が良いでしょう」

「わかりました……あー、俺は少し後に出発するので、先に行って下さい。すぐにレオに乗って追いつきますから」

「……何かまだあるのですか?」


 セバスチャンさんとヨハンナさんは、縛っている商人達をひとまとめにして、1頭の馬に乗せる。

 商人達が渋るように動かないと、耳元で何か囁いたり、レオに視線を送ったりと脅すようにしていた。

 馬に紐を括り付けて、落ちたり逃げ出したりしないようにしながら、もう1頭の馬も連結する。

 そちらの馬にセバスチャンさんとヨハンナさんが一緒に乗って、ランジ村に行くようだ。

 二人で行くのは、商人達を逃さないようにするためだろう。


 二人を見ながら、俺はふと思いついてセバスチャンさんに先に村へ行くよう促す。

 それを受けて、セバスチャンさんは訝しげな顔だ。

 まぁ、酷い怪我をして無理をしてた俺だから、何か無茶をしようとしているのかと疑っても仕方ないか……別に変な事や無茶をしようとしてるわけじゃないけどな。


「村人にも怪我人が出ていましたからね。ここでいくつかロエを作ってから帰る事にします。……村の人には『雑草栽培』は教えないように気を付けてますから」

「そうですか、わかりました。あまり無茶をなされないように……では」

「タクミ様、先に失礼します」

「はい、また後で」

「ワフ」


 商人達を連れて行く二人を見送る。

 馬を連結させてだから、普通よりは当然遅い。

 これなら、ロエを作った後すぐに合流する事ができそうだ。

 村では大っぴらに『雑草栽培』を使えないから、ここで作って行くのが人に見られる心配も無くてちょうど良い。

 ハンネスさんの家の裏で作れば良いんだろうが、それだとそこまで移動する時間もかかってしまうからな……怪我をした人にとっては、治療までの時間が短い方が良いだろう。


「……よし……このくらいかな?」

「ワフワフ」


 ロエをいくつか作って確認する。

 レオがそれを見て頷いているが……もしかすると、あの状況で怪我人の数とか、ロエが必要な人を把握してくれていたのかもしれない。


「それじゃ、セバスチャンさん達を追いかけよう。レオまた頼むな」

「ワフ!」


 ロエをしっかりと懐にしまって、レオに乗る。

 時間はあまりかかってないから、すぐにセバスチャンさん達に追い付けるだろう。

 ……ちょっと懐のロエの葉が、トゲトゲしてて……チクチクするけど……新鮮な薬草だから仕方ないな。


「帰りました。フィリップ、状況は?」


 レオですぐにセバスチャンさん達に合流して、ランジ村まで帰って来る。

 村の入り口は、まだオークの死骸が残っているが、順調に処理されて行ってるみたいで出発前よりは血の匂いも少なくなってるように感じる。

 馬から降りつつ、入り口付近で村人に指示をしていたフィリップさんに、セバスチャンさんが声を掛けた。



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